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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
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第49話 まだ戦える

 ナインは両手で大砲を支える。そしてデューに狙いを定めると、紫色の丸い砲弾を放った。


「下がれ!」


 警戒した魔法使い達は着弾点から大きく距離を取った。砲弾は地面に触れるとバラバラに砕けて、中から色の付いたガスを漏らした。


「猛毒の砲弾…ナイン!やめろ!」

「ガアアア!アアアアア!」


 光太は砲口から手を入れて発射を阻止した。既に騒ぎに気付いた周囲の住人は逃げているが、もしもあの砲弾が人のいる場所へ落ちたら大変な被害が出てしまう。何より、ナインが罪もない一般人を殺めてしまうことになるのだ。


「しっかりしろ!こんなのお前がやることじゃない!」

「アア!アアアアア!」

「会話が成り立たねえ!怒りで我を忘れちまってんだ!ぐあ!?」


 ナインに叩かれた光太は塀に身体をぶつけた。彼女は見失った三人を探しにその場から離れていった。



 デュー、マリー、ウェノの三人は身体を透明にして、念入りにテレパシーでの会話に切り替えてナインの様子を伺っていた。


「探知能力はないようだな。このまま放っておいてもただ暴れるだけだが…どうする」

「ここは日本だ。将来この国を植民地にするためにもこいつは排除しておこう」

「俺はこいつを捕えて兵器として利用するのがいいと思う。最悪コントロールできなくても、街に落とすだけでかなりの破壊が予想できる」


 敵は見えずとも気配を感じたナインは砲口を上に向ける。三人がギョッとしたのも束の間、駆けつけた光太が背後からナインを蹴り倒した。


「撃たないでくれ!頼む!」


 背中に負った傷など構わず、ナインを押さえ付けてひたすら呼び掛ける。しかし彼女は言葉を聞き入れず、再び立ち上がろうと抵抗していた。



 仲間ですら手に負えない暴走状態。それを見たデューはナインを殺すことに決めた。


「上半身と下半身を真っ二つに分ける」

「お得意の風魔法か」


 デューは透明化を解いて攻撃に魔力を集中させた。

 それに気付いたナインは光太を乗せたまま立ち上がり、背中を反らして砲口をデューへ向けた。


「少女に化けていた時に比べると醜い姿だな。悪魔の正体見たりという感じか」

「ガアアア!ゴクンッ!」


 嫌な音がした。今のは装填した際に発生した音ではないのかと肝が冷えた。しかし光太は離れることなく、ナインに叫び続けた。


「お前言ったよな!お兄さん達みたいに立派になりたいって!これがそうなのか!?違うだろ!」

「真っ二つだ!」

「くっ!くそおおおおおおお!」


 光太はナインを放すと背を向けた。そして天空から降りてきた風の刃をその一身で受けきろうと身体を広げた。

 実に非合理的だ。いくら暴走状態のナインでも攻撃に反応して回避できたかもしれないし、そもそも彼の身体では魔法を受けきることなど出来ないのだ。


 本来なら鋭い風の刃で身体が真っ二つになって死ぬはずだった。しかしそこへ、置いてきたはずのミラクル・ワンドが飛来した。


「ミラクル・ワンド!?」


 ミラクル・ワンドによって刃の威力は激減する。それでも恐ろしい威力で、光太は全身を切り裂かれた。


「ああああああああああああ!?」


 風は少年の身体を通り抜けると、その背後で座っていたナインの身体も切り裂いた。今まで叫び狂っていたはずだった彼女は敵に攻撃されているというのに、何もせず静かに光太を見つめていた。




 ナインの精神は今、肉体の奥深くにあった。彼女が立つ足元から、キメラになろうとして取り込んだ魔物の死骸が果てしなく広がっていた。見上げた天上には、自分を庇う光太の後ろ姿が映っていた。


「こんな傷付けるだけの戦い方…ダメだ!」


 暴走状態は既に収まっていた。冷静になったナインは今、柿本の母親を守れなかった後悔と未知なる力の恐怖に支配されていた。


「戦わないと…だけど!」


 こうして葛藤している今も、光太の身体は切り刻まれる。さらにデューがもう一撃魔法を放とうとしていた。このままダメージを喰らい続ければ、光太はいつか倒れてしまう。

 ナインが前に出て戦わなければならないのだ。


「でもまた、キメラの力が暴走したらどうしよう…」


 行動しようと意識すると、それを遮るように不安が浮かび上がってしまった。



「ナイン!しっかりしろ!」


 光太はミラクル・ワンドを掴んだ。切り裂かれる痛みに負けることなく、ナインの心に手を伸ばした。


「光太!僕は──」

「俺はまだ戦えるぞ!お前はもうダメなのか!?だったらこのまま諦めちまうぞ!」


 光太は自分達が勝てれば、その過程で誰がどれだけ死んでも構わなかった。しかし出会ったばかりの人が死んで、暴走するほど参ってしまったナインを見たその時、彼女がどんな思いで戦って来たのかがようやく理解できた。


「俺なんかじゃ勝ち目ないからな!一緒に戦ってきたお前もそれぐらい分かってんだろ!」


 その考え方を変えるつもりはない。しかしここでナインが立ち上がらずにやられるのなら、自分も一緒に死ぬつもりだった。


「僕だって戦いたい!だけどもし、また今みたいにおかしくなったらどうしよう!?」

「俺がこうしてお前の心に手を伸ばす!だから大丈夫だ!」


 急に痛みを感じるようになり、いつの間にか意識は戻っていた。キマイライズによって生成された大砲もなくなっており、今なら立ち上がれるとナインは地面に手を付けた。


「平気で人質を取るようなあいつらを野放しにできない!一緒に戦ってくれ!」

「当たり前だ!」


 肌を切り裂く風が吹きすさぶ。ナインは光太の隣に立ち、技を構えるデューを捉えた。


「暴走状態で得た強力な武器も失い、もう成す術はないと諦めたか。いいだろう、せめてその首から斬り落として楽にしてやる!」


 風はナインの元へ集まるように動きを変えた。


「スゥゥゥ…ハァァァ…」

「な、なんだ?私の魔法が無力化された…」


 何かやられる前にトドメを刺そうと、デューは用意していた第二の風を放つ。しかしその風の魔法すらも、形を崩してナインの身体に吸収されていった。


「攻めの烈火でも守りの堅氷でもお前には勝てない。だからこの新たな超人モードでお前を倒す!」

「新しい能力を生み出したというのか!?…しかし出来上がったばかりの未熟な能力では私達には勝てんさ」


 ナインと光太の心は共に熱く昂ることもなければ、物事を分析できるほど冷静でもない。

 為せば成る。なるようになる。まるでそよ風のように落ち着いていた。それでも少なからず、敵を倒すという突風のような闘志も秘めていた。

 ナインの髪の色は内側だけが変化し、白の中に緑が流れていた。角も緑色に変化したものの、まるで陽炎が起こってるように揺らめいていた。そして全身に緑色のラインが走り、新たな超人モードへの変身が完了した。


「いくぞ!」

「おう!」


 これ以上戦いを長引かせるつもりはない。構えたナイン達の背後から追い風が吹いた。

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