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第28話 「物騒な国だな…」

 次の日、俺達は別の国を目指して海を移動していた。

 俺達の乗っているこのボートは、船底な取り付けた魔法の杖の力で動いてる。ナインは杖から生えるハンモックで横になり、太陽光を浴びながらのんびりと景色を眺めていた。


「ヨーホー船長、このボートどこ向かってるのさ?」

「ロクでもない人間が集まるガンマン大陸さ」


 ガ、ガンマン大陸…名前からしてドンパチやりそうな場所だ。


「国の正義は銃で決めるという正武撃(せいぶげき)法。それかガンマン国唯一にして絶対のルールだ」


 いきなり民度の悪そうな国に連れて行かれる事になるとは…これならカレーライスアイランドでサバイバルしている方がマシだったかもしれない。


「ほら!大陸が見えてきたよ!」


 足元の双眼鏡を手に取り、俺は正面の大陸を確かめた。

 そこは西部劇の舞台と言えるような荒野で、それらしい茶色い町があったり、荷馬車を引く馬が走っていた。


「あそこで修行って…まさか銃を撃つのか!?」

「そうよ」


 双眼鏡から目を離し、ツバキの方を向く。するといつのまにか、全員がガンマンの格好をしていた。


 ボートは猛スピードで大陸に到着すると同時にバラバラに砕けてしまった。どうやら逃げる事は許されないらしい。


「光太カッコいいよ!似合ってる!」


 そして俺もこの国の正装とやらへ着替えさせられた。腰のホルスターには弾を6つ装填出来るマグナムが入っている。


「防具は…?」

「ないわね」

「…撃たれたら?」

「痛いわ。当たりどころが悪ければ死ぬわよ」


 装備はそれだけだ。怪我するかもしれないのに、回復する薬とか便利な魔法グッズは用意してくれてない。

 それにしても魔法がある世界に来て銃ってなんだかなぁ…


 俺達は一番近くにあったタムタウンへと足を踏み入れた。今にもピューヒョロローとクールな曲が流れ出しそうな雰囲気だ。


「お前達…新入りか?」


 ボロボロになった男が現れた。男は指で隠れるように指示して来たので、俺達は近くの建物へと隠れた。


「私達は旅人よ」

「そうか…しかし旅人でも商人でも、今のガンマンに上陸したやつは全員新入りになる…ロイドにこの国のパワーが集中しちまったんだ」

「ロイド…誰なのそれは?」


「最強のガンマンロイド様たぁ俺の事よ」


 次の瞬間、大きな音がした。それと同時に誰かの手で遮られて目の前が真っ暗になった。


「ちょっとナイン、なにすんの!?」

「男の眉間に銃弾が撃ち込まれた。酷い有り様だから見ない方が良いよ」


「この男は俺が寄越せって言った酒を店に並べてなかったんだ。お客様の望んだ商品を用意できないならそりゃ当然死刑だよな。ところでヒヨコみたいな新入りだな。一丁前に銃なんか持ちやがって…」

「悪いかしら。子どもが銃を持って」

「悪くねえ!銃で正義が決まる国、それがガンマンだ。そして俺のウォーロックが、この国で絶対正義を名乗れる唯一の銃だ」


 ロイドと名乗る男は銃を見せつけてきた。俺が持っている物と同じくマグナムだが、所々にキラキラした宝石が嵌められていた。しかも、同じ物が全身のホルスターに収納されているのだ。

 最強のガンマンを名乗ったにしては、あまりにも滑稽な姿である。


「今のガンマンは俺自身だ。調子に乗った真似したら、子どもだろうが容赦はしない」


 そう警告すると、ロイドは近くに停めていたバイクに乗って走り去って行った。


「よし、あいつに勝ってあの身勝手な正義をへし折る。それが私からの修行よ」

「えええええ!?」


 俺、あいつと戦うのか…無理だろ。簡単に人を撃ち殺すような奴だぞ。


 一旦ツバキ以外とは分かれて行動することになり、まずはロイドについて知るためにバーへと入った。


「いらっしゃい…子どもに飲ます物はねえよ」

「射的がしたいんだけど」

「…景品は?」

「この国の現状」


 次の瞬間、店主は5つの酒瓶を俺達に向かって同時に投げた。

 瓶はそれぞれ別の軌道で飛んできているが、ツバキは腰の銃を抜くと弾を3発放った。2つの弾は跳弾して左右の瓶を2つずつ破壊し、中心の瓶も残りの1発で破壊した。


「やるじゃねえか。座りな」

「分かった?これがこの国のルールよ」


 ツバキは今の射的で、自分がただの子どもではないという事を店主に示したんだ!

 銃で全てが決まる国…これがガンマンか。


「3年前、ロイドは鉱脈目当てでこの国にやって来た。奴の銃の腕は凄まじく、当時の凄腕たちは次々と戦いに破れ、鉱山で働く奴隷にされた」

「穏やかじゃないわね」

「全くだ。あいつが来てから自由と無法が両立してたこの国は最低な野郎の欲と正義で支配されちまった」


 ドタン!扉を蹴り開けて入って来たのは、いかにも悪そうな男たちだった。


「親父!酒を持って来い!ダンディボルト酒だ!」

「分かりました、少々お待ちを…やつらの頬にタトゥーがあるだろ。あれはロイドキッズって言ってな、ロイドの子分なんだ」


 唐突に、ツバキは銃を抜いて発砲。ロイドキッズ達のタトゥーに弾を命中させた。


「うわあああ!?何やってるんだよツバキ!」

「うるさい客だったから黙らせたのよ」

「だからって人に向けて撃つかぁ普通!?」

「私は弾でやつらを撃ち抜き、この店の静寂を守った。正義は私よ」


 訳分からん…とりあえず殺してはいないみたいだけど。


「子どもという認識は誤りだったみたいだなカウガール」

「ロイドをこの国のトップから引き摺り降ろすわ…隣に座ってるこのカウボーイが」


 やっぱり俺がやらないといけないのね。昨日の着衣水泳すらマシに思えてきたぞ。


 倒れたキッズ達の処理はマスターに任せて、俺達は店の外へ出た。カラッとした暑さだ。


「ロイドを殺すのか?」

「私の射的見てなかったわけ?つまりこの国では銃を使った伝統的な遊戯に勝利した者こそが正義なの。当然不正はあるだろうし、遊戯に納得行かずに撃ち合いになる事もあるけど、それがロイドって男のせいで当然になってるって感じね」


 バキュン!


 町のどこかから銃声が聴こえた。きっと彼女の言う遊戯が行われたんだ。


「物騒な国だな…ってツバキ?」


 ツバキがいなくなった。彼女のいた場所にはタンブルウィードが転がり込む…やけに大きいな。


「私はここよ」

「いやお前なんて格好してんだよ!」

「ここからは一人でやってみなさい。私はナイン達に合流して次の準備を進めておくから」

「一人じゃ無理だ!俺は銃なんて撃った事ないんだぞ!」

「人はね、撃つ覚悟がなくても撃たなきゃいけない時が必ず来るの」


 コロコロコロコロ…タンブルウィードに化けたツバキが転がっていく。こうして俺は危険な国の小さな町で孤立した。




「銃っていうのがどんな物か試してみるか…」


 落ちていた空き瓶を拾い集め、木製のフェンスの上に並べた。そしてホルスターから銃を抜いたが…重たかった。こんな重量で狙いを定められるのか?


 銃口の上にある出っ張りに、瓶が重なるようにする。それだけで腕がプルプル震えてしまう。


「!」


 トリガーを引いた瞬間、腕が大きく揺れて弾は瓶の上を飛んで行った。

 凄い反動だ。腕が痛い…


「お兄ちゃん、銃の構え方が間違ってるよ」


 バンバン!


 弾を撃つ音が連続し、正面の瓶が割れた。俺の隣に立っていたこの小さな少年がやったようだ。


「…凄いな君」

「使わない左腕で三角形を作るイメージでやってみなよ」


 少年の指導通りに構えて再びトリガーを引いた。弾は外れてしまったが、さっきよりも目標の近くに向かっていた。


「本当だ…」

「後はひたすら続けて慣れるしかないよ」


「コラァ!アンディ!また銃を勝手に持ち出しやがったな!」


 大声を出してドタバタと男が走って来た。男は少年からピストルを取り上げると、思い切り頭を叩いた。


「銃を持つんじゃねえ!ロイドキッズに狙われるぞ!」

「ご、ごめんなさいお父さん…」


 どうやらこの少年の父親みたいだ。暑いのにポンチョまで着ていて、まさにガンマンって感じだ。


「…んで、あんたは誰だ」

「俺は…この子に銃の撃ち方を教わった新入りです」

「新入りか…可哀想にな。もう死んでもこの島から出られねえぞ」

「どういう意味ですか?」

「ロイドがこの国にやって来て3年、この国の正義はロイドになった。力を得たロイドはガンマンを自分の物にしようと、自分を信奉するロイドキッズ達を使った支配を始めている。来る者拒まず去る者逃がさず。大陸から出ようとする人間は捕まえて鉱山送りさ」


 父親は取り上げた銃を並べていた瓶に向け、素早く撃ち抜いた。ツバキも凄かったがこの人はそれ以上の腕前だ。


「昔じゃ銃を持ってないやつは戦えない事情があるか、ただの遊戯嫌いだったのが、今じゃガンマンの下級国民扱いだ。まあどちらにしろ、遊戯はせずに済むんだがな」


 銃を持たないのは遊戯をしない意思表示なのか。


 父親は銃をコートの内側に入れて、空いた手で子どもの頭を撫でた。この子の母親はどこにいるんだろう。


「俺、ロイドを倒します」

「…へっ無理だな。あいつのマグナム、ウォーロックには鉱山で採れた魔法石が使われてる。あれがある限り勝ち目はないぜ」


 魔法石だって?つまり銃にセコい細工がしてあるってわけだな。


「そうだなぁ!しかしお前らは兄貴に戦いを挑むことも出来ない!何故なら俺達が鉱山に連れて行くからだ!」


 しまった!今の話をロイドキッズに聴かれてしまった!

 キッズの一人が大きな音のする笛を吹くと、タトゥーの入った人間が次々に現れた。


「捕まえる必要はないぜボッツ。兄貴言ったんだ。楯突くやつには奴隷にする価値も遊戯をしてやる必要もない。殺して良いってな」

「小僧、アンディを連れてこの町から離れろ」

「お前達は──」


 敵が語り終える前に、父親は再び抜いた銃で眉間を貫いた。それでもまだまだ敵は多い。

 これだけの数を相手にするなんて無謀だ!


「お父さん!」


 俺も加勢したかったが、これまでの戦いとはわけが違う。撃たれたら終わりだ。

 アンディを連れて、俺は近くの馬に飛び乗った。そしてパニックになった馬は柵を飛び越え、町から離れていく。背後では銃撃の音がずっと続いていた。


「お父さん…どうして銃持ってるのに撃たなかったんだよ!…お父さん…お父さんがあああああ!」


 俺はこの子の父親を置いて逃げてしまった…恨まれるのは当然だ。

 こうなったら、なんとしてもロイドを倒さなければならない!


「ロイド倒すって言ったけどお兄ちゃんなんかに出来るわけないよ!」

「そうだ。だからアンディ、俺に銃の撃ち方を教えてくれないか?」

「教えたって勝てるわけないよ!」

「勝てなくても…あいつの銃を壊せれば、いつかきっと誰かが倒してくれる。頼む」


 俺が頼み込むと、アンディは涙を拭いベムタウンに行くよう言って来た。俺は馬を走らせ、そのベムタウンがある方角へと進んだ。


 風に押されて馬が荒野を駆ける。前を転がるタンブルウィードが俺達を案内してくれているみたいだ。




 ベムタウン。そこには銃の練習が出来る場所があった。各地にある練習場の中でだけは、遊戯は禁止という暗黙のルールがあるそうだ。


「トリガーを引けば弾は飛んでいく。それまでは耐えるんだ」


 アンディのアドバイスを受けながら、俺は的に向かって銃弾を撃ち続けた。腕は痺れて堪らないが、それでも命中率は上がっている。


「いいよお兄ちゃん。次は動いてる的だ」


 今度はアンディが投げたディスクに銃を向け、1枚ずつ確実に撃ち抜く練習である。しかし5枚のディスクに1つも弾が命中するはことなく、地面へ着地していった。

 狙う的が動いただけでここまで難しくなるのか…!


「そのまま狙っちゃダメだ。動きを予想して銃を向けるんだ」


 ディスクの動きを予想する…


 それからアンディが再びディスクを投げた。


 1枚目はそのまま真っ直ぐ…撃ち抜いた!


 2枚目はその場で一瞬止まる…命中!


 3枚目と4枚目が重なる瞬間…二枚抜きだ!


 そして最後の一枚はディスクの破片を食らって動きがブレる。ならば落下地点を予測して…当てた!


「凄いよお兄ちゃん!もうこんなに撃てるようになるなんて!………だけどロイドには勝てないよ。あいつの銃はインチキなんだ!」

「おいガキ…聞き捨てならねえな。兄貴がインチキだって?」


 偶然居合わせたロイドキッズにまた絡まれた。こいつらどこにでもいるんだな。


「そうだよ!魔法を使って弾を操るなんてガンマンの恥だ!弾は魔法なんかじゃなくて、撃つ人の想いを込める物だ!」

「ふぅん…お前の弟、教育が出来てないんじゃないか?」


 そして兄と勘違いされる俺。幸いにもキッズはこいつだけ。腕を試すにはちょうど良い機会だ。


「どうか弟を許してくれませんか…」

「ダメだ。もし許して欲しければ…俺と遊戯しようぜ?」


 俺は練習場を出た。ロイドキッズの男は腕時計を地面に置いてホルスターに付いた銃を叩いた。


「お互いに背中を向ける。そして腕時計が鳴った瞬間、バキュン!お前は死ぬってわけだ」


 背中を向けて、音による合図と同時に振り向いて撃つ。遊戯のルールは至ってシンプルな物だった。


「お兄ちゃん…」

「心配するな。危ないから隠れてろ」


 ヒューっと風が吹いた。お互いの銃がホルスターに入っているのを確認すると、俺達は背中を向けた。


 心臓がバクバク言っている。そうだ、失敗したら俺は死ぬんだ。集中しろ…









 ピピピピピピピ!







 


「俺の勝ちみたいだな」

「弾が…外れた…だと!?」


 この遊戯、勝者は俺だった。俺の撃った弾は見事キッズの銃を破壊していた。


「…なぜだあああああ!」


 俺はアラームと同時にその場から前へと走った。そして男はこちらを向かずに発砲。弾は異常な動きをして、俺が立っていた場所へと着弾した。


 そして命中を確信して油断していた男が身体を向けて、銃を持った手を見せた瞬間、俺は狙い撃った。


「お前の銃はロイドが持っていた物と同じだった。そしてアンディは言った。弾を操ると…だからこういうセコい手段で来ると予測出来た」

「そんな…」

「アンディの発言は許してもらうぞ」


「許さない…許さないぞ!ロイドキッズの俺をよくもおおお!殺してやる!」

「遊戯は俺達の勝ちだろ!」

「知るかそんなの!」


 ヤバイ!こいつ、他にも銃を持っていやがった!


「見苦しいぞこのド新人!」


 どこから飛んできた銃弾が、男の胸を貫いた。


 俺の仲間が助けてくれたわけではない。今の異常な動きをしていた弾はまさか…


「へっ。銃を壊された時点で部下失格だ」

「ロイド…!」


 バイクに乗ったロイドが現れた。彼はバイクから降りると、仲間が死んだのを確認して俺の方へ歩いて来た。


「見てたぜ。やるじゃねえか」

「な、なんだよ…来るな!」


 構えた瞬間、俺の銃に横から飛んで来た弾が命中し、手から跳んでいった。


「怖がるなよ。なあ、俺の部下にならねえか?」

「誰がなるか!お前みたいな悪党の仲間に!」

「悪党?ハハハハハ!そりゃあ価値観が違うからだぜ。この国の正義は金持ちでも政治家でもねえ!遊戯の勝者。つまり俺だ」

「インチキの鉄砲使ってる癖に何が正義だ!」


 この距離だと魔法なんてなくても命中する。何か手はないのか…!


「鉱山から採れる魔法石。あれを売り捌いてガンマンは変わる。鉛弾の飛び交う発展途上国から金の回る先進国に!」

「くっ…」

「論破してやったみてえだな。それでも納得できねえなら…ここで殺すか。正義を認められない弱小の悪党を」


 死ぬ…のか?




 BANG!




 銃声がした。しかし俺は生きていた。そして俺に向いていたロイドの銃が破壊されていた。


「て、てめぇ…!」


「悪党は…お前だ!」


 絶体絶命の窮地から俺を救い出したのはアンディだった。彼は俺の銃を拾って、ロイドのウォーロックを狙い撃ったのである。


「お前が来るまで、遊戯で誰かが死ぬなんてことは滅多になかった!弾が飛び交う国にしたのはお前だ!………そりゃ人間同士で撃ち合う事もあったけど、それは遊戯じゃない。あれはお前達の持ってない誇りを賭けた決闘だった!」

「知った風に喋ってんじゃねえ…殺してやる」

「発展途上なのは金の事しか考えられないお前の頭の方だ!」


 なんて強い子だ…自分の父親が殺されたのに、それでも前を見ている!


「銃は壊した…諦めろ!」

「…ふん…ハハハ…ハハハハハ!」

「自慢のウォーロックを壊されて、実質お前はアンディに負けた!この国から出ていけ!」

「ハハハハハ!…お前の言う通りだ。俺達の遊戯には誇りがなかったかもしれねえ…だから汚された誇りの為に…今からお前らを殺す!」


 こいつ、ウォーロックをいくつも持ってやがった!


「逃げろアンディ!」

「俺はこの国の正義!ガンマンだあああああ!」




 BANG!




 またロイドがトリガーを引こうとしていた銃が破壊された。しかし今度はアンディではない。


「アンディなんかに負けた時点で、正義を語る資格はねえよ。ロイド」


「お父さん!」


 アンディの父親だった。まさかあの大勢を相手にして生き残ったのか!?


「お前は…!3年前に殺したはずの国王(ガンマン)…ウッディじゃねえか!」

「弾に想いが込められてない。だから小僧の銃が壊せず、アンディの手に渡った。そしてアンディにお前の銃は壊されたんだ」

「テメェ!」


 BANG!


 二度ある事は三度あると言うように、ロイドはまた同じ銃を抜こうとする。ウッディさんは彼の僅かな動作も見逃さず、威嚇射撃を行った。


「銃を捨てろ…手ェ上げな」

「ぐっ………へ、今まで命惜しさにどこかで隠れてたのか?」


 まだロイドのチョッキには無数の銃が残っている。それも捨てるようにと、ウッディさんはマグナムを空に向けて弾を撃ち尽くした。するとロイドはニヤ付いた。


「ふんっ馬鹿め!今ので弾を撃ち切ったな!」


 そして取り出したのは大きなスイッチが付いたリモコンだった。


「こいつを押した瞬間、鉱山中に仕掛けた爆弾が起動する。お前達の仲間全員は生き埋め。次会う時は化石かもな。クックック…なにっ!?」

「やめろー!」


 アンディが銃を向けていた事にロイドが驚き、こわばった指がリモコンのスイッチを押し込んだ。そしてアンディがトリガーを引いた銃は弾切れだった。


「うわあああああ!しまった!俺の鉱山が!俺の奴隷があああああ!」


 しばらくして、遠くの方から爆発の音が聞こえてきた。鉱山が爆発したんだ…そこで働かされていた人たちはきっと…


「安心しなさい。あそこにいた人達はあんたの仲間も含めて全員無事よ」


 その時、別れて行動していたツバキ達が建物の上から姿を見せた。


「な、なにいいいいい!?」

「あんな鉱山、この国じゃあってもただ迷惑なだけだから爆発だけはしてもらったわよ」


「俺が恐れていたのはお前の銃なんかじゃない。皆を殺せるその爆弾のリモコンだ」


 ウッディさんは腰に銃を一旦戻し、数歩下がってロイドに言った。


「人質のいないお前なんて怖くねえ。好きなタイミングで銃を抜けロイド。遊戯だ」

「くぉんのおおおおお!」


 怒りの叫びが町に響く。騒がしくし過ぎたか、何があったのかと気になった町の人たちが集まって来た。


「ロイドと…ウッディ?ウッディだ!」

「ウッディおじさん!生きてたのかよ!?」


 そして町の人たちの歓声が上がる。そんなに凄い人だったのか。


「ぐうううう!お前らは何なんだ!急に俺の国に来たと思ったら全部滅茶苦茶にしやがって!」


「僕はナイン・パロルート」

「パ、パロルート…まさかお前は…!あの戦闘部隊の…」


 代表としてナインが自己紹介をすると、パロルートという名字にロイドが反応を見せた。


「俺を見やがれロイド!相手はこのガンマンなんだぜ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ロイドの銃弾は望んだように飛んでいく。つまり、抜く必要などないのである。

 両手が銃に触れたロイドはトリガーを引いた。


 そしてウッディさんは、素早く装填した5発の弾を全て放った。


 たった4発で自分と息子であるアンディに向かう弾を撃ち砕き、ロイドの両手を負傷させて銃を撃てなくさせた。

 そして残りの1発はロイドの頭部スレスレを飛んでいき、ついでに髪の毛も持っていった。


「うわあああああ!?俺の髪が!」

「ロイドキッズを連れて出ていけ。そしてこの国に負けたという屈辱と共に生きていくといい」


「畜生…許さねえぞ!ウッディ!そしてパロルート!俺の野望をよくも!絶対に復讐してやるからな!覚えてやがれえええええ!」


 捨て台詞を吐いたロイドはバイクに乗って逃げ出して行った。


「お父さん!あいつやっつけなくて良かったの?」

「あんな小物を殺さなきゃいけない弾が可哀想だろ」

「…それもそうだね!」


 こうしてガンマン大陸からロイド達は去って行った。これからこの国の遊戯は、ロイドが来る以前の伝統的な物に戻っていくのだろう。


「風の噂で聞いていたが、まさか君が9人目のパロルート隊員、ナイン・パロルートだったとはな。協力に感謝する」

「…これがパロルートの使命ですから。それに今回頑張ったのは光太だと思います!」


 ナインとウッディさんの会話で俺の名前が出てきた。


「小僧…いや、カウボーイ。今度来たら射撃の腕、見てやるよ」

「は、はい。どうも…」


 正直、もうこの国に来たくはない。ウッディさんの背中で疲れきったアンディが眠っている。俺も寝たいや。


「それじゃあな…」

「お父さん…むにゃむにゃ…」


 日が暮れてきた。今日はこの荒野で野宿だろうか。なるべくツバキ達のテントからは離れるようにしないと…


「あんたくだらないこと考えてないでしょうね?」

「いや全然なにも!それより明日は何をやるんだ?」

「明日はクエストをやるよ」


 教えてくれたのは明日の修行担当のサヤカだった。それにしてもクエストか~…


「…え?クエスト?急にファンタジー要素出てくるじゃん」

「うん。ナイン、町にワープ出来る杖ってある?」

「あるよ!はいっスキップトラベル・ワンド!一度行った場所にならこれで行けるよ!」


「俺達鉱山で避難指示しかしてなかったな」

「まあ良いんじゃない?光太の修行なんだし」


「はーい皆集まって~」


 サヤカに呼ばれて6人が密集した。エレベーターでもないのにこんなキツキツになる必要ないだろ。


「それじゃあ早速…えいっ!」


 サヤカが杖を掲げると、俺達の周りに純白の羽が舞い散り、身体が物凄い速さで空へと飛んでいった。


 こうして俺達はガンマン大陸から出発し、次の修行を行う大陸へと向かったのだった。

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