第47話 烈火、消耗
超人モード烈火となったナインは、炎を下方に向かって噴射することで上昇。これから戦う三人の魔法使いと高度を合わせて停滞した。
「お前達、一体何者だ!」
「語るなよ。万が一私達が負けた場合、情報をくれてやったことになるからな…万が一、だが」
「青い鯨がどういうやつなのか分かっておきながら何故放置している!どうして僕達の邪魔をするんだ!」
「トライアングルフォーメーションでいくぞ」
この会話で何かを聞き出そうという意思はない。ミラクル・ワンドの力でナインと光太の心は繋がっており、会話を始めた時点で作戦を立てていたのだ。
「気を付けろ。相手が一人なら圧勝できるけど、こいつらは連携で仕掛けてくるぞ」
「なら各個撃破だ!君はその連携を崩してくれ!」
光太は妨害用の杖を求めてバッグに手を入れる。
ナインが闘志を燃やすと、身体から溢れる炎の勢いが増した。
風がなく炎は上に向かっていた。しかし敵の二人が動いた瞬間、炎は大きく揺れた。
ナインは囲まれた。その包囲から逃げ出そうと猛スピードで飛び回るも、三人の魔法使いは包囲を崩さず追従してみせた。
「烈火のスピードについて来た!」
「撃て!」
さらに魔法使い達は水を放つ魔法で攻撃を開始。ナインは動きを止めると火力を上げて、水を触れる前に蒸発させた。
「堅氷に切り替えるぞ!」
「包囲されてるのに守りに入っちゃダメだ!このまま行く!」
ナインは烈火を維持しつつ、彼女に化けていた男の方へ突撃した。
「少しは頭を使って戦ったらどうだ?私達はチームプレーをしているのだぞ?」
ナインの拳は男の顔に届かなかった。
他二人の張ったバリアが彼女の拳を止めると、男は水の魔法を発動。ナインを自分達の中心に押し戻した。
「か、火力が一気に…超人モードの状態で相性の悪い攻撃を喰らうと、魔力をゴッソリ削がれちゃうのか!」
「バリアは使わなかったぞ!ここぞって時に使うからな!」
心に語りかける光太は、利き手でバッグから取り出した杖を構えた。そして空中にいる敵の一人に向かって魔法を放った。
「デュー・エル。足元から投擲物が来てるぞ」
「分かっている」
光太はバレット・ワンドで周囲の物体を弾丸として発射した。
しかしデューと呼ばれた男は足元にバリアを発生させて、攻撃を全て弾き返してしまった。
「デュー・エル、それがお前の名前か!」
「何も知らない無知な人間がその名前で呼ぶな。撃て!」
再び魔法使いによる放水攻撃が行われる。その勢いは消防車のホースから放たれる水よりも強く、常人なら骨が折れていたところだ。
光太は杖を切り替えた。スカイダッシュ・ワンドを噛み咥えた彼は上昇し、魔法使いの背後を取った。
「こいつ、そうか飛べたんだったな!」
「死ね!」
光太は杖を鈍器代わりに振るうが、魔法使いはそれを回避。彼の身体に杖を向けると、何もない空間で爆発が発生した。
「ぐあっ!」
爆発の瞬間、鈍器として使った杖は手放された。そしてその勢いに乗って、ナインの元へやって来た。
「これは!オキシゲン・ワンド!」
それは酸素を発生させる魔法の杖オキシゲン・ワンドだった。
酸素を糧にナインの炎は増していくが、これは諸刃の剣である。酸素を発生させるためには魔力を消費する必要があり、これによって超人モードの維持と魔法の杖を発動する分の魔力を一気に消費してしまう。これはパワーの先借りとも言える行為なのだ。
そして敵はそれを見抜いた。自分達の放水で一気に弱ったナインを見ると、攻撃を止めた。
「はぁ…はぁ…」
「身体が線香花火のようになってるぞ。そのまま死んでしまうんじゃないか?」
「デュー・エル、どうするつもりだ」
「こいつを捕獲する」
「そうか、こいつは確かサキュバスっていう別世界の生き物だったな。解剖することで魔法への理解が深まるかもしれない」
「一体誰からそんなこと…」
「マリー・エル、ウェノ・エル、キャプチャーだ」
「「了解」」
三人の魔法使いが杖を掲げる。それぞれの杖の先に付いたクリスタルは光の線によって繋がり、三角形を描いた。
「か、身体が動かない…!?」
キャプチャーの中にいるナインは動けなくなった。このままでは魔力の無駄遣いだと感じたその時、超人モードから元の状態へ戻った。
爆発を喰らいながらもなんとか生きていた光太は、空中に留まりながら策を考えた。そしてこれしかないと思い付いた作戦をナインへ送った。
魔法使いがナインへ近付くと、光の三角形も縮んでいく。この線がナインへ触れた瞬間、彼らがキャプチャーと呼んだ術は成功するのだ。
「致命的な技だな…敵に近付かないと発動しないなんて…」
「剣と魔法の世界の住民はその有り難みが分からないからそういう事が言えるんだな。敵を捕縛するなんて魔法は今まで使えなかった。それが三人で力を合わせてようやくできるようになったんだ」
「ホッシーは…水城星河なら一人でできるよ」
「五芒星五重封印か。あれは封印した物を取り出すことのできない欠陥技だ。あれを封印だと言い張るとは、魔法使いの恥さらしもいいところだ」
三角形は縮んでいく。そしてナインに触れる瞬間、光太はミラクル・ワンドに強く願った。
「守れ!」
ナインの中心からバリアが発生。バリアは線を粉々に砕き、魔法使いを大きく吹き飛ばした。
「なんだ!?」
「封印に失敗した!」
「ナイン・ワンド!」
そして光太の魔力を使ってナイン・ワンドを発動した。
「何か現れたぞ!」
「魔力を圧縮した!強力な攻撃が来るぞ!気を付けろ!」
警戒するデュー達とは裏腹に、羽根で滞空するナインはその場から動かなかった。
「光太!へばってないよな!」
「言わなくても伝わってンだろ!当たり前だ!」
「ならまだまだやるぞ!」
なんと彼女はナイン・ワンドを自分の胸に突き刺したのだ。
「自傷することで発動するタイプの魔法か!」
何をやっているのか理解できないデューは、そう結論付けるしかなかった。しかしナインは自分のことを傷付けてなどいないのだ。
「うおおおおおおお!」
「ナイィィィィイン!」
ナイン・ワンドとなった光太の魔力がナインの身体へ流れていく。そして彼女は再び烈火へと変身した。
ナインはワンドという形になって集まった光太の魔力を取り込んで自分の物とした。
即ち、魔力の回復を行ったということだ。
「また燃えた。しかし──」
語りの途中、デューへ高速接近して仕掛けたパンチはまた防がれた。
「同じ手では私達は崩せないぞ」
「ならどうしてキャプチャーとやらを使ってこない!」
「ふん…」
「三人揃ってようやく使えるようになったっていう大技だ。消耗が激しいんだろ」
ナインは後方へ炎を噴射。バリアを突き破り、デューの顔面に拳をぶつけた。
「ガラスみたいに軟弱なバリアがその証拠だ!」
「くっ!トライアングルを維持!消耗したのは敵も同じだ!」
戦いはここからだ。ナインはファインディングポーズを取り、デューに立ち向かっていった。