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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス

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第44話 「…て?」

 長い髪の女に挑んだけど僕達は勝つことができなかった。その上ぷらはに助けられてしまった。

 事態が終息した後、僕達は空さんと合流した。


「良かった~!無事だったんだね!」


 ぷらはが来る直前、誰かが女を狙撃した。だけど空さんだったらぷらはがログアウトした時点で合流できたはずだ。一体誰なんだ…?


「…ログアウトするぞ」

「え?もう?」

「ナイン、三日後の正午にここで再会しよう」

「う、うん…それまではどうするの?」

「…気持ちの整理だ。あいつらは俺達を探し出して、青い鯨が出た時に襲ってくるだろう。そうなったらもう逃げられない。青い鯨を消したいっていう俺のワガママに付き合ってくれる必要はないし、俺や他の誰かが離脱してるかもしれない。死ぬかもしれないゲームを無理にやる必要はないんだ」

「いつになく弱気だね…ウドウ達が来なくても僕はやるよ。あんな危険なやつらは放っておけない」

「すげえな…俺はぷらはがガチトーンで喋ってるの見てビビっちまったよ」

「ウドウ達だって僕が来るずっと前から戦ってきたんでしょ」


 ウドウと空さんがログアウトした。

 ウドウ達は守るために仕方なく人を(たお)した。だけどぷらは達は自己利益のために人を殺したんだ。そんな狂人相手に臆してしまうのは当然だ。それでもウドウ達とはまたこの世界で再会するだろう。


 現実へ戻った僕は時計を確認した。ログインしてしばらくしたら長い髪の女と戦って、それだけで1時間経っていた。


「あれ?何してるの?」


 リビングにいた光太はパソコン・ワンドで調べ物をしていた。


「アドバンスセブンスの解説とか色々覗いてんだよ。だけど青い鯨に関する動画は一つもないな。あったとしてもきっと削除されてやがる」

「ユッキーは?」

「風呂だ…くっそ~!こうなったら世界中のネットワークをぶっ壊してログインどころかゲームすらできないようにするしか…」

「そんなことしたら世界中大パニックだよ!?」

「言われんでも分かってるわ!なあナイン、何かいいアイデアないか~?」

「アイデアって言われても…スカイアークに乗り込んだ時みたいに、ガジェットクラブに関係する物を調べるしか…」

「結果は変わらないと思うけどな…それにまた魔法使いに襲われるかもしれないし」

「う~…そうだ!いいこと思いついた!」


 これをやるには広い場所の方がいい。そう思って僕と光太はアパートの前へ移動した。


「大体想像ついてんだけど一応尋ねるわ。なにすんの?」

「頭が良くなる杖でナイン・ワンドを作って光太にぶつける!多分数秒したら脳がショートしちゃうかもしれないけど、それまでに閃いたこと口に出して!」

「ふざけんな!だったら頭が良くなるインテリジェンス・ワンドだけでいいだろ!」

「インテリジェンスは一時的に膨大な知識を脳に送り込むだけの杖だ!ショートするまでの僅かな時間にどれを伝えるべきかって情報の取捨選択をするセレクション・ワンドと、ハッキリと物事を伝えるスピーチ・ワンド!あとは気を失ってから脳を早く回復させるためにスリープ・ワンドとか色々混ぜなきゃいけないんだ!」

「うるせー早口オタク!もっと簡潔に述べろ!」

「こんな無茶なことを頼めるのは君しかいないんだ!」

「甘ったるいセリフなんかで俺が乗せられるとでも思ったか!?」


 ダメか…だけどこんな危険な方法に耐えられそうな人間も僕が知る限り彼しかいないんだよな…

 上げてダメなら下げてみるか!


「…恥ずかしくないのか!ユッキーやホッシーは魔獣と戦えるし、狼太郎は別の惑星だ!サヤカ達だって今頃学園でもっと強くなってる!それなのに君はどうだ?全然変わってないじゃないか!」

「お前さ!それってさあ!それってさ!?」

「強敵に勝てなんて言わない!だけどせめて役に立てよ!」

「言ったな!?…くそ…分かったよやりゃあいいんだろ!撃ってこいよ!ナイン・ワンド!」


 光太が呪文を口にする。すると僕が必要としていた魔法の杖が融合してナイン・ワンドとなった。僕はそれを手に取ると、離れた場所で腕を組んで立っている光太に目掛けて投擲した。


「う…ああああああ!?」


 杖を受けた光太はその場で倒れて頭を押さえた。今、彼の頭はスーパーコンピューターを超えたハイパーコンピューターとも呼べる程のスペックとなって、ガジェットクラブ本社を探る方法を計算している。


「分かる…分かるぞ…!ハゲを治す治療薬!気に入らないキャラの声優を叩く害悪オタクの歪みきった精神性!絶対に成功するダイエット方法!」

「そんなことよりもガジェットクラブ!」

「そうだ!ニュースだ!発売日前後のニュースを探れ!あれだけ利益の出てるゲームだ!絶対に黒い動きがあったはずだ!じゃなきゃ青い鯨を野放しにしたりはしない!て…て…」

「…て?」

「天地開闢!」


 最後に四字熟語を叫んで、光太は気を失った。


 頑張ってくれた彼を部屋に連れて戻った。早速、お風呂場から出てきたユッキーと共に情報収集開始だ。


「僕は発売後のニュースを調べてみるよ」

「それじゃあ私はその反対だね」


 パソコン・ワンドを2本用意して、ニュースだけでなく有識者の集まる掲示板を読み漁った。






 日が昇り始めて瞼が重くなってきた。ユッキーが気になるニュースを見つけた。


「発売日のちょうど一週間前、会社の研究室でヘッドギアを使用していた社員の女性が心肺停止の状態で発見され、その後死亡が確認された…」

「会社名は伏せられてるけど、これってガジェットクラブなんじゃないかな…ぶっちゃけて言うとこれ以外に怪しいニュースが見当たらないし、これ以上調べるのは正直つらいって言うか…」

「同感。ユッキーは休んでて。僕はこの記事を書いた人に話を聞いてみる」


 念じた相手に電話を掛けることのできるテレフォン・ワンドの出番だ。僕は記者を念じて受話器を取った。それから3コール後、男性が電話に出た。


「…ん…誰だ?こんなクソ朝早くから」

「あの、もしもし。東才(とうさい)新聞というサイトでおよそ1年前、ヘッドギアを使用していた女性死亡。過酷な労働環境が原因か、という題名の記事を書かれた中居(なかい)和正(かずまさ)さんのお電話で間違いないでしょうか?」

「そんな記事書いたような…何の用だ」


 こ、(こえ)ェ~!記者ってもっとヒョロっとしたイメージだったけど、この喋り方はまるでヤクザだ!絶対顔に傷があるって!


「この記事に関してお尋ねしたいことがあります。少々よろしいでしょうか」

「あ?そんな昔に書いた記事のことなんて覚えてねえよ」

「この会社というのはガジェットクラブではないでしょうか!?」

「…好奇心であの会社を追ってんならやめときな。ありゃ普通の会社じゃないぜ。なんで未だに記事が残って生かされてるのか不思議なくらいだ」

「せめて女性について!親族の実家とか少しの情報でもいただけませんか!?」

「…東京都利瀬(りせ)市。柿本(かきもと)という名字の家を当たれ。これ以上繋いでるとロクな目に遭わなそうだから切るぞ」


 中居さんは電話を切った。態度はいい人じゃなかったけど、かなり有力な情報をくれたぞ。こんな風にあっさり行くなら最初からこのやり方で調べれば良かった。


 目指すは東京都利瀬市。僕は目覚めない光太と一緒に、空路でその場所を目指した。

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