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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
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第42話 逃走劇

 ナインが扱えるギリギリまでEPを込めたエネルギーボール。そのエネルギーによって強化された彼女のエネルギービームは、真下に倒れていた長い髪の女を飲み込んだ。


「はぁ…はぁ…」


 建物を蹴って上がって来たウドウがナインを抱えて戦っていた場所から離れた。今は埃が立って姿が見えないが、もしかしたら生きているかもしれない。そう警戒を緩めなかった。


「やったよ」

「お前の攻撃は良かった。これで生きてたらレベル差とあいつ自身の問題だ」


 風が吹いて埃が飛んでいく。女は既に足を再生させて立ち上がっており、残ったダメージが回復するのを待っていた。

 ウドウ、そして離れた場所でライフルを構える空はそれを見逃さないと発砲。だが弾丸で与えられるダメージは限られており、攻撃を浴びせながらも女の再生を許してしまった。


「あいつ何レベなんだよ!」

「そもそもレベルという概念が存在するのか…?今ああして立ってる姿を見るまで、あいつはNPCと同じで倒せる存在かと思っていたが…」


 相手はゲームシステムとは関係ない、全くの異物だと思ったウドウ。敵は魔獣かもしれないという可能性に辿り着いたナイン。

 これからどうするべきかという考えに対して、二人は同じ答えを出した。


「逃げよう!」

「撤退だ!」


 ウドウはピストルのマガジンを切り替えて頭上に発砲。銃口から放たれたのは光を放つ信号弾だった。

 様子を伺っていた空は、逃走の必要がある時に撃つと決めていた信号弾を確認した。光の向かう方角で合流できると信じて、彼女は狙撃地点から移動を開始した。



 女は完全に回復すると、ナイン達が逃げた方向へ走り出した。恐ろしい脚力の女は、あっという間に二人に追い付いてしまった。

 屋根を伝って逃げていたウドウはライフルを構えると周囲の建物に発砲。着弾と同時に弾は爆発を起こし、追って来る女の元に瓦礫を落とした。


「弾丸ほどじゃねえけど痛いだろ」


 女は瓦礫を浴びながらも速度を落とさなかった。


「あちゃあ…どうしようもねえな」

「ならスモークで目眩ましだ!」

「無駄だ。あいつはさっきの戦いで真っ先にお前を狙った。きっと位置が分かるんだろうな」


 女は壁を駆け上がり、ナイン達と同じく屋根を走り出した。


「パルクールか。やるな」

「感心してる場合かよ!?…あ!正面!」


 ナイン達が逃げる先では、青い鯨が出ているのにも関わらずプレイヤー達が戦っていた。


「…ガードロボットは!?この街って戦っちゃいけないんじゃなかったの!?」


 一瞬覗いた建物と建物の間の路地。ウドウは大破したガードロボットを見逃さなかった。


「誰かが壊してるな。ガードロボットを倒すなんて相当手練れだぞ」

「そんな!?」


 ウドウが目視したのは一機だけだが、既に街中のガードロボットが破壊され、戦い放題の環境が出来上がっていたのである。


 ナイン達はプレイヤーの集まる場所を避けつつ、女からの逃走を続けた。


「古いゲームの敵みたいに俺達のルートを辿ってくれりゃあいいのにな。最短ルートで詰めて来るぞ」

「ウドウ!もっと強い技あるでしょ!?覚醒ってやつであいつやっつけてよ」

「海達か…口を滑らせたな」


 ナインの言う通り、このままでは全力を出さずにやられてしまう。

 倒せないとしてもやるしかない。ウドウは覚醒の使用を決断した。


「覚醒は時限強化システムだ。俺が覚醒する双聖剣士みたいにデメリットもある。だがそれだけ強力だ。よく見ておけよ」


 ウドウは光と闇の聖剣を召喚して覚醒。ディアゴロを倒した時の姿へ変身した。


「レベル測定不能!?」

「気にするな!覚醒したらそういう表記になるんだ!」


 ウドウは双聖剣士固有の技であるジ・シル・エンバリオンを準備する。しかしこれを発動すれば覚醒が解除されてしまい、1時間はEPがゼロのままになってしまうのだ。


「ナイン!これから1時間、俺は役立たずだ!その間、何としても守ってくれ!」

「えぇ!?」

「ジ・シル・エンバリオン!」


 聖剣ブライダルガンから放たれた光に女は飲み込まれる。

 ウドウが元の姿に戻るのを見たナインは、彼と女の間へと並走する位置を変えた。


「凄い技じゃん!なんで今まで使わなかったの!?」

「これを使うとEPがゼロになるんだ。それも1時間、回復することができない」

「でもウドウって銃で戦うよね?EP必要なの?」

「俺や海達の装備にはEPを払うことで攻撃の精度やクリティカル率を上げる物があるんだ。だからお前でも今の俺なら倒せるぞ」

「なら僕が守らないとね」


 ウドウが身を危険に晒してまで放った一撃で、女は一体どうなったのか。それを確かめることもできないまま、次の脅威が二人を襲うのだった。




 何か嫌な感じがしたナインは辺りを見渡した。そして接近してくる少人数のグループを視野に捉えると、如意棒を屋根に突き刺して先端を握った。


「伸びろ!」


 そう命令すると、まるで植物が育つように如意銀箍棒が伸びていく。荒業でスピードアップしたナインは、先に進もうとしていたウドウの手を取った。


「あいつら僕達を狙ってる!」

「こんな時にか…!」


 銃弾や魔法が飛んでくる。二人は攻撃を喰らったフリをして路地に飛び降りて、最寄りの建物に逃げ込んだ。




 そこは何の変哲もない、コンビニのようなアイテムショップだった。


「店員がパニック起こしてるよ」

「近くで戦いが発生するとこうなるんだ。このまま店の奥に隠れるぞ」


 ウドウが先頭を歩き、カウンターの向こう側にある扉を通る。その先には店員が休憩を取る部屋や在庫品の置いてある倉庫があった


「凝ってるな~」

「実際に物が売り切れたりすることはない。ここは盗みをするプレイヤーのために用意されたような場所だからな」


 出入口の方から大きな音が聴こえ、続いて銃声が轟いた。

 二人は長テーブルの下に隠れると、各々の武器を構えて不意を突くという作戦に出たのだった。




 店内の方から聴こえていた銃声が止んだ。それから足音が近付いてきた。


「おそらく一人だな。お前は扉の前に立って、開くのと同時にエネルギーバリアを張れ」

「もしかして僕ごと敵を撃ち抜く気…?」


 その言葉に対しての回答を聞く暇はなかった。

 会話の声が聴こえたのか、通路からの足音が駆け足になる。

 それからすぐ、目の前の扉が開き始めたことに反応したナインは反射的に技を叫んだ。


「エネルギーバリア!」

「死ねぇ!」


 扉を開けたプレイヤーの攻撃によってエネルギーバリアが砕かれる。しかしそれと同時にナインの脇を通り抜けたウドウが、ライフルの銃口を相手の胸に押し付けた。


「ひぅ!?」


 銃口を突き付けられた瞬間、相手は即ログアウト。青い鯨が出ているのにも関わらずログアウトできるのは、チート所有者の特権だ。




 仲間がログアウトしたことに気付き、他のプレイヤーが続々と集まって来る。今のような戦法は不用心な人間にだから通用した物で、警戒したプレイヤーが複数人で来るとなると話は別だ。


「ど、どうしよう…!?」

「青い鯨が消えてるのを祈るしかねえな」


 そう言いつつも祈ることはせず、外側の壁にアイテムを設置していくウドウ。それは誰がどう見ても爆弾と呼べる代物だった。


「ウドウ!」


 ナインはウドウをそばに呼んで、タイミングを見計らう。


 そして彼女達を狙った。プレイヤー達の突入と同時にエネルギーバリアを展開。ウドウは爆弾の起爆スイッチを押した。

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