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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
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第38話 「え?あの、僕今は──」

 僕達は朝日が昇り始めるまで他プレイヤーに聞き込みをした。そして一つのバグに関する情報を聞くことができた。


「永久機関の動作アニメーションが止まる…か」


 ラグドッジの中心には噴水のような永久機関が存在する。そこの水が時折凍ったように止まるそうだ。


「アレじゃないの?一定以上離れた場所から見てたからアニメーションが簡略化されたり、ラグでそう見えたりとか」

「それにしては目撃情報が多いわ。張ってみる価値はあるかも」

「運営には報告しない方がいいんだよね。あれ?バグに気付いてるならとっくに報告してる人がいるんじゃないの?なのにどうしてまだ修正されてないんだろう」

「このゲームの運営はそこら辺が適当だから。プレイヤーやバランスに悪影響を及ぼす物じゃなきゃ何百回も言わないと放置したままなのよ」


 ならどうしてプレイヤーが死ぬ原因となる青い鯨を放置したままなのか。きっと海さん達も思ってることだろう。


 ウドウ達と合流するために島の南にある公園に向かうと、ベンチに座っている地地さんを見つけた。


「おはようみんな。何か手掛かりはあった?」


 そうしてお互いに入手した情報を共有した。どうやら、彼女もアニメーションのバグについて知ったようで、それ以外には何もなかった。


「ところでウドウは?」

「ログアウトして休憩中。噴水は私が見張っておくから皆も休憩しなよ」

「それなら私も残るわ。空、ナイン、あなた達は休みなさい」


 バグの発生する噴水の監視は地地さんと海さんで行うことになり、僕はお言葉に甘えて現実で休むことにした。






 目を覚ますと掃除機の音がした。ベッドから降りて日の光が差すリビングに行くと、ユッキーが部屋の掃除をしていた。


「あ、おはよう!何か食べる?」

「それじゃあ…」


 冷蔵庫にヨーグルトがあったはず。それと野菜と茹で玉子を食べよう。身体を動かしてないから肉類は控えよう。


「じゃあ──」

「戻ったぞ」


 ユッキーに注文しようとタイミングで光太が帰って来た。


「おかえりな…え!?どうしたのさ!」


 光太は傷だらけだった。


「魔獣と戦ったの!?」

「違う。まず何から説明すればいいか…」


 言葉を探す光太の腹が鳴った。それに共鳴するみたいに僕の腹も鳴った。


「…飯食いに行くか」

「だね。シャワー浴びてきていい?身体痒くってさ」

 

 綺麗になってからアパートを出た。外に出ていた光太は、箒のような見た目をしている魔法の杖、ブルームフリューゲル・ワンドを立てて待っていた。

 ブルームフリューゲル・ワンドは足元の汚れを掃くだけでなく、これに乗って移動することもできるんだ。


「乗れよ」

「う~ん…いいや!」


 僕は久しぶりに羽根を開いた。

 アドバンスセブンスばかりやって運動不足だから、こういうところで魔法の杖に甘えず身体を動かさないと!


「そうか。なら灯沢、乗れよ」

「私いいや。絨毯があるから」


 ユッキーは物干し竿にかけてあった絨毯を地面に広げてその上に座った。すると絨毯はフワリと浮かんだ。


「魔法の絨毯?!」

「砂漠の村で困ってた人達を助けた時に貰ったんだ。機動力はないから戦いには向いてないけど、海を渡る時とかにとっても便利なんだ」

「そういえばここに来る前ってどこにいたの?四国?沖縄?」

「アラブだよ」


 そんなところから飛んできたのか…長旅御苦労です。




 そうして僕達は単端市の外にある都会を目指して空を移動した。


「それで光太、一体何があったの?」

「俺は昨日の夜、スカイアークの本社に行った。警備員と監視カメラを魔法の力で躱して、潜入自体は楽勝だった。一番気になってるであろうガジェットクラブとの繋がりだが、何もなかった」

「何もなかった!?だけどスカイアークのヘッドギアでアドバンスセブンスがプレイできるんだよ!そんなはずがないよ!」

「棚に入ってた資料から金庫で守られてた資料、データ化された物まで全部見たさ。魔法の杖で脳を光速回転させてな。でも何も見つからなかった」


 紙どころかデータも存在しないなんてそんなはずは…


「諦めて帰ることにした俺はスカイアーク本社の屋上から飛んで帰るつもりだった。階段を上がって塔屋から出た俺は待ち伏せに遭ったんだ」

「待ち伏せ?警備員が待ち伏せなんて変だね」

「警備員だったらどんだけマシだったか…そいつらは魔法使いだったんだ」


 思ってなかったワードが飛び出した!魔法使いだって!?しかも複数人!?


「あいつらは俺に一言だけ。近付き過ぎだって言って殺そうとしてきた。滅茶苦茶怖くて死ぬかと思ったわ。まあ、偽の死体を作ってやり過ごしてやったがな!ワッハッハッ!俺とナインなら余裕で倒せる連中だわ」

「魔法使いってホッシーとか限られた人間だけじゃないの!?」

「そこなんだよ…灯沢、お前ってナインや水城と会うまで魔法とか異世界の存在って信じてたか?」

「子どもの頃は信じてたけど…実際に見るまではフィクションだって思ってたよ」

「だよな…魔法使いの少女と出会って異世界と繋がって、魔獣が現われる事も珍しくなくなった。自分が今まで信じてきた常識は何だったんだろうって感覚なんだ」


 光太は困惑している。僕と出会ってからこれまでの間、魔法やアノレカディアについて理解はしていたはずだ。だけど当然のように現れた魔法使いで遂に頭がパンクしてしまったのだろう。


「今さら魔法使いが現われたぐらいで、だからなんだって思うだろうけどさ…」

「大丈夫!どんだけ強い魔獣が出たって僕がいる!君が会った魔法使いも僕と一緒なら倒せる相手なんでしょ?だったら平気だ!」

「ナイン…」


 少しは励ますことができただろうか。日常に変化が起こって困惑するのは無理ないけど、一番変わったのは光太だと思うんだ。何の変哲もない少年だった君が僕に力をくれた。だからこれまで戦った強敵達に勝てたんだ。

 今はアドバンスセブンスのことで手一杯だけど、これが終わったらもっと強くなろう。僕だけじゃなく君も一緒に。


「なら前祝いに焼肉でもいくか!」

「え?あの、僕今は──」

「あの魔法使いだけじゃねえ!これから戦うやつら全員に勝つ前祝いだ!」


 何言ってんだこのトンチキ坊主!?こっちはさっきまでずっと横になってたのに焼肉なんか食えるわけないだろ!


「遠慮すんな!実はな…魔法使いからほんの少しばかりスってやったんだ!」


 そう言って見せつけてきたのが5枚の万札だった。相手が相手だから何も言うつもりはないけど…


「さあさあ行こうぜ!」


 光太は僕を無理矢理乗せると、ワンドを加速させて焼肉屋を目指した。なんかもう、この時点で胃が重たい…

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