第34話 「やられて終わるのは嫌なんだ」
「ウドォォォォォォ!」
ウドウがやられた。ぷらはさんが斬ったんだ。
もう頭の中がごちゃごちゃで嫌になるけど、今は何としても生き延びないと!
「ウドウ!返事しなさいよ!」
「海さん!しっかりして!」
しかし海さんはターミナルからウドウが墜ちた場所に方向転換した。イサミ達は最短距離で僕達を追って、徐々にその距離を詰めている。
「おぉっとぉ!?」
イサミが急に足を止めた。すると2発の弾丸がそれぞれ違う方向から飛来し、1発が彼と共にいた仲間に命中した。
「あっ!やべ!」
「馬鹿がよぉ!何ッ!?」
そこへさらにもう1発放たれ、跳躍した直後のイサミに命中。彼はそのまま地上に落ちていった。
今のは空さんでも地地さんでもない。最初の2発とは全く別の方向から飛んできていた。
僕達を救ってくれた誰かがいるみたいだけど…それを確かめる余裕はない!
海さんは地面に転がっていたウドウを見つけると、僕を放り投げて駆け寄った。
「死体が残ってるわ…まだ死んでない!」
「本当!?」
そうか!斬られる前に青い鯨は消えていたんだ!ウドウはリスポーンを選ばずに蘇生を待って死体のままでいるんだ!
「ナインさん…」
「ぷらは!」
ぷらはがすぐそこに立って僕達を見ていた。海さんは敵が近くにいるにも関わらず、動かなくなっていたウドウのボディに蘇生アイテムを使用した。
「なんだその目は…殺せなかったのがそんなに惜しいか!」
「うん、ファンの皆も惜しいって言ってくれてる」
悪びれる様子はなく彼は平然としている。僕はその姿が憎くてたまらなかった。
近くを飛んでいたドローンが別の場所に飛んでいく。おそらく別のメンバーを撮りに行ったのだろう。
「ボク達は青い鯨が出てない時に危害を加えるつもりはない。お願いだからログアウトして、そのままもう戻って来ないで」
「ふざけんな!」
「お~いぷらは~!鯨いなくなったから別ゲー行くぞー!ログアウトしろー!」
「はーい!…警告はしたからね」
「待て!」
ぷらはがログアウトして姿を消した。
誰一人欠ける事はなかったが、それは運が良かったからだ。もしも青い鯨が残っていたらウドウは死んでいた。僕達は負けたんだ。
「完全に見誤ったな。動画で見た以上の動きだった」
「ねえ見てよあいつらの配信!同接2万人越えたって!」
「私達、見事に笑い物にされてるわね。偽善者とか死に損ないだって」
ぷらは…あいつは本気で殺そうとしていた。信じたくはないけど、平気で人を殺すのがぷらはの本性なんだ。
「ナイン、大丈夫か」
「ウドウ、あいつらはどうするの?このまま放っておくの?」
「俺達の目的は青い鯨の消滅だ。お前の仲間がそれに繋がる手掛かりを手に入れたらそれを最優先に行動する。ロアク達と戦うのは避ける」
「それは…力の差を思い知らされたから?」
「…なんだと」
「作戦を立てれば勝てるかもしれないのに、負けたままでいいの?」
「俺は好きで殺してるわけじゃない。反省しないプレイヤーでもなるべく生かしてログアウトさせたいんだ」
「ログアウトさせたいって…やられそうになったのは僕達なんだよ」
「ちょっとナイン、ウドウは──」
「まあ待て海。ナイン、お前の言いたい事は分かる。俺達だってあんなやつらにやられてムカっ腹立てないわけがない…だがな、やられて悔しい。だから倒してやるなんて短絡的な思考で再戦を考えてるならやめとけ。そんなんじゃレベル200になっても勝てねえよ」
「短絡的だって!?」
「何か間違ったこと言ったか?」
「はいそこまでそこまで~!二人とも、悔しいって気持ちはよく分かるけど全員無事なのを喜ぼうよ!」
「…そうだな」
「そうだった」
空さんが割って入らなければ多分取っ組み合いになっていた。
次の島へ行こうにも新幹線が来るまで時間がある。ウドウ、海さん、空さんが一度ログアウトし、ターミナルには僕と地地さんだけがいた。
「珍しいよ。ウドウがあんな風に感情的になるなんて」
「…悪かったって思ってるよ。だけどやっぱり、やられて終わるは嫌なんだ」
「別に責めてるわけじゃないよ。私達にはあんな風に言わないから羨ましかったってだけ」
「そ、そうだったのね…」
そういえば地地さんとは話す機会がなかった。こんな風に話すのもこれが初めてなんだ。
「地地さんってどういうゲームが好きなの?」
「私?基本一人プレイのやつかな。ストーリーが壮大なやつ」
「皆とは遊ばないの?」
「遊ぶよ。皆で交代して遊びながら、その人のプレイにケチ付けたりするの。すっごく楽しいんだ」
「ゲーム好きなんだね」
「うん。だから青い鯨の話を知った時、皆にはアドバンスセブンスをやって欲しくなかった。リーダーのウドウが解決のために動き出して、それに海と空が感化された時、私は凄く怖かった…もうここまで来たら引き下がれないのは分かってるけど、本音を言えばもうこんなことやめたい。別のゲームに移って、適当に実況して、楽しくゲームしてたいよ…」
「きっと大丈夫だよ。誰も欠けさせやしない…僕も強くなるから!」
「そう、期待してるからね」
地地さんは目を潤ませていた。
人の悲しみがここまで正確に伝わってくるなんて…本当に嫌なゲームだ。
しばらくするとウドウ達が戻って来た。
「ナイン、さっきは悪かったな」
「僕の方こそ、変に熱くなっててごめん」
空さんが後ろからニコニコしてこちらを見ている。現実の方で何かフォローを入れてくれたみたいだ。
僕達は改札口を通って、ホームのベンチに座って新幹線を待った。空さんは自販機を占領して、ステータスに影響の出るドリンクを大量購入していた。
「いや~便利な世界だこと!いくら買っても売り切れないから文句も言われない!」
「空、この世界でエナドリを飲んだからって集中力が増すわけでもないんだぞ」
「美味しいし良いじゃん!実際に飲むわけじゃないから肝臓にも悪くないし!」
海さんと地地さんは少し離れた場所で反省会を行っていた。
「地地、あなたもう少し存在感消せない?さっきの戦い、かなり場所が分かりやすかったわよ」
「本当?でもあれ以上消したら絶対誤射されるよ」
「そうならないように立ち回るのもあなたの務めでしょ」
「んな無茶な…」
次の島はどんなところだろうか。そこで強くなって、次はぷらは達に勝てるだろうか?
時刻表を見ながら、僕は先の事を考えていた。