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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス

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第32話 楽しげ

「でりゃああああ!」


 猪のように突撃するナインは、視界に捉えた敵にエネルギーボールをぶつけようとしていた。しかしレベルの差は大きく、動きの遅いナインの攻撃は全て避けられた。


「なんだこの猪!?」

「気を付けろ!敵──」


 そうしてナインが敵の陣形をかき乱したところを空が狙撃し、やがて改札口への道が開いた。空はアイテムを出し入れするポーチからスピーカーを出すと、パニックになっていたプレイヤーに呼び掛けた。


「皆!早く逃げて!」


 そうして一斉に改札口からホームへ逃げ込んでいく様は、まるで都会の駅で見ることのあるラッシュのようだった。


「ナインちゃん無茶しないで!…入り乱れててヒールバレットが狙えない!きゃ!」


 敵の飛び道具が自分の方を向いた瞬間、空は咄嗟に遮蔽物に身を隠した。しかし静かに迫っている敵の存在には気付いていなかった。


「どんだけいるの…どんだけ殺したいんだよ!」

「冷静さを欠くな。背後から敵が狙っていたぞ」


 ウドウの声がして振り向くと、彼は背後に立っていた。ウドウは空に語るついでのように、彼女を狙っていた敵の首をアーミーナイフで刺していた。


「あ…助かった。ありがとう!」

「やり方はいつも通りだが今回は逃げる連中がいる。いつも以上に誤射には気を付けろ」


 ウドウは空の背中を軽く叩くと、ナインの暴れる改札口周辺に駆け出した。




「ナイン!その位置を維持しながら戦い続けろ!」

「ウドウ!分かった!」


 よく分からないが作戦があるのだろう。ウドウを信用しきっていたナインは疑うことなく言う通りの戦い方に切り替えた。

 ウドウは着弾地点へ一直線に移動するワイヤーガンを駆使し、敵の周囲を駆け巡って翻弄した。


「なんだこの蜘蛛野郎!?」

「慌てんな!こんな動きでしかもピストルだ!ヘッショさえされなきゃ問題ねえよ!」

「ピストル…ヤバいぞ俺達!」

「誰かいるって!」


 気付いた時には既に遅い。荒ぶるウドウの動きに注意していた敵プレイヤーは次々に狙撃されていった。


 これがダッシュスラッシャーズというチームのアドバンスセブンスでの戦術だ。ウドウが突撃して敵の気を引き、透明化した地地がウドウのダメージになりそうな敵の行動を撃破という形で阻止。離れた場所で海が狙撃を行い、さらに離れた場所から空が海の撃ち漏らしを全滅させる。


「例の芋砂軍団だ!ログアウトしろー!」


 自分達では敵わないと気付くと、次々と敵がログアウトしていく。ウドウはウィンドウを開いて逃げようとする者は狙わず、自分達が相手と分かっていながらも挑んでくる者や逃げているプレイヤーを襲う者だけを撃破していった。


「やっ!やめろ!」

「ならばログアウトしろ!そして二度とこのゲームに来るな!」


 目的は少しでも青い鯨による被害を小さくすること。例え加害者だとしても、ログアウトするのならウドウは見逃した。


「もらった!」

「させるかあああ!」


 ウドウを狙おうとしたプレイヤーにナインのエネルギーボールが打ち込まれた。そして今、彼女の一撃を喰らったプレイヤーが残っていた最後の敵だった。


「これ以上殺すな!ログアウトして二度と帰って来るな!」

「あんた達がやってることは私達と変わらない…ただの殺しだ…」


 ナインは女の怪しげな動きに気付くとすぐに押さえつけた。死ぬ間際に一人でも多く殺したかったのか、女は爆弾を使おうとしていたのだ。


「現実なんて…クソよ…」

「ならこの世界の方がクソだ!一度死んだらそこで終了なんて現実と変わらないゲームの世界だぞ!それなのに馬鹿みたいに殺しやがって!一体どれだけの人が死んだか考えたことあんのか!」

「知ったこっちゃないわよ…誰かに自分の事を考えてもらえなかった人間に自分以外の事を考える余裕なんてあると思う!?」

「それは…」


 女の言葉を受けて力を失うナインの元にウドウが来た。


「今のお前に選択権はない。黙ってログアウトしろ。死んじまったら悲劇のヒロインですらいられなくなるぞ」

「…くっ!」


 死んでやろうと腹を括って僅か数秒。冷静になったのか、それともこんな連中に看取られるのが嫌だったのか、女は言われた通りにログアウトした。



 ちょうどその時、ホームに新幹線が到着。扉が開いた瞬間、ホームに溜まっていたプレイヤーが車内へ流れ込んでいくのが見えた。


「ウドウ、僕達も乗ろう」

「あぁ…混沌としたこの世界で善も悪も無いだろうが、お前は正しかったと思う。自暴自棄になって殺しまくったあいつと、守るために殺したお前じゃ全然違うからな」


 気休めを貰う必要はなかった。女の言葉で一瞬動揺こそしたが、それが引き摺るほどの事ではないと考えていたからだ


「チッ…これなら鬱シナリオのRPGをやらされた方がマシだぜ。みんな乗るぞ!出て来い!」


 ウドウが呼び掛けるとサポートに徹していた三人が姿を見せた。


「次の車両が来るまで隠れてない?あんな人だらけの車両に乗ったら間違いなく痴漢されそうなんだけど」

「私も地地に賛成よ。それに隠れてる内に青い鯨も消えるでしょうし」

「駄目だよ二人とも!ロアクの気が変わってここにいる全員殺すってなったらどうするの!」


 空に言われて二人は改札口へ歩き出した。それでもやっぱり嫌だったのか、二人は少し歩いたところで足を止めた。


「ちょっと二人とも…」

「空、前見て」


 違った。改札口を塞ぐように三人のプレイヤーが立っているのだ。これ以上近付いたら容赦なく攻撃するつもりなのか、各々が武器を構えていた。


「ロアクがいるからどこかに潜んでるとは思っていたが…さっきここを塞いでいたのもお前達の差し金か!」

「いや知らねえし。雑魚狩りなんて視聴率になんねえことしねえよ」


 刀とライフルという派手な武器だ。しかしナインはその隣に立っている、鎌を持った青年から目が離せなかった。



「…ぷらは…さん?」


 ナインは目を疑っていた。ゲームの世界だから顔が全く同じ別人物かと考えたが、そこに立つ青年の装備は何もかもぷらはと同じだったのだ。


 ウドウは真ん中に立つリーダーらしき人物と会話を続けていた。


「それにしてもマジでいたんだな。プレイヤーキラーキラーってやつ?こっちが楽しんでるところを邪魔するチームがいたなんて驚きだわ。マジ迷惑行為なんだけど」

「俺達のやることが迷惑ならお前達がやってることは何だ」

「論点すり替えんなよ」


 ウドウは強気な姿勢を崩さずレスバを続けるつもりだったが、内心ではどうやってこの場を切り抜けるか思考をフル回転させていた。


「お~い」


 そんな時、現れたのがロアクだった。彼は三人の仲間だったのか、親しげに合流してウドウ達の方を見た。


「ねえ、まだ青い鯨出てるしこの人達と戦ってもいい?」

「まあまあそう慌てないで。どうするリーダー?」

「まずは揃ったんだし挨拶しようぜ。ぷらは、配信ドローン飛ばして」

「…はい」


 ぷらは。そう呼ばれた青年がドローンを飛ばしたが、それが聞き間違いであって欲しかった。しかしそんな小さな願いは楽しげな挨拶によって打ち砕かれた。


「「「どうも~!るーてぃーんえーじゃーずです!」」」


 るーてぃーんえーじゃーず。それはナインがかつて出会って親切にしてもらったプレイヤー、ぷらはが所属しているという配信者グループの名前だった。

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