第29話 「なんだ噂か…」
火口へ飛び込んだ僕は火山からの熱い歓迎を喰らってボロボロになった。ギリギリのところで生かされた僕は何の抵抗も出来ないまま墜ちていき、最期はマグマに焼き殺されるのかと思っていたが…
「かっ…けほっ」
「大丈夫だよ。私もウドウの友達だから」
驚くことに僕は生きていた。火口に落ちたかと思いきや、いつの間にか暗い場所に落ちていたのだ。
そして今、落下していたところをキャッチしてくれたこの女の人に運ばれていた。
「メディカルエキスを注射したから、心配しなくても回復するよ」
「鯨…」
「鯨って…え!?青い鯨が出てるのに飛び込んだの!?耐マグマ装備無しで!?」
鯨の単語だけでよくそこまで汲み取れるな。
メディカルエキスという名前の回復アイテムを注射されたおかげか傷の治りが早かった。
「あの、ありがとう。もう自分で動けるよ」
「そうなの?だけどもう着いちゃったよ」
女性が僕を降ろした場所は、岩を彫って造られたドーム型の建物の前だった。
「…もしかしてここは…ファイアーマウンテンの下?」
「正解!君は2つあるルートの危ない方を通って来たんだよ!それもそんな装備で!何か実績解除されてない!?」
「実績…火山の扉っていうのが──」
「あー普通に通るのと変わりないんだね」
「ところで君もウドウの仲間なの?」
「うん!私は空空!」
どうやらこの人も仲間らしい。だけどあの三人とは違ってやけに明るくて、あの人達の仲間という話が嘘に思えた。
「陸、海、空ってようやく出揃った感じだな…」
「あ!ウドウ!こっちだよこっち!」
噂をすれば残りのメンバーがあらわれた。空さんはキラキラしているのに、ウドウ達はなんか黒い物を感じる。
「チームダッシュスラッシャーズ、集結だね」
「ん…うん」
「そうみたいね」
「にひひ…」
「…ダッシュスラッシャーズって名前なのにウドウ以外全員飛び道具なの?」
地地さん、海さんと同じように、空さんも長いライフルを背負っている。ウドウも銃を使ってたけど、彼女達とは違って片手で使う物だった。
「まさかダッシュスラッシャーズっていかにも突撃しそうなチームが、一人を囮にしてチクチク狙撃してくるとは思わないだろ。そんなことよりもお前…」
な、なんだ?!いきなりウドウに抱え上げられた!高い高いされる子どもみたいに!
「気に入ったぞ。お前、今回の一件が終わったら俺のチームに来いよ」
「遠慮します!そもそも僕、こういうVRのゲームは好きになれそうにないし」
「別にVRだけがゲームじゃない。格闘とかレースとか、何か好きなやつあるだろ」
「ゲームは好きだけど!やりたい事が他にあるから!」
「そうか…ジュニア部門ならいい線行くと思うんだがな」
そう言うと大人しく降ろしてくれた。
全く、今になって子ども扱いされて高い高いされるなんて思わなかった。
ウドウを先頭にドームハウスに入室。ここは彼の所有する拠点の1つだそうだ。
「ねえウドウ、この島で何やってたの?」
「バグを探していた」
「不具合を…見つけて運営に報告するの?」
「そんなことしたってただ修正されるだけだ。バグを見つけた俺達はそれを監視しながら青い鯨が出るのを待っていた。まあ、その前に気付かれて修正されてしまったがな」
「…青い鯨が出るとどうなるの?」
「長い髪の幽霊が出る」
「幽霊…まあ骸骨の恐竜だっていたんだし、驚くことじゃないか。それでどうするの?」
「俺達はそいつを倒す」
「倒すとどうなるの?」
「解らん。青い鯨が消滅するのか、何も起こらないか」
「解らんって…ええええええええええ!?」
「青い鯨の出現時、入るとログアウト出来なくなるダンジョンが現れたり、銀行口座の預金をゲームの所持金と同じにできたりとデマが飛び交ってるが、バグの付近に幽霊が現れるのは紛れもなく事実だ。俺達は一度そいつに出会った…あいつは──」
「ちょちょちょっと待ってよ!僕らの目的って青い鯨を消す事だよね?他に手掛かりはないの!?」
「ないな」
「ないね」
「あったらこっちが聞きたいわよ」
「ないんだよねー」
そのあんまりな反応に僕は絶句した。今までそんなフワフワとした存在を追っていたなんて。
考えてみればそうだ。青い鯨はゲームシステムとは無関係で怪奇現象と呼べる存在なんだ。簡単に解決できる問題じゃない。
「サ終してくれたらいいんだけど、なんでか課金する人が多いからね~」
「俺達に出来るのはバグを見つけて幽霊を待ち伏せして倒す事だ」
「それってつまり青い鯨が出てる時に戦うって事でしょ!?危ないよ!」
「命なら常に懸けてきた。これまでと何も変わらない」
「どうしてそこまでやるのさ!たかがゲームでしょ!?」
「そのたかがゲームで人殺しが行われてるんだ。誰もが楽しく遊べるはずだった世界を、そんな風にした青い鯨を俺達は許さない」
ウドウは悪質なプレイヤーによる人殺しを止めるだけでなく、アドバンスセブンスというゲームが好きな人達の居場所を守るために戦っているんだ。
世界を守るために戦ってる僕達と同じだ。
「まあ、青い鯨に対してただ悪足掻きをしてるだけと言われたらそうかもだがな」
「この事態を解決しようとしてる人達とは何度か会ったけど、今や全員が音信不通…もう私達がやるしかないんだよ」
「そうだったんだ…」
バグのそばに出現するという幽霊。それも確かに手掛かりかもしれない。だけどそれだけじゃダメだ。
空さんが口にしたサ終というワードが、僕を閃きに導いた。
「ゲーム会社に連絡はしたの?」
「あぁ、俺達以外のプレイヤーも青い鯨や殺し目的のプレイヤーがいることを報告したがダンマリだ」
「だったら直接サーバーをぶっ壊す!」
「お前…それが出来たら苦労しねえぞ」
「それが出来るんだな僕達なら!」
「じゃあお前、カチコミするとしてアドバンスセブンスを創ったガジェットクラブの本社がどこにあるか知ってるか?」
「そんなの調べれば出てくるでしょ!」
「それが調べても出てこないんだ。公式サイトからクラックを仕掛けたやつらもいたが、逆に電子機器を破壊された上に住所特定でお縄に掛かる始末だ。まあそんな凄腕ハッカーをゲーム会社が雇ってるわけもないだろうし、青い鯨が何かしたんだろうがな」
そうなのか。それじゃあ…
「打つ手なし!」
「だと思ったぜ…」
期待してくれたウドウはガッカリしていた。なんだか申し訳ない…
「だけど何もしないわけにはいかないよ。とりあえずゲームをプレイ出来るヘッドギアを発売してる会社を調べてみる」
「お前学生だろ?そんなこと出来るのか?」
「中退してるし…」
とりあえずログアウトだ。この件については光太に任せよう。