第28話 ファイアーマウンテンの秘密
ナインは野球ボールサイズを握り締めて登山を開始。モンスター達はナインに気付くと、咆哮を轟かせて一斉に襲い掛かって来た。
大きくて強力なモンスター達ばかりだが見切れない攻撃ではない。ナインは反撃しようという気持ちは一切持たず、噛みつきや尻尾での薙ぎ払いを回避した。以前までなら避けられなかった攻撃ばかりだ。
しかしたった一人で数の差を覆せるわけもなく、いつの間にかナインは包囲されていた。
「チッ!」
その時、右手に握っていたエネルギーボールを地面に叩きつけた。エネルギーの衝撃によって火山灰を巻き上げ、ナインは身を隠したのである。
獲物を見失った恐竜達はひたすら尻尾を振り回した。自身も敵が見えない灰の煙幕の中、ナインは火口を目指して険しい斜面を駆け上がった。
煙幕を抜けた直後、大地が震えた。ファイアーマウンテンが噴火したのかとナインが火口を見上げると、そこから噴石が飛び上がり、溶岩が流れ出ていた。
「やっべぇ!」
ナインはUターンして速攻下山。足の遅いモンスター達もそれを見て逃げ出したが、溶岩に巻き込まれて消滅した。
その後は水が布に吸収されるように、流れていた溶岩は火山の表面に吸収されていった。
「はぁ…はぁ…あっぶね~!」
噴火が収まると、再び地中からモンスター達が現れて火口への道に立ち塞がった。火口との距離は大してないはずだが、挑戦者であるナインにはとても高く見えた。
「タイミングとしては噴火が落ち着いた直後か。あいつらがまた這い上がってくる前に、一気に火口まで駆け上がるしかないな」
そうして待ち続けて再度噴火が起こった。ナインは頭上からの噴石に注意しながら、溶岩に飲み込まれていくモンスター達を観察していた。
「今だ!」
溶岩が地面に吸われ始めたのを見て、ナインは火口に向かって険しい斜面を駆け上がった。全速力で駆ける彼女は、地面から頭半分出ていたモンスターを蹴り付けた。
モンスターが発生する場所が定まっていたとすれば、既にその場所は抜けたはず。もうこの先に敵が沸くことはないと考えながらナインは走り続ける。
しかし彼女が通り過ぎた地点から現れたモンスター達も、獲物を追って登山を始めてしまった。
観光地でもないファイアーマウンテンは舗装がされていない。駆け抜けて辿り着いた火口付近は落下防止の柵などもなく、もしも落ちてしまったら死亡して登り直す羽目になるだろう。モンスターの接近に焦りながらも、ナインは辺りを見渡した。
「な…何もない!せっかく登って来たのに無駄だったのか!?」
しかし何もない。海が残したヒントに関わりそうな物は何一つないのだ。
「このままじゃ…は!?」
見上げた空には火口からの噴煙よりも大きな青い鯨が浮かんでいた。ナインはモンスターを1体でも多く倒してから死んで下山しようと思っていたが、これは想定外だった。
「嘘だろ…!」
絶体絶命。そんな時、ナインは海からのヒントを思い出した。
命が惜しければ地下を目指せ。地下というのは避難壕の中かと思っていたが、もしかしたらこの火口を降りた先なのでは。もう後の無いナインは思考をフル回転させた。
「こうなったら…」
そして勇気を振り絞って、火口の中へ飛び込んだ。
「熱ぃ!」
飛び込んで熱気に包まれた瞬間、ナインは異変を感じた。
落下スピードが遅くなった。いや、それどころか何もかもがスローモーションで動いている様に見えていた。景色、煙、自分でさえもがゆっくりだった。
「エネルギィィィィボオォォォォオル!」
ゲームシステムで感じ取ったのか、それとも本能による直感か。ナインは巨大なエネルギーボールを発生させた。そして地上に向かって沸き上がる物体から身を守った。
「うぅ…うおおおおお!」
しかし所詮は一個人が生み出したエネルギーの塊に過ぎない。ナインはエネルギーボールごと押し上げられ、噴出物と一緒に宙高くに打ち上げられた。
「うああああああああああああああ!?」
盾となっていたエネルギーボールは消失し、大の字の姿勢だったナインは全身に噴石を喰らった。
まるで火山からの連続攻撃を喰らっているみたいだ。そう呑気な事を考えているのは、もうどうしようもないと悟っているからだろう。
やがて打ち上がる噴石は減り、ナインは噴煙の中に墜ちていく。全身を焼かれながら、再び火口へ落ちて行った。
火山の島ミネラジソールのとある場所。そこにはナインを待つウドウ達の姿があった。
「遅いな…地地、30分待っても来る気配がなかったら地上に出るぞ」
「…もしもそれで見つからなかったら?」
「諦めてログアウトしたか、ヒントを探しにマンティに戻ったんだろう」
それとも青い鯨が出ている時にHPがゼロになってしまったか。その可能性については口にしなかった。
「ログアウトしてくれてるといいね…あ、ようやく来たよ」
「あの子なら必ずここに来るわ」
そこへ海が合流した。彼女はウドウ達がいる場所の近くにある大きな穴から現れた。
「珍しいね。海がそんな風に言うなんて。初心者嫌いじゃなかったっけ」
「私が嫌いなのは視聴率目的でプレイして飽きたらやらなくなるよう人だけだから」
「出た、海のインフルエンサーアレルギー。それ絶対メディアの前で言っちゃダメだからね」
「別にいいじゃない。スポンサーどころかファンだっていないんだから」
「だからそういう過激な発言のせいで人が寄り付かないんでしょ。スポンサーになってくれる企業があなたのせいでいなくなったらどうするの」
「お前らいい加減にしろ。地地、将来の事を考えてくれるのはいいがまだ先の話だ。後にしろ。海、もう少し発言に気を遣え」
「…ごめんちゃい」
「悪かったわ…」
「はぁ…俺が行くべきだったな」
仲が悪いということはないが、海は度々仲間と衝突する事がある。そして彼らを仲裁するムードメーカーは今、この場所にはいなかった。
ナインを探しに出るまであと10分。その時、天井に描かれていた転移の魔法陣が光り始めた。
「今時正門から入って来る人なんて珍しいね。もしかしてナイン?」
「馬鹿言えよ。こんな短期間で耐熱装備が揃えられるわけがない。それにあいつは素人だぞ」
「ちょっと見てよウドウ!あれ!」
「…へへ、マジかよ」
魔法陣の中心から酷い傷を負ったプレイヤーが現われた。
それを見たウドウ達は立ち上がり、魔法陣の下にある地底湖のそばへ移動した。そこにいるのは間違いなくナインだった。
「中々落ちて来ないな。ロード中か」
「どんな環境でゲームしてんだろ…あっ落ちた」
陣から吐き出されたナインはそのまま地底湖へ落ちていくのかと思いきや、誰よりも早く飛び出したプレイヤーが彼女を抱きかかえた。その人物はそのまま対岸に飛び降りると、薄暗い街の中に姿を消した。
「あれ空だったよ」
「なら一応合流成功か。よし、一度拠点に行くぞ」
ウドウ達は空と呼んだプレイヤーが消えた方へと移動した。
ここは火山の島ミネラジソールの地底街ドーズアン。地図は有志が攻略サイトに上げた物しかない謎多き地底の街である。