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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
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第24話 「…まだ寝る」

 砂金の城塞を攻略して外に出たのが4時過ぎだった。


「ナイン、あなた一度ログアウトしたけど仮眠は取ったの?」

「いや、ご飯食べてそのまま戻って来たんだ」

「なら…そうね、ログアウトして7時間くらい、グッスリ眠りなさい。それから鈍ってる身体の運動をして…そうね、14時になったらログインしてここで再会しましょう」

「え?だけどレベル上げしないと…」

「いい?プロゲーマーの資本は培った技量と時間を掛けて鍛えたデータだけじゃない。ゲームをするための身体も大切なのよ」


 海さんはそう言って僕がログアウトするのを待った。この人も遅い時間まで僕に付き合って、きっと休みたがってるはずだ。


「分かったよ。それじゃあまた後で会おうね」

「えぇ、お疲れ様」


 僕だけでなく彼女の為にも、ここは素直にログアウトして身体を休める事にした。






「スゥ…スゥ…」


 現実では僕の隣で光太が眠っていた。音を立てない様にヘッドギアを離れた場所に置いて、僕は目を閉じた。ただ寝っ転がってゲームをやっていただけなのに凄い疲労感だ。それだけ脳に負担が掛かっているという事だろう。


「おやすみなさい…」


 起きるのは何時頃になるだろう。約束の時間にはログインしておかないと…




 ナイン・ワンドは魔法の杖。魔法を使う魔法使いにとっての一般的な杖ではなく、文字通り魔法である杖だ。

 最初に発動したのはバッグの中にある魔法の杖を融合させて、それらの能力を同時に発動するというもの。これには光太と息が合わさった状態で彼がナイン・ワンドと唱える必要がある。さらに使った杖は壊れてしまうんだ。

 次に発動したのは、仲間の力が合わさったナイン・ワンド。これは魔法の杖を必要とせず、共に戦っている仲間の力が合わさったエネルギーの塊だ。しかし発動したのはたった二回だけで、情報がなさすぎる。

 重要なのは2つ目のナイン・ワンドだ。仲間のエネルギーでナイン・ワンドが作れるという事は、僕のエネルギーだけでもナイン・ワンドが作れるかもしれないという可能性だ。


 それにしてもこの景色は…単端市の南風センターがあった場所だ。僕はどうしてこんなところにいるんだろう。


「まあいいや!せっかく広い場所に来たんだ!特訓だ特訓!」


 両手を胸の前に上げて、エネルギーボールを発生させる時と同じ姿勢に。それから僕は呪文を唱えた。


「ナイン・ワンド!」


 エネルギーボールを作るのと同じ要領だ。手の間に必要な分だけの魔力を収束させろ…


「くっ…!」


 ゲームのように球状ではなく、真っ直ぐな棒状に魔力が集まっていく。出来上がったナイン・ワンドを掴もうと手を寄せた。しかしワンドは僕を拒んで手を弾いた。


「な…なんで?」


 掴めない。只でさえ作るのに力を消耗したのに、これ自体を扱うのにも相当な力が必要なんだ。

 アドバンスセブンスのゲームシステム風に言えば…魔力が足りず、エネルギーボールが制御出来ていないのと同じだ。


 そうだ、僕は杖がないと魔法が使えない落ちこぼれだった。だからアドバンスセブンスで自分の力で発動できるナイン・ワンドを見つけようとワクワクしてたんだ。

 最初から浮かれてたんだ。ナメて挑んだプレイヤー達に負け続け、共闘では足を引っ張って、挙げ句の果てにはゲームの世界の力を実力だと勘違いした。

 滑稽だなぁ…


「それが今の限界だ」


 あの声だ…厄災竜との戦いで僕を励ましてくれた誰かの声だ!


「だが心配するな。お前は一歩一歩(少しずつ)成長してる。一緒に戦う仲間がお前を強くさせるんだ。その絆を大切にしろ」

「君は一体誰なんだ!テレパシーか?どこにいる!?どうして僕に話しかけるんだ!?」

「ナイン・ワンド。それを完成させたければ今の戦いを乗り越えろ!娯楽に死の遊戯(デスゲーム)をもたらした青い鯨をブッ壊せ!」


 その声に驚いた僕は目を覚ました。夢の中にいた僕にまた誰かが話し掛けてきた。一体誰なんだろう。姿は見えなかったのに、凄い気迫を感じた。


 先に目覚めていた光太はスマホで漫画を読んでいた。


「…今何時?」

「9時だぞ。お寝坊さん」

「…まだ寝る」

「ならもう一眠りしようかな」


 光太はスマホを消して充電器を挿した。


「僕まだ5時間ちょっとしか寝てないよ…」

「俺は沢山寝たけど…まだ眠いや」


 程よい室温と外から聴こえる鳥の(さえず)りから平穏という物を思い出す。しかしこれだけでは足りないと思った僕は、ウィンドウ・ワンドを使って僅かに日の光が入る窓を増やした。

 14時まで時間はた~っぷりあるから、今はの~んびり寝ていよう…


 目を閉じた瞬間チャイムが鳴った。もしかしてと思って、ユッキーに玄関の鍵は開いているとメッセージを送ると扉の開く音がした。


「思ってたより早く来れたよ~しばらくお世話になりま~す…あれ?ナインちゃん?黒金君?」


 光太はベッドから降りると魔法の杖で服を着替えてリビングに出ていった。


「よう灯沢」

「あ…久しぶり」


 シンプルっていうか、お互いに再会の喜びを感じない挨拶だな。僕も出てって仲直り出来るように仲介したいけど…


「眠…」


 今は寝よう。誰しも三大欲求には勝てないんだ。


「ねえ、ナインちゃんは?」

「あいつならそこで寝てるから。静かに頼むな」

「え、黒金君ってその部屋から出てきたよね?」

「あぁ、一緒に寝てたからな」

「へえ…私が修行してる間、君はナインちゃんに依存してダラダラしてたわけ」

「心外だな。俺がネットで晒し者になったことを知らないのか?ここにいた不法移民者を守るための魂の土下座をよ」

「うん。事の顛末も萬名君から聞いてる。あそこから平穏に自体が収束したのは月にいる皆とナインちゃんの力があったから。君は大した事してないよね」

「てめぇ…助けに来たのか貶しに来たのかどっちなんだよ」

「いやね、私も期待してたんだよ。アン・ドロシエル達との戦いで散々場を乱した君がどれだけ成長したのか…」

「チッ…表に出ろ」


 凄いな!?再会から数分足らずで喧嘩に発展しちゃったよ!




「痛い痛い痛い痛い痛い!」

「私は独りで修行してたのに!」


 数分後、窓を閉じきった部屋の中にまで光太の悲鳴が聴こえてきた。


「寂しかったのに!たまには電話寄越してくれてもいいじゃん!何で誰も掛けてきてくれないの!?」

「それは…痛い痛い痛い痛い痛い!」


 修行して強くなったんだろうけど、そのせいで寂しがり屋になっちゃったみたいだ。

 どんな事があったのか、起きたら色々話をしてあげよう。だから光太、それまでサンドバッグとして頑張ってね。


「んもおおおおお!」

「折れる折れる折れる!うわあああああ!?」

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