第23話 「いっけえええええ!」
現在の時刻は午前3時。僕と海さんは海辺のダンジョンに挑んでいた。
「前衛ならもっと暴れなさい!2人だけなんだから、あなたにはアタッカー兼タンクとしての役割があるのよ!」
「分かってるよ!だけどこいつら!うわあ!」
黄金の砂浜に建つダンジョンは砂金の城塞。そこを守るモンスターはどれも真っ金々で防御力が高く、如意銅箍棒の攻撃では中々砕けなかった。
「こうなったら…エネルギー!」
「連係プレーを意識しなさい!」
僕の詠唱は中断させられてしまい、モンスターは次々と海さんに撃ち抜かれた。
トドメを刺しているのが彼女だから、こっちに入る経験値が少ないのが気に入らない…
「油断しないの!」
「あっぶね!」
黄金の骸騎士が襲い来る。剣を弾いて攻撃をするが、スピードの速い敵はそれを躱してすぐさま反撃を仕掛けてくる。それも弾こうとしたが、敵はフェイントを挟んで攻撃を当ててきた。
「くっ!」
レベルはこっちの方が上なのに動きで負けてる!何体も出てくるモンスターが備えていい技量じゃないだろ!
そして攻撃直後の隙を狙って海さんが狙撃。頭蓋骨を砕かれた骸騎士はバラバラになって経験値を落とした。
「海さん!何でそんな離れた場所から撃ってるんだよ!」
「狙撃手なんだから離れた場所にいるのは当然でしょ!それにウドウと地地と…皆で戦う時はこれぐらい距離を取ってるの!」
敵のヘイトは完全に僕の方を向いている。そもそも僕以外にプレイヤーがいるって認識してないんじゃないのか…?
「うがっ!…このやろおおおおお!」
僕はひたすら如意棒を振り回して暴れ続け、狙撃が通りやすいように黄金のモンスター達を蹴散らした。
そして敵を一掃した後、回復アイテムを食べていた海さんが声を掛けてきた。
「双武撃を使わないの?それにあなた、既にレベルアップして格闘系の技が増えてるんじゃない?」
「あぁ…うん」
海さんはお見通しだ。確かにこのダンジョンを攻略していく中でレベルアップして、ステータスポイントを振り分けたことで技は増えていた。
「格闘の技、嫌なんだよね。身体が勝手に動く感覚が好きになれないんだ」
「何度も発動すればそのうち慣れるわ。私だってそうだったもの」
そう言われると思ってた。だけど嫌な物は嫌なんだ。肌に合わない。
「…言ってる事があの子と同じ…」
「ほら進むよ!レベル上げないと!」
「あのね!言っておくけど私先輩だし、あなたより年上だからね?このデュオにおいてリーダーは私だから」
「…年増」
僕は頭を撃ち抜かれてダンジョンの入り口にリスポーンした。海おばさんと合流するまでに再びモンスターと戦う事になって時間が掛かったけど、そのおかげでレベルが上がった。
ダンジョン攻略終盤、黄金のトライク―スと戦っていた時だった。
「折れたッ!うりゃあああ!」
モンスターの頭を殴った直後に如意銅箍棒が折れた。それでも撃破には至らず、僕は雄叫びと共にパンチを打ち込んでトドメを刺した。
「ふぅ…あ~あ、最後の棒が折れちゃった」
「えぇ!?他に武器はないの?」
「如意銅箍棒以外に用意してないよ。あー困ったな…」
新しく棒を用意しようにも、このダンジョンにはメテオ・ビルと違ってそれを造る設備がない。海さんにも相談したけど、装備を造る為のアイテムはちょうど切らしていた。
「だったら素手でやるしかないか…」
「ナイフとかピストルあるけど使う?」
「どっちも苦手だからいい」
使い慣れてない武器を使うよりも慣れているファイトスタイルの方が戦える。僕は正拳突きを披露して意思を示した。
そこからは素手でモンスターと戦って道を抉じ開け、僕達はボスのいる部屋にまで辿り着いた。
「ボス部屋も金色だ…」
「油断しないで。もうボスは動いてるから」
海さんは大型のドローンを召喚するとそれに乗って宙に上がった。どうやら地面に残された僕は、まだ姿を見せないボスをおびき寄せる餌らしい。
上等だ!エネルギーボールでやっつけてやる!
ドローンのプロペラが起こす風によって、足元の砂金が部屋の端に逃げていく。少し歩きづらかったから丁度良かった。
「…ん!」
風は吹いているのに、僕の足元にだけ砂金が残っていた。ダンジョンの名前や部屋の特徴を思い出した僕は、咄嗟にその場から離れた。
次の瞬間、直前まで立っていた場所に金色の槍が飛んできた。
「あいつか!」
金色の粒から手足が生えたようなボスだった。しかもこの金色で砂金に満ちたこの部屋でだ。まだ足元の砂全部がボスだったら戦いやすかったかもしれない。
「どこだ!?」
ボスは瞬きの間に本物の砂金に身を隠した。だったらそこら中の砂金ごと、お前を消し飛ばしてやる!
「エネルギーボール!」
エネルギーポイントを消費してボールを生成。出来立てホヤホヤの玉を掴み、速攻地面に叩きつけた。
エネルギーが爆発して砂金が消滅する。しかしボスはその形を保ちながら宙に舞い上がった。
「やった!…あぁ!?」
ボスの元へ部屋中の砂金が集結する。砂金は人の形を造り、金色の巨人となった
「エネルギー!」
「撃っても無駄よ!コアを破壊しない限り何度でも再生するわ!」
「ボール!」
コアとなったボスが砂金を集めて、まず最初に出来上がったのは胸だった。僕は振り下ろされた拳から敵の身体を駆け上がり、胸のど真ん中にボールをぶつけた。
「コアは…壊せてない!ぐあ!?」
砂金の肉体はバラバラに弾けたがすぐに元通り。空中で身動きの取れなくなった僕はそのまま床に戻る事を許されず、殴り飛ばされて壁に叩きつけられた。
「うぅ!…海さん!コアは狙撃出来る?」
「あなたねえ…私はプロよ!このボスより遥かに強いプレイヤーと何度戦ってきたと思ってるの!?」
海さんがドローンの上から突撃するようにハンドシグナルを送ってくる。壁に衝撃を加えて埋まっていた身体を出し、僕は再び突撃した。
「エネルギーボールはEPを注げばその分エネルギーが増すわ!」
そうだったのか!
「エネルギィィィ!ボォォォォォオル!」
さっきよりも強い一撃を。そう念じてエネルギーボールを発動するとEPが一気になくなった。そして強く光る光球が出現した。
「…なんだ!?握れない!」
「馬鹿!EP込め過ぎ!魔力が足りないのよ!」
「魔力が!?…だから何だあああああ!」
掴めないなら支えればいい。僕は姿勢をガクッと下げて、右腕で光球を真下から垂直に支えた。
「がっ…いっけえええええ!」
支えていた腕を左手で掴み、そのまま勢いよく前に倒す。そして全力を込めたエネルギーボールを、正面にいる敵に向かって投擲した。
エネルギーボールは着弾すると物凄い衝撃を発した。それによって砂金の肉体がバラバラに散っていく。コアはどれかと目を凝らしたその時、弾丸が通り過ぎていった。
「こうして勝てたから及第点ってところね。いい?強力な技を扱うにはそれだけステータスポイントを魔力に振り分けておく必要があるの。じゃないと今みたいに手に負えなくなって、自滅するわよ」
「それ早く言ってよ…」
今の狙撃によってボスは撃ち抜かれたのか、宝箱と外へ変えるワープの光が発生した。僕達の勝利だ!
HPとEPをかなり消耗したのか、疲労感に押し潰されてしまいそうだった。
海さんは僕にポーチから缶のドリンクを2本取り出すと、1本を僕に渡してきた。
「乾杯」
「へ?」
「私達のチームは大切な戦いで勝つ度こうして団結力を高めてきたの。ほら、乾杯」
「…乾杯」
僕達は缶でタッチを交わしてから、ドリンクを飲んだ。