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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
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第22話 「いくらなんでも殺す必要は…」

 オークを倒した後、僕と海さんは残っていた焚き火の近くで休憩を取った。


「休憩する意味あるの?ゲームの中なのに」

「炎はいいものよ。ゲームシステムとして見れば、灯りになって獣系のモンスターを寄せ付けないし、寒冷地だとスリップダメージを止めてくれる。でもそれよりもね、この優しい暖かさとバチバチっていう音が私は好きなの」

「海さんはキャンプとか好きなの?」

「え?嫌いよ。虫がウザいし不便じゃない」


 あぁ、今の話の流れでそこ否定しちゃうんだ。ますますこの人の事が分からなくなる。



 海さんはアイテムポーチから線香花火を出して焚き火で着火した。そばにある炎が強すぎて全然美しさを感じないけど、彼女は花火を見て惚けていた。


「ウドウは今どこにいるの?」

「ウドウ達なら次の島で調査中よ。本当はあなたが強くなってから接触して案内するつもりだったのだけど…どうしようかしら。次の島、危険なのよね。PK関係無しで死ぬ人多いから」

「だったらもう少し強くなってからいくよ。今のままだと足手纏いになるだろうし」


 ぷらはさんとはこの島で会ったけど、あの人は既にこの先に行った事があるはずだ。彼ぐらい強くなってからじゃないと、その危険な島では生きられないだろう。



「ねえ、進化の実欲しい?」

「何それ」

「1つ食べればレベルが1アップ。初心者でも199個食べればすぐにレベルマックスになれるわ」

「絶対貴重なアイテムじゃん」

「沢山あるの。それ食べればすぐに強くなれるけど、欲しい?」

「いらないよ。沢山あるって事はみんな使ってないんでしょ。僕だけズルするみたいで嫌だよ」

「だけどウドウはあなたに早く強くなって欲しいって思ってるんじゃない?」

「なら尚更だ。ただステータスが上がっただけじゃ勝てるゲームじゃないんだし」


 このゲームのプレイヤーはほぼ現実とも言えるこの世界での戦いに慣れている。それに対してまだ僕は未熟だし、技だって習得したばかりだ。

 ちゃんと戦って強くならないと、数字の差は縮められても経験の差は縮まないと思った。


「…つまらないわね。これで欲しいって言ったら撃ち殺して良いって言われてたのに」

「ウドウが?おっかないね…」


 閃光花火の火が消えて、海さんはゴミを炎の中に投げ入れた。


「…移動しましょう」


 そう言って立ち上がった海さんが空を見上げた。アドバンスセブンスの夜空には、巨大な鯨が浮いていた。



 夜の荒野を馬が駆ける。誰かに狙われているかもしれない闇の中を僕達は移動した。


「青い鯨の出現ってタイミングとかあるの?」

「全く分からないわ。一日一度とかだったら良かったけど、今日はこれで2度目なのよね」


 薄暗い闇の中で周囲を警戒する。そうして右を向いた時、動く何かがいる気がした。


「ねえ、右側に──」

「分かってる」


 海さんは背負っていたライフルを両腕で抱えた。僕は胸元に押し付けられた手綱を握り、馬の操作を引き継いだ。とりあえず、味方か敵かも分からないやつに近付かれない様に一定の距離を保とう。



「気付いてる?空に青い鯨が浮いてるわよ!」


 忠告をした海さんが宙に向かって何かを投げた。その物体はプロペラを開いてライトを点灯させ、僕達から離れない様に飛行を開始した。

 ドローンのおかげで暗闇の中で動いていた物体の正体が判明した。そこには10頭の馬とそれを駆る人の姿があった。あれはNPCか?それともプレイヤー?


「ナイン、そのまま馬を左前方に走らせて」

「分かった」

「青い鯨が空に浮いてるのよ!それ以上近付いたらあなた達を撃ち殺す!これがどういう意味か分かるでしょ!」

「僕達もこれ以上近付かないから離れてよ!…もしかしてNPCなんじゃないの?」

「そんなわけないわ。馬に乗ったNPCがこんな風に並走するなんて話聞いたことないもの」


 すると馬はこちらに近付いてきた。


「おい!どっちも女だぞ!」

「テキトーにクエスト中の初心者狩ってただけなのにラッキーだなおい!」


 あいつらはプレイヤーだ!しかも物騒な言動からして間違いなく敵だ!


「近寄ったら殺す!」

「お~怖い怖い。安心しろよ、殺しはしねえから」

「その代わりブッ壊れるまで俺達のオモチャになってもらうけど」


 海さんは馬の上で立ち上がり、そこからさらに夜空に向かって跳ね上がった。


「言動が同人くさい…イメージでしか人を抱いた経験ないのかしら」


 頭部と胸に1発ずつ。僅か20発の弾丸で、馬に乗っていた敵達が全滅させられた。


「撃ち殺したって事はあのプレイヤー達は…」

「もうリスポーンする事はないわ。現実の肉体も不可解な死を遂げたでしょうね」

「いくらなんでも殺す必要は…」

「やらなかったら私達が殺されていたわ。いや、チートの力で死ぬより酷い目に遭わされてたかも」


 ライフルを背負った海さんが馬上に戻って来た。それから手綱を取ると再び馬を走らせた。




 馬を走らせ続けて荒野を抜けた時、空を泳いでいた青い鯨の姿が消えた。


「好んで人を襲う人達はチートが使えるんだよね。ならどうして無敵のチートとか使わないんだろう」

「何?まだ同情してるの?」

「そうじゃなくて…だって気にならない?チートが使えるなら人殺し以外にも最強装備でダンジョン攻略したり、地形やモンスターのステータスを滅茶苦茶にしたりとか色々出来るはずでしょ?」

「確かに…もしかして人殺しが使えるチートにも制限があるのかしら」


 ウドウはそれらのチート付与に鯨が関係しているかもしれないと言った。そもそもあの青い鯨はゲーム上には存在すらしていなかったそうだ。

 人を選んでチートを与えるって事はAIが働いているのか?それとも…黒幕がいて、そいつが悪意のあるプレイヤーの人殺しが捗るようにチートを与えている…のかも。


「…海さん、何してるの?」

「チートに制限があるかもしれないってこと、現実にいる仲間を通してウドウに伝えるわ」

「え?でもただの思い付きだよ?証拠なんてどこにもないし」

「私達が今まで戦ったチーターは死ぬ前にログアウトこそしたものの、無敵っていう相手は一人もいなかったわ。それを事実だと証明してリークすれば、殺害のペースを落とす事に繋がる」


 そうして海さんはメッセージを入力して、現実いるという仲間に送信した。


「ウドウのチーム…ダッシュスラッシャーズは他に誰がいるの?」


 僕の質問は聞こえなかったのか無視されたのか、海さんは何も答えずに馬を走らせ続けた。

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