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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
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第19話 「絶対に良くない事が起こる!」

 アドバンスセブンスからぷらはさんがログアウトした後、僕は一度ルクシャートに戻って来た。


「もう夜か…」


 この日本サーバーの時間は現実の日本とリンクしている。そろそろ光太がお腹を空かせる頃だろうし、一度ログアウトしていいかもしれない。

 そうだ、ログアウトする前に地地さんが用意してくれた部屋に行ってみよう。次にログインした時に危ない目に遭わない様に、警戒はしておかないと。


 ウドウから貰ったアイテムボックスの中に、クシャクシャになった街の地図が入っていた。それを頼りに道を進んで、2つ星宿のグラブ・ジャムンへとやって来た。


「ナイン・パロルート様ですね。地地様からお話は伺っております」


 エントランスに入ると、カウンターに立っていたNPCの店主が声を掛けてきた。初対面のはずなのにどうして僕がそうだって分かったんだろう。


「それではこちらの写真は燃やして消去させていただきます」


 店主が一枚の写真を出した。それは船の上でウドウと話している僕の写真だった。


「それと、地地様から伝言が。この世界で隙は晒さない様に。こんな風に盗撮するみたいに、平気で暗殺を狙ってくる人もいるのだから…以上です」


 叱られてしまった。確かに少しばかり油断していたかもしれない。


 鍵を受け取って指定された部屋に入った。僕は入ってまず、部屋の細部を確認して怪しい物が無いか確認した。


「左に一人と下の階に男女のカップルだったな…」


 この部屋に来る前に他の部屋にどんな客がいるのかも確かめた。下のカップルはNPCだが、隣の部屋にいるのは正真正銘のプレイヤーだ。さっき部屋に入っていく姿を見たけど、NPCとは呼べないほどの凄い装備だった。


 通常、こういう部屋にはマスターとなる人物が選んだ人しか入れない様になっている。しかしチーターはそんなシステムの壁すら突破してきてしまうそうだ。


「念には念を入れておこう」


 僕は玄関の扉を開けて、誰にも見られていない事を確認してから廊下に出た。そして近くの階段を上がっていき、宿の屋上にやって来た。

 こんな誰もいない、ゲーム的に言えばイベントも何もない場所で誰かがログアウトするとは思わないだろう。そう考えて僕は現実に帰還した。




 カタンカタンという音がした。これは食材を切った時に、包丁とまな板がぶつかった時の音だ。

 光太が料理しているのだろうか。部屋中にいい匂いが漂っていた。


「光太…」

「おはようナイン。ネットでプロゲーマーが食べてる料理を調べたんだ。出来上がるのに時間が掛かるから、テレビでも観て待っててくれ」

「そんな悪いよ。どこまで作ったの?」


 目覚めたばかりで身体が重いけど、料理を作るぐらいの体力はある。


 エプロンを巻いてキッチンに入った時、光太は太い大根を切ろうとしているところだった。


「片腕じゃ切れないでしょ。僕がやぁ…る…」


 光太は左腕を失ったはず。実際にそれが原因で意識動転移病が発症して、アドバンスセブンスがプレイ出来なかったんだ。

 しかし僕の前に立っている彼は、左手で大根を押さえて、右手に持った包丁の刃を入れていた。


「どうなってるの!?」

「へっへっへ…聞いたら驚くぞ~」


 光太は料理をしながら左腕を取り戻した過程を説明してくれた。ハッキリ言って、気に入らなかった。


「アイツと同じやり方なんて…謎だらけの魔獣の力を使うなんて絶対ロクなことにならないよ!」

「そうカッカすんなって!ただ腕が生えただけで他は何も貰えなかったんだからさ」

「僕の友達なら何のデメリットもなく治せた!っていうか治すかって聞いたよね!?」

「嫌だそんなよく知らないやつの能力なんて。気色悪ィ…」


 僕は魔獣を生贄にして生やした左腕に意識を集中させた。魔獣の魔力が僅かにでも残っていれば僕の角で感知できる。


「本当に普通の左腕なの?」


 だけど光太の左腕からは彼の魔力しか感じなかった。本当にデメリットはないのだろうか?


「…決めた」

「ん?」


 光太を一人にしておくのは危険だ。魔獣にやられそうとかそういう心配じゃなくて、単独行動させておくと何をしでかすか分からない。


 僕はスマホを取り出して、とある人物に電話を掛けた。


「おいおい人が料理作ってる前でデリバリーなんてそりゃないだろ」


 そんな失礼な事はしない。僕のために一生懸命作ってくれた料理なんだから、出来上がったら喜んで食べるさ。


「もしもしナインちゃん?」

「ユッキー!久しぶり!」


 僕が電話を掛けたのは灯沢(ともざわ)優希(ゆうき)。ユッキーはかつて単端市にあった転点高校で光太と同級生だった女の子だ。


「今どこにいるの?北海道?」

「海外だよ。今は先生の元を離れて修行の旅の途中。あ、ちょっと待って。すぐそこのコンビニで強盗やってる」


 するとユッキーの声が途切れて、スピーカーから物騒な音が溢れ響いた。


「ちょっなんで灯沢と電話してんだよ!」

「お鍋ブクブク言ってるよ」

「あっ!やば!」


 まさか平然と強盗に立ち向かっていくなんて。出会った時は普通に恋する少女だった子が随分変わっちゃったな。


「縛っといたから通報するのよろしくね~!それでナインちゃん、どうしたの?」


 僕は今、アドバンスセブンスで起きている現象とそれを解決するために動いている事を説明。そこでユッキーには僕がいない間、光太の面倒を見ておいて欲しいと頼んだ。


「え…黒金君の?」


 声のトーンが低くなった…ユッキーは一度光太に恋して幻滅してるからなぁ…変な気まずさとか絶対あるだろうな。



「…分かった。いいよ」

「あ、ありがとう。助かるよ」


 とりあえず来てくれるみたいだけど…大丈夫だよね?アドバンスセブンスから帰って来たら今度は二人が揉めてまた一波乱あるとか、そういうパターンじゃないよね?


 ユッキーは明日の昼頃にここへ来る事になった。そのことを光太に話したら、当然というかキレた。


「俺の力が信じられねえっていうのか!実際に俺は魔獣を1体倒したぞ!」

「そうだ!その力は信じられない!絶対に良くない事が起こる!」

「お前ミラクル・ワンドの時もそうだったよな!危険だからやめとけとか言ってた!危険を冒さないで勝てる戦いがあるのか!?」

「それは…」


 ミラクル・ワンドとは違うんだ…絶対にその力は危険なのに…


「心配すんな。この力はきっとミラクル・ワンドと同じでお前と一緒に戦う為に生まれた力なんだ」

「…分かったよ。君がそんな風に言うんだったら信じるよ」


 僕が心配しすぎなだけかな…


 これ以降その力の話は続かなかった。光太が作った料理を並べて僕達は食卓を挟んだ。

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