第14話 「如意銅箍棒!」
メテオ・ビルは宇宙から飛来した謎の多い物体。隕石を構成しているのは、地球に存在する物質と変わらないけど、この中には誰かが暮らしていた文明の跡が残っている。
地球外の知的生命体が住んでいた。だから隕石の建物と名付けられた。
それがメテオ・ビルというダンジョンの設定だ。縦長の隕石の中にダンジョンが広がっていて、中には機械装備の製作に役立つ素材があったり、マシン型のモンスターが徘徊している…とか、道中ぷらはさんが解説してくれた。
「ここ、ボクと友達の思い出の場所なんだ。1年近く前にアドバンスセブンスが始まったでしょ?それでここのダンジョン攻略を動画にしたら今までにないくらい再生されて一躍有名人になったんだ!」
「ぷらはさんって実況者なの?」
「知らない?るーてぃーんえーじゃーずって」
「ごめん、知らない」
「そんな~!」
驚きだ。一年前に発売されたゲームだったのかこれ。それでもお店で試遊できたのは、他に売り出すタイトルがないのか、まだ売れるって自信があるからなのか…
ぷらはさんの所属するグループの話を聞きながら、僕らはメテオ・ビルに入っていった。
「モンスターはボクが弱らせるから、ナインさんはトドメを刺して」
「いいの?こっちの方がもらう経験値多くなっちゃうけど」
「いいのいいの。今さらメテオ・ビルのモンスターなんか倒しても大して経験値入らないから」
駆け足でダンジョンを進んでいくと機械の兵隊に遭遇した。綺麗に整列している兵士の右腕には強力なマシンキャノンが装備されている。
きっと今の僕が喰らったら一撃でやられてしまうだろう。
「それじゃあいくよ」
ぷらはさんが鎌を召喚。これも何かのスキルだろうかと考えたその時、空気が変わった。
浮いていた鎌を掴んだぷらはさんの格好が変わった。死神のようなコートを羽織り、まるで闇を纏ったみたいだ。
「ヘルサイスタッチ!」
技の名前を叫んだぷらはさんは残像を創りながらモンスターに接近し、紫色の刃で傷を付ける。攻撃回数は少ないが狙いは正確で、マシンキャノンを切り落とした上に足を破壊して逃げられなくしていた。
「ナインさん!」
見とれている場合じゃなかった!
僕は瀕死のモンスター達にパンチやキックでトドメを刺して、大量の経験値を回収していった。ちなみに経験値と言っているけど、アドバンスセブンス内での正式名称で言うならレベリングポイントだ。
「凄い!一気に経験値が!こんなに沢山!」
「そりゃそうだよ。本来メテオ・ビルは上級者向けのダンジョンだもん」
経験値はあっという間に溜まっていき、ダンジョン突入から間もなくレベルアップした。船の上で負け続けるよりも効率がいいレベル上げだ!
「遅れずについて来てよ!」
「あぁ!」
ぷらはさんが移動を再開し、僕はその後を追う。しかし筋力に差がある以上、引き離されてはスピードを落としてもらうという事の繰り返しだった。だけどこれはレベルの差だけじゃない。彼が使っているあの鎌にも何か秘密があるはずだ。
「ねえぷらはさん!その鎌って何なの?それを握った時に恰好も変わってたよね」
「…ナイショ!」
「え~何でだよ!」
いや、語ってくれなくても分かるぞ。このゲームには持ち主をパワーアップさせる武器も存在するんだ。それを手に入れる事が出来れば僕はもっと強くなれる!
ダンジョン攻略は流れ作業だった。ぷらはさんがダメージを削ったモンスターに僕がトドメを刺す。道中見つけた宝箱の中身は全部もらってしまった。ここよりも良いアイテムが手に入る場所がマンティ・ゼーレにはあるらしい。
「ナインさんは武器使わないの?リアルじゃ格闘家だったりする?」
「う~ん、遠からず…でも武器は欲しいな。振り回しやすい杖みたいな」
「あ~杖術的な?だったら…如意銅箍棒だったら作れるんじゃない?」
「如意ド…なんだって?」
「如意銅箍棒。如意棒シリーズの中でも最低ランク武器だよ。壊れやすいけど製作に必要なアイテムが緩いんだ」
「如意棒シリーズって何?」
「え、如意棒知らないの…マジで?」
如意棒とは何だろう。知らないだけでここまで驚かれるって事は、この世界じゃかなり有名な杖みたいだ。
それよりも!その如意銅箍棒を作ろう。モンスターの硬い装甲を何度も殴ってたから手が痒くなってしょうがない。
「ねえ、武器ってどうやって作るの?」
「設備を使ったりジョブが鍛冶のプレイヤーに頼んだり…インスタントアイテムでも使わない限りダンジョンの中じゃ無理だね」
「そうなんだ…」
「だけどメテオ・ビルには武器、防具を造れる設備があるんだ。ほら、ちょうどそこにあるアレ」
ぷらはさんが鎌を向けた先には大きな機械があり、その機械に近付くとウィンドウが現われて尋ねてきた。武器と防具のどちらを造るのかと。
「武器を選択したら種類か武器名で検索を掛けて。銅の如意棒のレシピはゲーム開始時点で覚えてるから」
それからぷらはさんのガイド通りに手を動かした。如意銅箍棒を造るのに必要なのは、入手してから1時間が経過したアイテムという変わった物だった。昨晩、光太とレベル上げをしていた時にアイテムを拾っておいて良かった。
「出来た!如意銅箍棒!…ついでにあと2本造っておこう」
出来上がった杖を振り回す。ちょうどいい重量で手からスッポリ抜けてしまいそうな気配もない、僕の好みな質感だ。
「エモートでもないのに綺麗に振り回すね」
「あ、あはは。好きなんだこういうの」
いけないいけない。リアルの僕に繋がりそうな事はなるべく避けないと。