第13話 「こんにちわあああああああ!!!」
試合の数だけ僕は負けた。それでも必ず強くなれるのが、ゲームの世界の良いところだと思った。
僕はアドバンスセブンスの中で現実よりも強くなる事を決意した。ウドウからアドバイスをもらったからというのもあるけど、現実には光太がいてくれるのを思い出したからだ。
思えば僕は人に恵まれている。光太、ハクバ、加奈子、そして今回はウドウと出逢うことが出来た。
いつも心強い仲間がいてくれるなんて、凄い幸せなことだ。
「…言っておくがアバターの面がいいからってプレイヤー自身も褒められるような外見してるとは限らないからな」
「じゃあウドウってやっぱり…」
「やっぱりって何だ」
戦いを切り上げ、僕達は客船のテラスに移っていた。別に見惚れていたわけじゃないけど、ウドウの顔をずーっと見ていた。
「しばらくはレベル上げに専念してもらうぞ。先に上陸した地地が部屋を取ったから、そこを拠点にするといい。それから…」
ウドウからアイテムの詰まったボックスが送られてきた。中身は煙玉やギリースーツなど、身を守るための物ばかりだった。
「青い鯨が出たら自分の身を守れ。次会う時までは絶対に生き延びろ」
客船が着港の動きに入る。慣れているプレイヤーは既に港に飛び降りていた。ウドウも柵に手を掛けて、他の人達のように港へ移った。
「…ねえ!次会えるのっていつ!?」
「生きろ!」
生きろってナウシカかよ…そりゃあ言われなくても頑張るけどさ。
神秘の島マンティ・ゼーレの東部にある港町ルクシャート。ここはアークスよりも賑やかで、日常的に魔法が使われているようだ。
その光景を見た僕は、少しだけアノレカディアの事を思い出した。
「こんにちは!」
「マンティ・ゼーレは神秘の島。ここで魔法を使う時、エネルギーポイントの消費が減って性能もアップするんだ」
まずは情報を収集だ。客船を降りた僕はそこら辺の住民に話し掛けまくった。
「こんにちは!!」
「このルクシャートを出て北に進むとメテオ・ビルに着くぞ」
「こんにちは!!!」
「素人が強い武器なんて使おうとするなよ。まずは軽くて扱いやすい武器からだ。強い武器はそれだけ主を殺す危険性を孕んでいるからな」
「こんにちわあああああああ!!!」
「あ、あの、ボクNPCじゃないんですけど…」
「えぇ!?ごめんなさい!」
はっっっず!間違えてプレイヤーに話し掛けちゃった!NPCと全く違う装いをしてるのに、僕は何やってんだ!
「えぇ!?このレベルでここまで来ちゃったの?危ないよ」
「あはは、友達に案内されてここまで来たんだ。ひとまずこの島でレベルしろって。そう言ってどっかいっちゃった」
僕はNPCと間違えて話し掛けたぷらはさんとフレンドになった。
それにしてもウドウのやつ、フレンド登録しないでどこかに行っちゃうんだもんなぁ。登録しておけば連絡も取りやすくなったはずなのに。
「スパルタだね…レベル上げならやっぱりダンジョンかな。コロシアムで戦うって方法もあるけど、素人が勝ったら八百長よばわりで負けたら罵声の雨だからオススメしないよ」
なんだそりゃ。ある程度の力がないと認めてもらえないのか。
「そもそもお前らみたいなヘボ、コロシアムに入れるつもりもね~けどな!はははは!」
通りすがりの大男が僕達を笑った。物凄い装備で、今戦えと言われても勝てる気がしなかった。
「…あれ?僕はともかくぷらはさんは笑われる事なかったよね」
ゲーム開始時から変わらない僕と違ってぷらはさんの装備は万全だ。たとえレベルが見れなくても、外見だけで強いか弱いかある程度判別は付くはずなのに。
「まず今の人は他プレイヤーのレベルが分かるコズマバングルを装着してた。それに対して僕はステータスカモフラージュっていうスキルで偽ってた。だからあいつは僕を弱いって勘違いしたんだ。ここまでついていけてる?」
「うん」
「徒党を組んでるプレイヤーの中にはそうやってステータスを覗いて、自分達の邪魔になる相手を消そうとあるタイミングで一斉に襲い掛かる連中がいるんだ」
「もしかして、青い鯨の時に!?」
「鯨を知ってるんだね。サンライズアイランドみたいに初心者が集まる場所じゃ文字通りの狩りが行われてるけど、モラルのない猛者が集まる場所で起こるのはマフィアの抗争みたいな戦いなんだよ」
「どうしてそこまで出来るんだ!人を殺してるって分かってるんだろ!?」
「まあ…金が関わってるとなるとね」
ぷらはさんは背を向けて歩き出した。拠点を用意してくれた地地さんには悪いけど、ここにいない方が良い気がしてきた。
「どこに行くの?」
「ボクも強くならないといけないんだ。友達がこのゲーム大好きでいくら言ってもやめなくて…放っておけないんだ」
今までの経験から考えると、生きて強くなるためにはまず誰かと行動を共にするべきだ。ここで彼と組まないという手はない!
「僕も同行していいかな!?」
「君も来るの?…うん、別にいいよ。お互い一緒に行動してた方が安全かもしれないしね。それじゃあメテオ・ビルにでも行ってみようか」
こうしてウドウと別れた後、ぷらはさんと出逢った僕は彼についていくことを決めた。
ウドウ達とまた会うその時まで、もっと強くならなければ。