第11話 実力差のある戦い
ウドウの背中を追って歩いたナインは、客船屋外にあるバトルエリアに到着した。そこには計6つのバトルフィールドが存在し、同時に6組まで対戦が行えるのだ。
「って来たけど誰もいないね」
「マンティ・ゼーレに着くまでログアウトしてるか他の事で時間を潰すやつばかりなんだろう。そもそもこんなギミックもない味気ゼロのフィールドを好むやつなんて多くないからな」
ウドウは受付で料金を支払った。そして船が港に着くまでの間だけフィールドAのオーナーとなると、ウィンドウを出して船内チャットにメッセージを入力した。
「1000…いや10000だな」
「何が?」
「ただレベル23の初心者と闘ってくれって言っても誰も来ない。だから参加費1万で勝ったら2万やる条件を付けた」
「僕の修行で賭博するな!」
「どこが賭博なんだよ。こっちの財布の中身だけが擦り減っていくんだぞ。俺の自腹なんだから一戦一戦全力でやって強くなれよ」
言ってくれるなぁと思うナインは準備運動をした。相手との差は想像も付かないが、かと言って負けるつもりで戦う気はゼロ。むしろ自分というダークホースのジャイアントキリングを魅せてやろうとすら考えていた。
程なくして、チャット欄から良い儲け話を聴きつけた青年がエレベーターで上がって来た。
「すいませ~ん、対戦いいっすか?」
「ええ。始めたばかりの友人を鍛えるのに協力して欲しいんです」
ウドウが話を進めている中、ナインは対戦相手の恰好に注目した。
殴ればこちらが傷を負いそうな鋼鉄のアーマー。背中には斬るというよりも砕くというイメージが勝る大剣。誰がどう見ても鈍足な超パワータイプだった。
「それじゃあ両者フィールドへ。青い鯨が出た場合は戦闘を中止し、お互いフィールドの端まで離れる様に」
青い鯨が出現した場合、フィールド内でのバトルは中断できず、外に出てリタイアすることが出来ない。なのでどれだけ試合が白熱していても、青い鯨が出たら戦いの手を止めるというのが一般的なプレイヤーの間で決められたルールだった。
「ナイン、何か武器は必要か?」
「素手でいい!」
この時までナインは勝機があると思っていた。しかし試合が始まると同時に見せた相手の動きで、その差を分からされてしまうのだった。
「速い!?」
スタートダッシュを見せた敵の動きは想像を遥かに上回っていた。僅か3秒で大きく開いていた距離を詰められるナインは、振り上げの構えを捉えて横に跳ねた。
「ヴァイトスピン!」
技名を叫んだ青年が回転斬りを繰り出す。
攻撃の初動、大剣がエネルギーを纏ったのを見逃さなかったナインはさらに後方へ跳ねた。
「速すぎるだろ!」
ナインの推測通り、この青年は間違いなく鈍足だ。だがそれはレベル60代という遠く離れたステージでの話である。
格下のナインにとって相手は高速。真に鈍足なのは敵から見たナインという雑魚なのだ。
「ビギナーズラックはここまでだ!」
「ちくしょう!」
無意識の内に、相手はゲームが強いだけの一般人とナメていたナインにとってその敗北は凄く屈辱的な物だった。
何の小細工もない突進は最初よりも速く、防御すら間に合わなかった。そして必殺技でもないただの振り下ろしを喰らっただけでHPは0になり、ナインはフィールドの外にリスポーンした。
「よっしゃ!2万ゲット!」
対人戦で得る経験値は勝者の方が多いのだが、相手プレイヤーが弱いと必然的に得られる経験値は少なくなる。今回は負けたナインの方が多く経験値を得るという現象が起こっていた。
「くぅ…」
「レベルは上がりそうか?」
「あともう一回負け…もう一回戦えば!」
力の差を思い知らされて不貞腐れてはいるが闘志は残っていた。
そうして次のプレイヤーがフィールドに立ったが、今度は先程とは全く違って身軽に動きそうな忍者だった。
「よし来い!」
2戦目。言うまでもなくナインの敗北である。
忍者の戦闘スタイルを大雑把に解説すると、攻撃力の低いクナイで攻めて防御力が低く軽量なスーツを纏ったスピード特化型だった。
しかしナインにとってはクナイによる一撃すら致命傷で、試合は10秒足らずで決着してしまったのである。
「これで2万ゲット?ねえ、船内にいる友達呼んできてもいい?」
「参加費さえ払ってくれればこちらが玉切れするまで何度でも相手してやろう」
「いくらレべチだからってこんな…!」
ナインは昔通っていた学園での日々を思い出していた。そこでは今の戦いのように、手も足も出ない戦いを何度もさせられた。
「どうした?レベルアップしたんだろう。ポイントを振り分けないのか?」
ステータスポイントを筋力に振れば、今までの2戦よりは動きが良くなりまともな戦いが出来るだろう。しかしそれでも勝てない程の差があるのは明確で、さらにナインにはある懸念があった。
それはここで体感した超パワーによって、現実での戦いに支障が出ないかというものである。
「あっ次の対戦相手の人、ちょっと待ってて!ステータスポイント振り分けるから!」
事実を悟られない程度に事情を話そう。そう決めたナインはウドウの元へ相談しに行った。