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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
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第10話 「僕は逃げないよ!」

 アークスの港には巨大な客船が停まっていた。


「でっけー…」

「マンティ・ゼーレまで出港してから3時間。その(かん)ログアウトして3時間経った後にログインしたら、目的地の港町からゲームが再開されるんだ」

「3時間も船の中なんて退屈じゃない?」

「退屈しのぎが出来る施設はあるにはあるが、大抵のやつはアイテムで移動するからな」

「じゃあ僕達もそういうの使おうよ」


 ウドウは僕の提案を無視してチケットを購入した。


「ハイリスクハイリターンだ。移動した先でPK狙いの輩が待ち伏せている可能もある」


 便利な物ほど使われる頻度は高い。その隙を狙われるパターンもあるのか。

 敵…というか、人殺し狙いの連中は甘くなさそうだ。


 僕と地地さんもチケットを購入して乗船。それから出港時間となり、客船はマンティ・ゼーレに向かって動き出した。


「俺達はこのまま残るつもりだが、お前はどうする」

「友達の容態を見ておきたいからちょっとだけログアウトするね」

「分かった。ログインしたら客船中心部のプレイヤーエントランスからゲームが再開されるはずだ。その近くで合流しよう」

「分かった。それじゃあ!」


 ログアウトして意識が現実に戻る。隣で眠っていた光太はキッチンで水を飲んでいた。目を覚ましたばかりなのか、怠そうにしている。


「ようナイン…どうだった?」

「君はウドウに助けられたんだよね?」

「そうだ。ところで俺はどうなってんだ?ログアウトしてからの記憶が曖昧だ」


 現状を把握できていない光太に、彼がログアウトしてから起こった事を話した。話を終えた時、彼は悔しそうな表情をしていた。


「ったく…ゲーム出来ない病だなんてな」

「あのさ光太──」

「言うな。もう自分が何をすればいいか分かってる。魔獣とかは俺に任せてお前はその青い鯨っていうのに集中しろ」

「大丈夫?その左腕──」

「言っとくけどな、自暴自棄になったとかそういうのじゃないからな。策があるんだ」


 彼の情緒はともかく、自信ありげなその話し方から何か作戦があるのは本当のようだった。


「だけど君だけじゃ危ないよ。誰か仲間を──」

「一人で充分だ。むしろ他に誰かいると困る…これが成功すれば俺は強くなれる。この現実世界でお前と並べる程の力が手に入るんだ」


 一体どんな策が浮かび上がったのか…


 信頼出来る仲間の企みに危険を感じた。


「さっさとアドバンスセブンスに戻れ。人を待たせてるんだろ」

「うん…ウドウは男性だけど大丈夫なの?」


 光太は嫉妬が激しいやつだ。目に見えない場所で他の男と行動を共にするとなると、また何かトラブルを起こす危険があるかもしれない。

 そう思って尋ねると、彼は意外な返答をした。


「我慢してやる。本音を言えばゲームで死んでるやつらなんてどうでもいいし、ヘッドギアだってぶっ壊したい。だけどそんなことして嫌われるのはごめんだからな。それに盾になってくれる連中がいるなら都合がいい」


 眉間に皺を寄せてそう言った。盾って言ったけどウドウ達は僕が足手纏いだったらそのまま見捨てるつもりだから、守ってもらえることはないと思う。

 それにしても日に日に言動が過激になっている。一体何に影響されているんだろう。


「じゃあこっちの世界は任せるよ?救援も呼ばないからね」

「はいはい。ほら、さっさとゲームに戻れ」

「本当に大丈夫?」

「うるせーな!ここで願ったってどうせゲームに戻るんだろ?」


 光太の言う通りだ。アドバンスセブンスの中では法に触れないからと娯楽感覚で人殺しを楽しんでる連中がいる。これ以上被害者を出さないためにも、あの青い鯨を消滅させないといけないんだ。


「どうせゲームの中の男だ。実際は風呂に入れないぐらい油ギトギトのブタ野郎だろうさ」

「このタイミングでそういうのやめてんくんない!?うわー次からウドウと話す度にそういうイメージが浮かんできちゃうよ…」


 ま、まあ会うのはゲームの中だけだし。きっと僕の中に出来上がったカッコいいお兄さんっていうイメージが崩れることはない…はず。


「それじゃあ行ってくる…って食事とかしに戻って来るから、こんな改まる必要もないよね」

「こっちは俺に任せとけ。もう駄々こねて引き留めるほどガキじゃねえよ」


 ここまで言うなら信じて大丈夫だろう。


 そうして現実世界を光太に任せた僕はアドバンスセブンスに帰還した。


「ここはプレイヤーエントランスか…」


 喫煙室のような狭い部屋を出て綺麗な通路を進んでいくと客船内の大通りに出た。向かいにあるベンチに座っていたウドウを見つけるのに時間は掛からなかった。


「戻ったよ。地地さんは?」

「どっかそこら辺だ。現実での用は済んだな?もしかしたら今のが最後のログアウトになるかもしれないぞ」

「今さら脅したって僕は逃げないよ!青い鯨は絶対に消さないといけないんだ!」


 ウドウは立ち上がると歩き出した。モブの人混みの中で逸れてしまわないよう、僕はしっかりとその後ろについて行った。


「この船の中でレベル上げを出来る方法はいくつかあるが、やっぱり人と戦うのが手っ取り早い。負け試合ばかりになるだろうが不貞腐れんなよ」

「強くなれるなら何度だって負けてやる!」


 ようやくスタート!まずは敵に負けないように修行だ!

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