第9話 「もっと教えてよ」
名前のない森にてウドウさんと再会した。そこで遂に、僕はこのゲームの真実を知る事となった。
「全部教えてよ。一体このゲームで何が起こってるの?」
「まずは人が死ぬ理由を知っておいた方がいい。ウッカリ殺めた後じゃ遅いからな」
僕とウドウさんはメニューウィンドウを開いてフレンド登録を行った。これによってメッセージに写真を添付出来るようになったわけで、早速1枚の画像が送られてきた。
「これは!」
送られてきたのは、僕がログアウトする直前に見た大きな影の写真だった。
あれって幻じゃなかったんだ!
「その様子だと一度は見たことがあるみたいだな」
「僕を襲って来た初心者狩りから逃げてログアウトしようとした時、空にこいつがいたんだ!」
「こいつが空にいる時、如何なる理由であれHPが0になったプレイヤーの心臓が止まる」
「そんな危ない奴がいるのにどうしてサービスを停止しないの!?っていうか僕達もそうだったけど、ここで説明されるまで全く知らなかったよ!」
「関係者が総出で情報を隠蔽しているみたいだからな。元々ゲームハードという認識が強い世間一般では娯楽として認識されているバーチャルリアリティも、現代社会ではメタバースという呼ばれ方で必要不可欠な存在なのが事実だ。そんな時代にヘッドギアを付けてる人間が次々に原因不明の死を遂げてるなんて報道してみろ。ユーザー達が次々に離れていき、その損失は計り知れない。世界規模の経済パニックが起こるぞ」
「そんな…」
だからって人が死ぬゲームを放置しておくなんて…
「これまで死亡したやつらのヘッドギアを調べたが、人を殺せるような細工はされていなかった。ここからは俺達の推測だが、プレイヤーのデスと同時に空にいる鯨が超常現象を起こし、ヘッドギアを通してプレイヤーに干渉して絶命させていると思われる」
「鯨?これ鯨なの?」
「おっとそうだった。今からもう一枚写真を送るぞ」
ウドウさんから2枚目の写真が送られてきた。そこには空に浮かぶ大きく青い鯨が写っていた。
「マジに鯨じゃん!」
「あいつの元までドローンを飛ばして手に入れた写真だ。因みにドローンは、鯨に接触した瞬間に消滅した。アイテム欄、購入履歴、さらにはドローンを購入するためのゲーム内通貨を購入した履歴すら消えていた」
「何それ!?じゃあもしも僕達プレイヤーが触れたら…」
「分からない。もしかしたら脳内の記憶…いや、現実の肉体そのものが消えてしまうかもしれないな」
ウドウさんは笑いながらそう答えた。
いや、普通に洒落になってない回答なんですけど…
「空の鯨には、ロシア発祥のゲームから青い鯨という名称が取って付けられた」
「青い鯨?何それ?」
「ゲームとは言ったが胸糞悪い、ネット上で参加者達に自殺教唆する異常行為だ」
ちょっと待った。空に現れるやつも凄いけど、その元ネタの青い鯨もかなりインパクトのある話なんだけど。
「俺達はあの青い鯨の謎を解き、消滅させることを最終目標にしている。あんな物、バグで済ませていい存在じゃないからな」
青い鯨…現実世界でヘッドギアから感じていた力の根源はそいつなのかな。
「青い鯨についてもっと教えてよ」
「あいつは元々このゲームに存在しない物だった。今はもう消えてしまったが、アドバンスセブンスの制作に携わった人物がスレを立てて、そこで鯨のようなモンスターは用意していないことを語った。色々な考察をされているが、その正体は想像を絶する物なのだろう」
ウドウさんは立ち上がり、地面を指さした。
「アドバンスセブンスにはここ、サンライズアイランドの他に6つの島がある。俺達はゲーム内を回って、青い鯨の謎を解く鍵がないか探索しているわけだ」
「…ゲームソフトにハッキングとかしないの?」
「いい質問だな。ヘッドギアからゲームサーバーへのハッキングは試したが無駄だった。セキュリティではない不可思議な力に遮られたんだ。俺達にはチートを許さず、逆に人殺し目的でプレイするやつらにはチートを付与する…おそらく、鯨が関係しているはずだが詳しい事は分からない」
「どういうこと…」
「例を挙げるとすれば…俺とお前が出会った時のことだ。俺が倒したあいつら、戦闘状態にも関わらずログアウトしてただろ」
「そうだ!このゲームって戦ってる時はログアウト出来ないはずなのに、最後に銃を突き付けたあいつはログアウトしてた!」
「自分達はヤバくなってもログアウト出来る。青い鯨が出現した際に初心者狩りをやりやすくする酷いチートだ。自分と仲間以外入れないプライベートエリアに逃げ込んだら、そこまで追って来たという話も聞いている」
普段は好き勝手やって、自分達の都合が悪くなったら逃げるなんて卑怯すぎる話だ。
絶対にあの青い鯨は消さなければならないと、ウドウさんから話を聴いた僕は決意した。
「それでこれからどうするの?」
「港から出る船で神秘の島マンティ・ゼーレを目指す。俺達は島の調査、ナインにはそこでレベル上限の200に到達してもらう」
「レベル上げ!?」
「今のまま戦っても足手纏いになるだけだ。命が懸かってる戦いの中で仲間を庇う余裕もない。自分の身は自分で守れるようになっておけ」
「う…分かったよ」
レベル200か…到達するのにどれくらい時間が掛かるんだろう。
話を終えた僕達は森を出て、港町アークスに戻った。