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第24話 「そんな事するはずがない!」

 夕方、俺とナインは商店街へ買い物をしに来ていた。


「沢山買ったな~」


 さっき荷物持ちジャンケンで負けたナインが、気怠けそうな顔でビニール袋を2つ持っている。やっぱりどっちか持ってやるべきだろうか。


「光太、そろそろ帰らない?」

「だな。ほら1つ寄越せ」


 そうして手を出すと、ナインは両手のビニール袋を両方とも俺に渡して来た。そしてポケットに手を入れて、福引き券を取り出した。


「あーここの商店街の福引きな…」

「せっかくだから僕回してくるね!」


 10分後、ナインは両手にお菓子の入ったビニール袋を持ち、落胆した表情で戻って来た。


「何等だった?」

「1等…荷物増えた…」

「おぉ、良かったじゃん」

「だって~1等でお菓子の詰め合わせだよ?酷くない?」

「しかも賞味期限ギリギリのな!」


 この商店街の福引き。気になる景品は色んな店での売れ残りである。良い時にはテレビなどが並んだりするが、それでも小型の物だ。

 あまり期待して回す様な物じゃない。


「大した景品も無いのに、3つのお店で買い物しなきゃ回せないんて酷いよ!」


 帰り道、ナインはまだ福引きに対して文句を言い続けていた。

 福引き券は1度の会計で1枚貰えるシステムである。

 それが今日の内に回せたのは、俺のブレザーをクリーニング屋に出してから、ナインの衣類を買いに服屋へ行き、最後に野菜を買いに八百屋へ行ったりと、必要な事が多かったからだ。

 アパートから遠くないスーパーで事足りるのだが、今日は気分で商店街の方まで行った。


 アパートに戻るとカレーの良い匂いがした。下の階に住むサヤカ達の夕食はカレーライスだろうか。


「アノレカディアの福引きは商品券、金券、旅行券、職人の打った短剣ってもっとワクワクさせてくれる物が景品だったよ」

「………今日は魔獣が出なくて良かったなぁ」

「だね!」


 グチグチ言っていたナインが笑顔になり、返事をしてからは鼻歌を口ずさみ、階段を上がった。

 しかしナインは階段を上がったところで足を止めた。俺も駆け足で階段を上がると、部屋の前に見たことのある男性が立っていた。


「あれ…厚木(あつぎ)先生?」

「黒金!良かった、無事だったか!」


 俺が中学で入っていたサッカー部で顧問をやっていた先生だ。部員を良く見ていて、俺みたいな能無しでも上手く使ってくれる凄い人だった。

 それにしても…無事だったか?何かあったのか?


「お前の親父さんからここに住んでるって聞いて急いで来たんだ…黒金、中学の知り合いでお前がここに住んでるって知ってるやつは誰かいるか?」

「いいえ…あの、何があったんですか?」


 表情とこの焦り具合。何か良くない事が起こってるに違いない。


「…落ち着いて聞いてくれ。真田、山西、小島が何者かに暴行を受けて病院に送られた。かなりの重症で、今も意識が戻ってない」

「あいつらが!?一体誰にやられたんですか!」


 そいつらって同じサッカー部だったやつらじゃないか!


「分からない…ただ、やられた全員、脚にこんな文字が彫られていたんだ…結構キツイから覚悟しとけよ」


 そう言うと先生はスマホを開き、俺に脚の写真を見せた。確かに、そこには何か鋭利な物を使った彫られたと思われる傷文字があった。


 彫られていた文字はavengeだった。意味は復讐。それもリベンジとは違って、正当な復讐を意味している。


「真田たちはお前と同じ学年だ」

「つまり同じサッカー部で同年代の俺も、襲われる可能性があるって事ですね」


 だが途中で退部した俺が、果たして狙われるのだろうか…


「もう警察に届けは出しているけど、なるべく不要な外出は避けるように。それから、お前はここに住んでいる事を誰にも話すな」


 そうして先生は行ってしまった。久しぶりに再会したのにあっという間で、それも暗い話だった事がショックだった。


「…復讐」


 犯人はいじめを受けていたのだろうか。しかし中学の頃を思い返してみても、俺がいじめをやったという記憶はない。いや、自覚がないだけで俺は誰かを…

 

「光太」


 ナインが扉を開けて部屋に入っていた。


「僕、光太はいじめをしない人だって思うよ。だからあんまり深く考えなくて大丈夫だよ」

「ナイン…」

「光太はいじめられる側でしょ!いや、いじめられるほどの存在感もないね!」

「言ったなお前!」


 緊張が一気にほどけた。今の暴言はナインなりの気遣いだろう。お菓子抜きで許してやろう。

 例え次に俺が襲われるとしても、その時まで深く考えるのはやめよう。過去の事はどうすることも出来ないのだから。




 次の日、いつもより早く起きた俺はテレビのチャンネルを切り替えた。ナインはゲーム中に寝落ちしたのか、椅子に座って眠っていた。

 涎を垂らしてみっともない姿だ。そうだ、写真を撮っておこう。


「次のニュースです。昨晩、単端市の路上にて付近の中学校の男性教員が何者かに襲われました。警察が駆け付けた時に犯人は既に逃走。襲われた男性は今も意識不明の状態です。通報をした人は…」

「なんか黒い格好の少年がね、男の人を襲ってたんですよ!通報した後はもう怖くて逃げましたね」


 画面には昨日会ったはずの先生の写真が映っていた。


「………」


 何がアベンジだ。俺たちを狙った犯行じゃなかったのか?どうして先生が襲われる必要があるんだ。


 他のやつらは無事か?俺を含めて、犯人のターゲットは残りは5人。マネージャーを入れたら6人になるか。


「うぅん…あれ光太?どこか行くの?」

「ちょっと知り合い達に会ってくる!」


 皆が心配だった俺は住所を知っているやつの家へ行き、そいつから連絡先を入手した。一応6人全員無事の確認は出来た。皆、家で大人しくしているようだ。


 ん…?待てよ待てよ。だとしたら今一番危ないのって…俺じゃね?


「そんなまさかー!マッカーサー!」


 念のため周りを確認!…うん、大丈夫だ。俺を狙ってそうなやつは一人もいない。

 やっぱり、退部した俺は犯人の復讐対象ではなかったみたいだ。

 出発前は焦ってたけど冷静になって思う。どうしてナインを連れて行かなかったんだろう。あいつがいたら犯人をすぐ特定出来たはずなのに…


「ヒントを出しておいたのに外出って、頭悪いんだなお前」


 声がした途端、俺は慌てて上を向いた。すぐそばの電信柱の上に、誰かが立っていた。


 ………なんだこの感じ。全身が突き刺される様な…怖い!


「ナ、ナイン…!」


 しまった!ナインはいないんだった!逃げなきゃいけないのに、足がすくんで動けない!


「僕もそうだった。怖くてやり返す事、逃げ出す事が出来なかった…今のお前みたいにな!」


 電柱から跳び跳ねたそいつは、こちらに向かって降下してくる。ただ飛び降りるだけで出せるスピードじゃない!


「死ねぇ!」


 殺されるのか、俺!?




「邪魔をするな!」


 絶体絶命のその時。どこからか現れたナインの仲間の一人、ツバキが巨大な盾でその一撃を防いだ。


「こいつこの世界の人間?パワーが普通じゃないんだけど」


 俺は片手で持ち上げられて、そのまま後ろへと投げられた。


「キャッチー!」

「ナイン!?」

「朝トレ中のツバキから、光太が酷い顔で走り回ってるって聞いて来たんだ。ごめんね、すぐに動けなくて」


 俺を攻撃してきたのは同い年くらいの少年だ。顔をよく見てみたが知らない人物だった。復讐される覚えはない。


「お前は誰だ!」

「お前達サッカー部の人間から虐めを受けていた白田(しらた)だ!」

「お前なんか知らねえよ!俺はいじめなんかやってねえ!」

「やってるやつは自覚がないからな!当然だろ!」


 確信した。俺は何も悪くない。白田ってやつはクラスにいた気がしたが、面識は一切なかった。


「だったらなんだ?先生もお前をいじめたのか?」

「そうだ!」

「嘘を吐くな!あの人がそんな事するはずがない!」


 復讐に燃える少年は、ツバキを無視して俺に襲い来る。

 そんな白田の強烈な突進攻撃(タックル)を受け止めたのは、まさかのナインだった。こいつ、魔法だけじゃなくて格闘も出来るのか!


「光太は何もやってないんでしょ!なのにどうして襲う必要があるの!」

「俺を虐めたやつらにはとことん恐怖を味わってもらう算段だ。そのためにもまずは周りの何気ない知り合いから、友達、家族と順番で潰していき、最後は自分達なんだと絶望させる!生ぬるい復讐で終わらせはしない!」

「自分が何やってるか自覚あるの!?君をいじめていた人達と変わらない最低な事だ!」

「自覚はあるさ!あいつらと違ってな!」


 押さえ込もうとしていたナインだがパワー負け。身体が跳ね上がったが、空中で姿勢を取り戻して見事に着地した。


「光太っ!」


 ナインが杖を振った。俺の身体は魔法を受けたのか、勢いよく空中に浮かび上がった。

 ふぅ…白田の攻撃をギリギリで避けれたのは良かったが、今度はジャンプして俺を追って来てる!これはまずい!


「お前もそうさ!きっと誰かをいじめたはずだ!自覚しようとしない卑怯者だ!」

「俺は…俺はやってない!」


 俺は絶対にやってない。力を振り絞ると、二度目の飛行ということもあって身体は自由に動かせた。しかし空を逃げ回る俺を、白田は空を蹴って猛スピードで追って来たのである。


「ナイン!こいつおかしいぞ!人間は普通飛ばねえもん!」

「ぬうううん!」


 割って入ったツバキが再び攻撃を受け止めた。白田の攻撃力は上がっているのか、盾にはヒビが入っている。


「こうなったら…ナイン!シールド・ホールドとあんたのボディ・ロックを合わせる!」

「分かった!固めるんだね!」


 なんだ!?秒で作戦立てたと思ったら、ナインも空に跳んできたぞ!?


「お前ら!邪魔をするな!」


 2発目の直前、ナインが背後から白田の上半身を取り押さえ、下半身にツバキが潜り込んだ。

 ナインが白田の動きを封じた一瞬、ツバキの使っていた盾の小さなバージョンがそいつの間接部に出現。白田の抵抗を完全に封じ込みやがった!


「最後にウェイト・ワンドで重力倍増!せーのっ!」

「「ソードマジック!シールド・ロック!ボンバアアアアア!」」


 重力が増した事で、3人は物凄い速さで地面に落ちていった!あれはもう隕石だ!あんなの喰らったらただじゃ済まないぞ…!


 地上では身体を叩き付けられた白田が倒れていた。地面が割れる威力だと言うのに、まだ息をしている。


「…ところでさっきのソードマジックってなんだよ。魔法ってよりもプロレス技だろ」

「その話はまた今度で…それよりもこの人だよ。身体の内側に魔獣がいる。多分、寄生能力を持った小さな魔獣だよ。だから出現を感知できなかったんだ」

「魔獣だって!?だからあんなに強かったのか!取り出せるのか!?」

「多分摘出するよりも中にいる内に焼き殺した方が早い。準備するからその人見といて」


 ナインはウエストバッグを漁って準備を始めた。格闘戦も出来たんだな、こいつ。


「僕は…」

「心配するな。魔獣はナインがなんとかしてくれるから…」

「高校に入って、友達が出来て…幸せだった。それなのに、突然あいつらの事を思い出したら………涙が止まらなくなった!」


 俺はいじめを受けた事がない。どんな言葉を掛ければ良いのか分からなかった。


「急に力が溢れて…やり返さないって決めてたのに…僕は!」

「君は悪くない…全部魔獣が悪いんだ。ナイン、記憶を消す杖ってあるか?」

「あるにはあるけど…もしかして魔獣に関する記憶を消すつもり?」


 そうだ。魔獣によって狂わされた事なんて、覚えていない方が幸せだろうからな。


「準備出来た。それじゃあ始めるよ」




「ガルルル…」


 聞き覚えの唸り声がして、俺たちは振り向いた。

 白田の中に魔獣がいたから、そいつは現れたのだろうか。


「お前は…!」


 以前、夢の中で魔獣を噛み殺したあの獣人だ。やつが俺達の前に姿を現した。以前と同様で穏やかな状態でないのは明らかだ。


「ツバキ!」


 ナインが叫ぶと、ツバキが巨大な盾を生成して壁を作った。しかし獣人は物凄い跳躍力で盾の上に移り、俺達を狙って駆け降りて来た。


「ヤバい…ヤバいって!」


 俺は白田に肩を貸して逃げ始める。もしも狙いが魔獣なら、間違いなく宿主の白田ごと殺すだろう。それだけは絶対にダメだ。


「ちょっと待ちなさい!あっ!」

「うわあ!」


 ツバキとナイン、両名の悲鳴がして振り返ると、獣人はすぐ後ろまで来ていた。それも鋭い爪の生えた腕を振る直前で、俺は死を悟った。

 

「…えっ!?」


 だけど俺は助かった。切り裂かれる直前、白田は俺を突き飛ばしたのだ。


 白田の身体は切り裂かれた。中から何かが飛び出すのを獣人は見逃さず、再び腕を動かし両断した。きっとあれが白田を狂わせた魔獣だ。


「なんで…どうして殺した!?君は一体なんなんだ!」

「ガルル…バウッ!」


 ナインの声を無視して獣人はその場を去っていく。その場に残ったのは無惨に切り裂かれた白田の身体だけだった。


「…」


 結果的に魔獣は倒せた。それなのに、後味の悪い終わり方だった。


「光太、こっち向いて」


 ナインに呼ばれるが、砂の様に変質して崩れていく白田の死体から目を離せなかった。彼女は俺の前に立つと、杖の先端を向けてをクルクルと円を描いた。


「君は何も見てない…殺されるところを見てない…」

「ナイン、なにやってるのよ!?」

「今のは光太には刺激が強過ぎる光景だった。忘れるべきだ」


 俺は杖を目で追っている内に、白田がどんな風に殺されたのかを忘れていった。


「…最後にあいつは俺を助けてくれたよな」

「私も見てたわよ。魔獣に操られただけで、根は良い子だったんでしょうね」

「あの獣は一体なんなんだ…」


 悪い事をしたの事実だ。けれど後悔と反省をしていたのに、殺すのは…あんまりじゃないか。


 同年代の元サッカー部員を狙った事件は、謎の獣人によって寄生されていた犯人が殺されるという形で幕を閉じた。

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