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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
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第8話 「遊びが目的じゃない」

 仮想現実に飛んで現実に戻ってくると体調が崩れる人が少なからずいるらしい。

 現実に戻ってから急な発熱や嘔吐、感覚麻痺などが起こることを意識動転移(いしきどうてんい)病と呼ぶそうだ。


 保険が適用されない光太を病院に連れていくことは出来なかったけど、ヘッドギアや嘔吐などのワードをネットで検索してこの病名が出てきたので「これだ!」と合点した。


「光太…」


 アドバンスセブンスから戻って来た直後にそれを発症した光太は嘔吐して意識を失った。その次の日になった今でも彼は眠ったままだ。

 意識動転移病は肉体を欠損している人にだけ起こり、失った部位が大きいほど症状も酷くなるらしい。

 左腕のない彼を襲った症状は僕の想像を遥かに絶する物だろう。意識を失ったおかげで何も感じていないのは不幸中の幸いと言えるかもしれない。


「僕、行くからね」


 彼の顔を見て挨拶してから、ヘッドギアを装着してアドバンスセブンスを起動した。

 サンライズアイランド西部。光太が最後に残した言葉を信じて、僕は指示された場所へ向かうことを決めた。

 光太のことは心配だけどアドバンスセブンスの謎を解ける唯一の手掛かりなんだ。

 このヘッドギアから感じる異様な力の正体と、ゲーム内で死んだプレイヤーが現実でも死んでしまう理由を何としても突き止めないと!




 ログインした僕は西に向かって走り出した。

 ふと思って空を見上げたけれど、ログアウトする直前に見えた大きな影はなかった。気のせいだったのか?それにしてはハッキリと見えていたような…


 昨日戦ったメレブーの森を避けて大回りで西を目指す。マップを表示するウィンドウに海が描かれ始めると、僕は一度足を止めて海岸線に注目した。そうしてマップから集落のような地形を見つけてから、そこに向かって再び走り出した。

 それにしても、走ってるだけじゃレベルは上がらないか。現実だったらこの移動だけで足腰が鍛えられるのに。まあ移動するだけで強くなられたらゲームバランスがおかしくなっちゃうから仕方ないんだろうけど。


 サンライズアイランド西部の港町アークスに辿り着くと、マップにアークスの詳しい情報が表記された。

 しかし目的地はここじゃない。僕は町の南から出発して遠くないところにある森に辿り着いた。


「こんな場所に何があるんだ…」


 角による魔力探知が出来ないこの世界では、目と耳が頼りだ。恐る恐ると森へ入り、何かないかと探索した。

 光太はこの場所を名前の付いてない森と言った。この森は名前どころか、他のプレイヤーやモンスターもいない不気味な場所だった。


「…誰か!誰かいないの!?」


 もしも昨日みたいに悪質なプレイヤーがいたら獲物にされるかもしれないが、それでも声を出した。


「ここに来るように言われた僕の友達は腕を欠損していたから意識動転移病を発症した!その代わりに彼からこの場所の事を聞いた僕が来た!」

「そうだったのか。ダイブが流行る今の時代でそれはツイてないな」


 その男の声を聴いてようやく、背後を取られていた事に気付いた。

 完全に油断していた…後頭部に触れているのは何かの武器か?


「こちらを向け。余計な真似はするなよ」

「う…うん」


 言われた通りに行動すると、そこには見覚えのある男が立っていた。


「あれ…あなたは!?」

「そう警戒すんな。俺は味方だ」


 背後に立っていたのは、キッチュという集団に絡まれていた僕を助けてくれたあの男の人だった。

 男は手に持っていたシリアルバーを渡してきた。

 てっきり武器かと思っていたけど、回復アイテムだったんだ。


「あ、甘い…」

「このゲームのHPは他の作品と違ってダメージを喰らう以外の理由でも減りやすい。気を付けないといざって時にはスッカラカンだぞ」


 そう指摘されてHPを確認すると、既にゲージの1/5も残っていなかった。


「昨日、初心者狩りにあってこのゲームの危険性を知ったはずだ。今ならまだ引き返せる。ゲームを止めてヘッドギアを壊せ」

「僕がこのアドバンスセブンスを始めたのは遊びが目的じゃない。それにこのまま誰かが死ぬのを放っておくことは出来ない」


 そう告げた後、男は僕の顔を静かに見つめた。


「…所詮はゲームのアバターだ。どれだけ瞳を見てもその覚悟が本物かどうかは区別つかないが、信じよう」

「教えてよ。一体このゲームで何が起こってるの?」

「その前に自己紹介だ。出てこい、彼女は味方だ」


 男がハンドシグナルを行うと、すぐそばに今度は女の人が現れた。

 この人は…ずっと透明になって僕達を視ていたのか?


 そうとしか思えないよう奇妙な現れ方だった。


「俺はウドウで彼女が地地(チ・ジ)。俺達はチームダッシュスラッシャーズだ」

「チームって言っても、スポンサーはいないし実績もないからゲーマーの集まりに近いけどね…」

「僕はナイン・パロルート。よろしく」


 握手を交わした後、ウドウさんは倒れていた木に腰を降ろした。


「さて…まずはどこから話すべきかな」


 僕がこのゲームを始めるキッカケとなった力の正体。そのヒントだけでも知れたらいいな…

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