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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
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第7話 「最低だ!」

「一体どういうことだ!ゲームで死んだからって現実の肉体が死ぬわけないだろ!」

「ありえないって思うだろ?これがあるんだな~」


 ご機嫌な様子で話をしているが、敵は全く隙を見せない。不用意に動いたら袋叩きにされてしまう。

 こいつらの言うことが事実なら…


「死ぬって分かってるならどうして僕達を襲うんだ!」

「面白いからに決まってるだろ。ここでの殺しは法に問われない。それに報道されないから獲物になる初心者が定期的に入って来るんだ」

「最低だ!」


 こいつらは現実で誰かが死んでるって知っていながら、こんな風にゲームに入って来たばかりの人を殺していた!これが初めてじゃないんだ!


「絶対に許さないぞ!」

「どうした急に?」

「もしかしてヘッドギアを被ったまま謎の死を遂げた知り合いでもいたか?そいつは悪いことぉしたな!お詫びにそいつの元に送ってやるぜ!」

「へへへっ!くっせ~セリフ!」


 倒した人形は立ち上がり、周りの敵から武器を向けられる。

 戦闘状態だとログアウトが出来ない仕様なんかにしやがって!このクソゲー!


「いいかナイン。俺が囮になる。敵の注意が俺に集まった瞬間、全力で逃げろ」

「そんなことできるか!」

「お前が死んだら誰が現実を守るんだ!」

「敵の目の前で堂々と作戦会議なんて呑気なもんだな」

「お前らどっちも殺すから。逃がすつもり、ゼロ~!」


 すると光太は大きな溜め息を吐いて、最後に喋ったプレイヤーの方を向いた。


「お前、よく会話で滑ってるだろ。もしかしたらそこら辺の仲間からもつまんね~って思われてるかもな」

「は?どうした急に?」

「はいさっきと同じセリフ。成績低い奴って語彙力も低いけどお前中卒?」

「いや──」

「さっきまでやべーやつらの集まりかと思ってたけど自分より弱そうなやつ見て安心したわ。話変わるけど弱い人間って自分達を強く見せるために集まる癖があるよな」

「なに?俺達が弱いって言いたいわけ?」

「うん。もしかして自覚アリ?ゲームのレベル上げは御立派だけどそれ以外はクソってことだよ。現実で何やってるか知らないけど、成績か業績が低いからこんな低レベルなことに夢中になれるんだよな」

「殺すぞお前」

「ゲーム内でマジトーンで殺すってキッズかよ。あのな、お前らみたいなネット弁慶の気を引くなんて、好きな女子の気を引くよりも簡単だって…ごめんな、そんな例え方しても分かんねえか。どうせ遠くから女の身体をジロジロ見る事しか出来ない残念キッズ達だもんな」


 そう言い終えた瞬間、光太の方へ攻撃が集中した。敵とやりあう力のない僕は、遠くへ向かって走り出した。


「絶対死ぬなよ!」

「こんなカス共に誰が殺されるんだよ!笑わせんな!いいかよく聞け!お前らはゲームの中じゃないと戦えない臆病者だ!リアルじゃ行動と呼べる行動を起こせない閉じこもりの根暗野郎だ!そういえば馬鹿だったよな?分かりやすく言い換えてやった方がいいか──」


 叫び狂う光太の声が聴こえなくなった。ウィンドウを出してログアウトを試みたが、敵に狙われてないだけでまだ戦闘中という判定らしい。


「もっと離れないとダメか!」


 一体どこまで離れたらいいんだ!それとも誰かにマークされてるのか?!


「HPが減ってる!筋力が少ない状態で走り続けると命を削るのか!」


 現実で死ぬ条件が分からない。あいつらの手で倒されたら何らかのチートが発動するのか、それともHPが0になった時点で現実の肉体に影響が及ぶのか。

 僕は歩きに切り替えて、息を整えつつ前に進んだ。


「あれ…?」


 そういえばこの道には罠が張られていたはずだ。それが今では無力化されている。

 僕達を包囲した後に誰かが解除したのか?それなら僕達を倒した後で解除すれば良かったはずだ。


 もしかしてこの森には僕達が会ったあいつら以外にも誰かいるのか?


 森を出たところで、ウィンドウに表示されているログアウトの文字が明るくなった。

 これで現実世界に戻れる!現実に戻ったら光太のヘッドギアを強制終了させて、彼を助けないと!


「え…何だあれ?」


 僕はふとそれに気付いて空を見上げた。そしてオレンジ色の空に浮いている巨大な影を見た…気がした。パニックになって幻覚を見たのだろうか。

 ログアウトを選択すると、僕の意識は現実世界に引き戻された。




「う…」


 転がっていただけなのに凄い疲労感だ。そんなことよりも光太をログアウトさせないと。


「確か強制終了のスイッチは…」


 光太が被っているヘッドギアのフロントカバーを外すと、整列して並ぶミリサイズのボタンが現われた。そしてその端に付いている強制終了のボタンを押した。

 しかし緑色に光るシグナルランプはログアウトを意味する点滅を起こさず、光太は目を覚まさなかった。


「しっかりして!生きてるよね!?」


 心臓は一定のリズムを刻んで動いている。強制終了の入力も間違ってないはずだから、意識が戻らないはずがないんだ!


「おい起きろよ!」


 身体を揺さぶったその時、ランプが点滅。意識を取り戻した光太はゆっくりと身体を起こした。


「良かった!大丈夫だよね!?」

「俺は誰かに救われた…」


 様子がおかしい。ログアウトしたばかりで、まだ朦朧としているのか?


「明日、サンライズアイランド西部にあるアークスという港…そこから南に進んだ先にある名前の付いてない森に行け…そこで…!?」

「光太!?」


 突然、光太は勢いよく嘔吐して枕に頭を落とした。

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