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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
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第6話 「狩りの獲物にされた」

「さっきので10勝0敗!まだ続けるつもり?」

「チックショー!いくらパワーを並べたところでやっぱり経験の差が出るな~!もう一戦!」

「やめてよね。お前が僕に!!!勝てるわけねェだろうが!!!!」

「混ざってる、混ざってるから」


 あ~満足するまで戦っていいストレス解消になった!


 こういうので大切なのは、キリの良いところで勝ち逃げすることだ。光太の動きは少しずつ良くなってきている。

 もしも10連勝という格付けを完了した後に負けた場合、悔しさのあまり今夜は眠れなくなるだろう。


「ところで…なんで僕達仮想現実(こんなところ)に来たんだっけ?」

「お前がこの世界から変な力を感じるって言うから来たんだろうが!」


 そう言えばそうだった。

 しかし今、あの力を感じなかった。いくら現実に近くてもここはゲームの中なので、角による魔力感知は使えなくなっているのだろう。


「どうしよう?一回ログアウトする?」

「そうだな。それじゃあ──」


 その瞬間、彼の後方から飛んでくる矢を僕は見逃さなかった。


「危ないっ!」


 光太を押し倒して矢を回避する。飛んできた方向を見たが、敵の姿は確認出来なかった。


「こっちはやる気ないのに戦闘中判定だからログアウト出来ないぞ!」

「なに?もしかして逃げようとしてるの?」

「んなわけあるか!とっとと倒してログアウトするぞ!」


 適当にやられた方が手っ取り早い。だけど僕達にだってプライドがある。

 仕掛けて来たプレイヤーがどんなやつかは分からないけど、僕達を狙った事を後悔させてやる!


「どうする?」

「相手の隠れやすい森の中じゃ不利だ!まずはここを抜けよう!」


 そうして僕達は来た道を戻った。

 リスポーンしたばかりの彼はともかく、今の僕は体力が残り少ない。気を付けて進まないと。


「ってなんだ!?」


 僕達の行く手を阻むように、トゲの生えた大木が出現した。

 おそらくこれは罠。敵は僕達をこの森から逃がさないつもりだ。


「ナイン!…ってそうか、ここゲームの中だから強化出来ないのか!」

「喧嘩を売られたってよりかは狩りの獲物にされたって方が正しいね」

「分析してる場合かよ!」


 こうして設置された罠を起動させながらも走り続けて、僕達は森の外を目指した。


「矢が飛んできたぞ!」

「しつこいなぁ!こんだけ逃げてるんだから諦めろよって足元危ない!」


 光太が足元の窪みを踏んだ瞬間、足元から木の槍が飛び出した。僕が引っ張っていなければ、彼は今頃串刺しになっていただろう。


「アハハァ!?ありがとう助かった~!」

「おい!初心者相手なんだから加減しろ!隠れてないで正々堂々真っ向から挑んでこいよ!」


 足元の石を拾って辺りを見渡した。木の影から誰か出てきた瞬間、容赦なくこれをぶつけてやるつもりだ。


「ナイン、剣使うか?」

「苦手だからいい。光太は自分の身を守りながら、僕を援護して」

「いや俺、攻撃タイプ選んだからそういうの無理」

「嘘っ!?」

「キャラクター作る時に聞かれた質問だろ?あれ、攻撃タイプって答えた」

「いやマジか~…ごめんね、君に気を遣って支援か妨害を選ぶべきだったよね。いや(わり)ィ~」

「おい雰囲気ギスギスになる言動やめろ」

「まあとにかく、なっちゃったのは仕方ない。こうなったら怒涛の攻めで勝つぞ!」


 正面の茂みが揺らぐと、そこに狙って石を投擲。カチンッという硬質な音の後、剣を持った人間が飛び出してきた。


「初心者相手に硬そうな鎧着てるな!そんなに負けるのが怖いか!」


 そう言い放った光太が敵と剣を交える。僕は死角に回り込み、防御の薄い間接部を狙って攻撃を仕掛けた。


「オラァ!」


 敵は光太を相手にしながら僕の攻撃を鎧で防いだ。そしてその場で回転切りを放ち、僕達は傷を負った。


「ムカつく技使いやがって!」

「こっちは二人だ!僕が囮になるから、技の直後の隙を狙って君がやるんだ!」

「分かった!」


 素手の僕より剣を握る彼の方が力を出せる。そう踏んだ僕は敵に突撃し、連続攻撃(ラッシュ)を繰り出した。


「この野郎ォ!」


 技の威力は中々だけどこいつは動きが遅い。それが弱点だ。


「見えた!」


 回転切りの予備動作を捉えた僕は一歩踏み込んだ。そして迫ってきた腕を掴んで受け止めることに成功した。


「今だ!やれ!」

「スワロースラッシュ!」


 回り込んだ光太が技を放つ。防御の薄い(うなじ)から刃を入れて頭を跳ねると、飛び上がって胴体に剣を突き刺した。


「ケッ!大したことなかったな」

「まあ2対1だったし…ん?」


 倒れた敵の身体に不自然さを感じた。仲間の蘇生を待っているのか、消えずに残ったままなのだ。


「まだ敵がいる!気を抜かないで!」

「いや違うぞナイン!こいつはプレイヤーじゃない!」

「なんだって!?」

「御名答。そいつは中級役職ドールマスターが扱う人形だ。それに気付けないって初心者以前にこのゲーム向いてねえよ」


 辺りの木の陰から6人のプレイヤーが姿を現した。この人形との戦いに夢中になっている間に、僕達は囲まれていたようだ。


「ここまでか…まあ粘った方だな」

「弱気になんないでさ。やれるところまでやろうよ!」


 そうは言ったけど、ここから勝てる未来が想像出来ない。

 それにしても初心者を狩るのにここまでやる理由は何だ?そんな事する人達がこんな風に集団行動出来るわけがない。

 暇潰しやストレス発散以外に何か目的があるはずだ。


「あれ?もしかして死んだらリスポーン出来るって勘違いしてない?」

「おいおいマジの初見さんかよ。いらっしゃいじゃん」

「教えてやるよ。今ゲーム内で死んだら現実の肉体も死ぬぞ」


 ゲーム内で死んだら現実の体も死ぬだって!?一体どういうことだ!


「お、顔色が悪くなってきたな。そうそう、怯えてもらわないと狩り甲斐ないしさ」





 ゲーム感覚で戦っていた僕達は、いつの間にか恐ろしい現実に足を踏み入れていたようだ。もしもこいつの言った事が真実なら、何としても生き延びてログアウトしなければならない。

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