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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
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第4話 さすらいの銃士

 キッチュと呼ばれたプロくずれの3人組から、ナインを守るように男が銃を構えた。


「お前、俺達がプロって分かって喧嘩売ってるんだよな?」

「元だろチーター。こんなくだらない事をいつまで続けるつもりだ。いつか特定されて報復に遭うぞ」


 男が握っているのは何のアタッチメントも付いていないハンドガンだった。しかしプロくずれ達は弾丸を通さないような厚い鎧を纏っていた。


「録画開始した。いつでもやっていいよ」

「別にプロじゃなくなったからってファンがいなくなったわけじゃない。お前みたいな世間知らずをぶっ倒してアップすれば視聴率は1万越え。コメント欄も大盛り上がりするんだぜ」


 撮影係が後ろに下がったその瞬間、頭が吹き飛んだ。男が発砲したのだ。


「試合の場じゃねえんだ。別にスタートの合図はいらねえよな。それとも、元プロらしくフェアなバトルをご所望か?」

「この野郎!ナメやがって!」


 残った二人が男へ向かって走り出した。斧を持った方は見かけによらずスピードを備えており、残像を発生させると同時に男の背後を取った。


「なんだ、不正せずとも動けるじゃねえか」


 男は銃口を背後へ向けて発砲。そして視認することなく敵を一撃で仕留めつつ、正面からの攻撃を回避した。


「こいつはノックスアックスでその剣はテセウスブレード。どっちもレア素材で造らなきゃ手に入らない武器だな」


 足元に落ちた斧を蹴り上げてキャッチすると、男は剣を回避して接近戦に持ち込んだ。


「誰から奪った?お前達が造ったんじゃないだろう」

「さあな、時間を(つい)やしただけのプロ志望だったかな」

「下衆が」


 その攻防を見ていたナインはこれまでの戦いを思い出していた。

 ここがゲームの中だという事を忘れてしまいそうなほど激しい戦いだったのだ。


「チッ!さっさと斬られやがれえ!」


 粗雑に振られる剣を斧で押さえて、男は銃を突き付ける。まるでチェックメイトと宣告するように、鋭い目付きで睨んでいた。


「クソが!ゲーム如きでマジになりやがって!」

「チートを使ったやつに言われちゃおしまいだ」


 そして引き金を引く寸前、敵の姿が消滅した。


「ログアウトしたか…おい、大丈夫か」

「あ、はい…ありがとうございます」

「始めたばかりのやつに言うのもなんだが、このゲームは民度が低いんだ。未開な部分が多く、情報を手に入れようと今みたいに強引なやり方を選ぶ輩もいる。気を付けた方がいい」

「分かりました…」

「本当は今すぐログアウトしてソフトを叩き割ってもらいたいところだが、そう言って聞き入れたやつは一人もいないからな。空に鯨が現われたら生き延びる事だけを考えろ。死ぬな」


 男はそう言うとその場から立ち去った。

 話の内容が気になったがそんなことよりも光太との合流だと、ナインの意識から男の存在は薄れていった。






「お~い!ナイン!」

「光太!…なんかカッコよく作り過ぎじゃない?」


 集合場所で20分ほど待ち続けたナインはようやく光太と合流することが出来た。


「いや~ゲーム開始前の回答でスタートに違いがあるなんてな!俺なんか軍事拠点からスタートしたんだけど、改造人間だから初期ステータス高めなんだわ」

「えぇ!?何それズルい!」

「でもチュートリアルは強制だし、教官達に容赦なく殴られて体力ゼロで保健室送りにされたしで、もうやめようかな~って思ったりもした」

「だから遅かったんだね…」


 ナイン達はNPCから話を聴きながら町を散策した。しかしNPCから手に入るのはゲームに関する情報だけ。現世にて感じた力に関する手掛かりは得られなかった。


「今度はそこら辺にいるプレイヤーに聴いてみようぜ。すいませ~ん!ちょっとお聞きしたいんですけど!」

「あの、初心者が話し掛けないでくれませんか?これからA級クエスト行くんで」

「流石大人気ゲーム!民度ひっっっくいなぁ~!」

「大声で叫ばないでよ!一緒にいる僕まで変な目で見られるじゃん!…いい?チャットでの会話じゃないから周りの人にも聴こえるんだ。発言には気を付けてよ」


 その後も他のプレイヤーに声を掛けたが、似たような反応で冷たくあしらわれてしまった。どうやら敷居が高い界隈の様だ。

 レベルが低いままでは何の情報も得られない。こうなったらやることは一つしかないと、彼らの意見が一致した。


「レベル上げしよう!それでナメられないようになってから情報収集だ!」

「つまり特訓だな!」


 二人は町を飛び出し、モンスターの生息する狩り場へ向かった。








 ナイン達が旅立った頃、彼女が出会った男は人の寄らない路地裏で他のプレイヤーと面会していた。


「すまない。目に余るプレイヤーがいたものだから制裁を加えた」

「気を付けてよね。誰か一人でもやられたら、そこから芋づる式で全滅させられるから…ところでやっつけたやつって誰?」

「元プロのキッチュだ。俺を倒して動画にするつもりだったが、きっと没だろうな」

「あ~コラボだけで視聴率維持してる人達か…そうだウトウ、次に向かうのは──」

「分かっている、メレブーの森だろ。()()()()()()には絶好の場所だもんな」


 それは文字だけのゲーム内チャットでは不可能な、現実に近いこの世界だからこそ出せる異様な空気だった。

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