第3話 「一応ネタバレなしでいこうよ?」
ライオンを倒して次の敵を待っていたその時、体験版のプレイ時間が終了した。僕の意識は現実世界に戻された。
「おはようさん。どうだった?初VRは」
「身体が重く感じたよ」
靴を履いて立ち上がったその時、本題の事を思い出した。仮想現実に入った時は全く感じられなかったが、こうして現実世界に戻ってきて、再びヘッドギアから異様な力を感じた。
「間もなく18時からゼログラビティグランプリの体験版です。良かったらいかがですか?」
「いや、俺は大丈夫です」
店員さんがヘッドギアと繋がっているゲーム機本体のソフトを入れ替える。すると今まで感じていた力がパッと消えてしまった。
「それでどうだった?お前の感じる変な力の正体は分かったか?」
「今はもう感じないや。何だったんだろう」
僕が感じていた力はあまり良い物ではなかった。魔獣に近い邪悪な物だ。
「確かめてみる必要があるな。ヘッドギアとソフトだけならまあ、買えなくないだろ」
「え?買うの?僕の勘違いかもしれないよ」
「ご購入ですね!ありがとうございます!」
本体を1台、ギアとソフトを2つずつ購入した。かなりの出費になってしまったが、感じた力が気のせいではないと光太は信じてくれた。
「そんじゃあ帰るか」
僕達はゲーム機を抱えて帰宅し、早速プレイするために準備をした。
「枕とベッドはこんな感じかな」
転がった時の記憶を頼りに、魔法の杖でゲーミング寝具を用意。ベッドが2つ並んだだけで部屋がかなり狭くなってしまった。
「なんか歩く度に家鳴りしてるんだけど。これプレイ中に床抜けるんじゃねえの?」
「起きたら下の部屋にいましたっていうのは面白いね。一応補強しておくよ。だけどあっちの世界にいる時にこの身体が死んだらどうなるんだろう。ログアウト先がありませんって言われるのかな?」
「やめろよ急に怖い話すんじゃねえよ…はぁ…」
僕と光太は仮想現実に苦手意識がある。過去にトラウマがあるというわけではないが、あまり好きになれないのだ。
だけどやらないといけない。このヘルメットを被って、僕が感じた力の正体を掴みに行くんだ!
「見ろよナイン。地図が入ってるぞ」
光太がパッケージに入っていた地図を広げた。僕達が最初に活動する島のようだが、重要な場所は黒く塗り潰されている。
「始まりの大地サンライズアイランドか。それでスタート地点になるのがこのアイルタウン。そうだ、これ以外に何があるか調べて──」
「ストップー!」
「な、なんだよいきなり大声出して…」
「一応ネタバレなしでいこうよ?ね?」
遊び目的でプレイするわけじゃないけど、せっかくなら自分達の力で切り開きたい。必要になるその時まで、攻略サイトなどを除くのはやめておこう。
僕達はヘッドギアを装着してベッドで横になった。そこで初めて、電気屋で感じた力と同じ物が溢れている事に気が付いた。
「それじゃあ集合場所はアイルタウンの酒場前な」
「うん。それじゃあまた後で」
ヘッドギアを起動し、僕達はアドバンスセブンスの世界へ飛び込んだ。
ゲームをスタートして最初にやらされたのはキャラクター作成だった。
「性別は女…身長は175cm…」
それ以外もバストや体重など、大まかではあるが色々な情報を求めてくる。
もしかしてここで入力したデータがどっかに送られてたりして…
「攻撃、防御、支援、妨害の中からタイプを1つ選んでください。選択したタイプによって成長するステータスに違いがあります」
「攻撃で」
光太は支援か妨害を選んだはずだ。この世界でも現実での戦いのように、僕が前衛で彼が後衛という形でいこう。
「それでは次に──」
「いやまだあるのかよ!?」
その後もステータスに関わる質問をいくつも受けて、ようやくゲームが始まった。
「おぉ!患者が目を冷ましたぞ!」
病室の中で目を覚ました。話を聴く限り、僕はこの島の海岸に倒れていた漂流者…という設定みたいだ。
医者達との会話を進めていくと、リハビリするか退院するかという選択肢が発生した。ここでリハビリを選ぶとチュートリアルが始まるみたいだ。
それよりも光太との合流を優先する必要がある。彼も真面目にチュートリアルを受けるような人じゃないし、ここは退院でいいだろう。
何より僕と彼には現実世界での経験がある。きっと大丈夫だ!
「頭の上からつま先まで、ちゃんと五体満足なんで退院します!」
病院を出て集合場所へやって来たが、光太が見つからない。というより、沢山いるプレイヤーのキャラクターのどれが光太なのか分からなかった。
「お~い…魔獣テイマー…」
本名で叫んでしまうのは良くないので、それっぽい名前で彼を呼んだ。
「テイマー…テイマー!」
しかし反応を見せるキャラクターはいなかった。もしかしてまだ着いていないのだろうか。
「おいお前…」
すると道を進む僕の前に3人組が立ち塞がった。光太じゃないのは確かだし、高圧的な声色で嫌な感じだ。
「テイマーについて知ってることがあるなら洗いざらい話してもらおうか」
「な、何の事?僕が言ってるのは友達の事で──」
「フレンドにテイマーがいるのか。だったらそいつを呼び出せ。そしてここにワープするように言え」
「嫌なんて言わない方がいいよ。二度とヘッドギアを被れないくらい怖い思いすることになっちゃうから」
勝てる気がしない。周りのキャラクターの反応を見る限り、いいやつじゃないのは確かだ。このまま戦ったらゲームオーバーよりも恐ろしい目に遭わされるのは間違いない。
開始早々ピンチだな…
「初心者狩りとは流石プロくずれだな」
「ん…何だテメェ…」
「格好と歩き方を見れば分かるだろ。そいつは紛れもなく初心者だ。見分けられないくらい頭が弱いんなら引退を勧めるぜ。元プロチームキッチュのお三方」
なんだなんだ!?今度は銃を持った人が出て来たぞ!
ゲームスタートから間もなく厄介な連中に絡まれた。そう思っていたら今度は見知らぬ男性が彼らに銃を向けた。
このピリピリとした空気を僕は知っている…これから彼らは戦うつもりだ!