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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
不法移民者達の居場所
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第29話 「僕達みんなで助けたんだ」

 地球に帰って来た僕は早速、単端市にいる人達を月に移住させる事を加奈子に伝えた。


「ここにいる人達は助かるんですね…良かったです。私はこれから、ここにいる人達全員に戸籍を用意します。単端市から月への移住を正規的な物にして、文句を言えなくするんです」


 加奈子は安堵した様子を見せた後、単端市の全区域を回りに出ていった。


「…ところでここにいる全員をどうやって月まで移すつもりだ?転移系の杖でも時間掛かるだろ?」

「そういう時こそナイン・ワンドでしょ。僕の杖を混ぜ合わせれば行けるって」

「えっあれ人にぶつけて大丈夫なのかよ?」

「そんなこと言ったら君なんて、僕と戦った時にわざと喰らってムキムキにパワーアップしてたじゃん」

「そういえばそんなことあったな」


 金星で発動した物とは違い、杖を融合させる本来のナイン・ワンドを使う。そうすれば全員を壁の外へ出すことなく月に送れる。


「それじゃあもうひと頑張りしよっか!」


 僕達はここにいる人達が月へ移った後、まともに暮らしていく為に必要な物を用意した。

 洗剤類などの消耗品や外出するのに欠かせない衣類。沢山用意したけれど、きっと何か足りなかったりしている。だけどここでの生活を乗り越えた彼らはそれに文句を付けたりせず、自分達の力で解決していくだろう。


「光太?何作ってるの?」


 光太は途中からパソコン・ワンドを使って何かを作っていた。


「ルールブック。郷に入っては郷に従えって言うだろ?」


 月面都市メトロポリスのルールを説明する文章を打ち込んだ後、文字を全て英語に変換した。


「外国人全員が英語読めるってわけじゃないと思うけど…」

「だからだよ。あっちの公用語は英語だろ。このルールブックを読むためにはまず、英語を覚える必要があるってわけ。ルールさえ守れば文句言われねえだろうしよ」


 ルールを知るためには公用語から覚える必要がある。確かに理に(かな)っているとは思うけど、わざわざ手間の掛かるルールブックを読む人はいるのだろうか。




 2日後、移民者全員の移住が確定した。加奈子が用意した戸籍を得て、彼らは単端市の住民という事になった。

 これから、僕達を除いた単端市民の引っ越しが開始される。魔法を使って転移させる以上、色々と問題点が生じると思う。だけどこうでもしないと彼らを助ける事は出来ないのだ。


「無理矢理詰める必要はありません!焦らないで並んでください!」

「ナイン・ワンド!」

「それじゃあさようなら!」


 足元にナイン・ワンドを撃ち込んだアルマ人は月へとワープした。

 僕達は市内にある全ての区域を渡り歩き、種族ごとにナイン・ワンドを撃って月へ転移させていった。


「ハァ…ハァ…あと何種族残ってるんだよ…」

「まだ50近くは…」

「いっぱいだぁ~!頑張ろう!光太!」


 僕と光太はここにいる種族の名前や人数を把握し切れていない。それだけ多くの人が行き場を失ってここへ逃げて来たんだ。

 この世界はアノレカディアと違って限りがあると、強く思い知らされた気がした。


 休憩を挟みつつ、月への引っ越しは2日間で完了した。

 単端市に残るのは僕と光太だけ。加奈子も近い内にここを去るみたいだ。


「過激派達の行く末を見届けてこの街を去ろうと思います。これについては一切の干渉をするつもりはありません」

「そうか、色々世話になったな」

「いえ…」


 ここにいる人達を助ける為に私情を挟まないで協力してきた。だけど光太を撃った事に対しての警戒感がまだ残っていた。


「ナインさん。私は元々、かつての単端市で出現していた未確認生命体の謎を探るためにこの土地にやって来ました。魔法や魔獣の事を知りましたが、今となってはあなたとの出会いが何よりも幸運と言えます。ナインさんがいなければここにいる人達を見捨てていました。本当に…ありがとうございました!」

「…沢山の人を助けられて良かった。だけどこれは加奈子の協力があってこそ出来た大引っ越しだ。僕達みんなで助けたんだよ」


 大勢の命を助ける事が出来た。この事実が僕の中に残っていた警戒感を薄れさせていった。


「これからどうするの?ただ引っ越すんじゃないよね?」

「はい。私達はこの先、アレン・イスタ―タをはじめとした世界平和促進委員会の関係者を追っていくつもりです」

「銃を持ち込んで騒動を起こそうとした人に、復讐を持ち掛けた人だったよね」

「きっと単端市に人が集まったのは偶然じゃない。日本中にいた不法移民者が大移動を起こすように、誰かがけしかけたんです。世界というコミュニティから日本を孤立させようとした黒幕は必ず突き止めてみせます」

「大変だね…」


 これからも彼女の戦いは続いて行くのだろう。だけど政治的な事なら、出来るだけ関わらない方がいい。

 困っている人を助けたり、魔獣と戦ったり、僕は僕なりのやり方で平和の為に戦い続けよう。


「それじゃあ後片付けに行こうか」

「この壁はもういらないもんな」


 それから僕は光太と一緒に単端市の壁を崩す作業に取り掛かった。

 この壁に守られていた人達は安心して暮らせる場所に移り住んだ。壁を必要としない安全な場所へ。

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