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第23話 「ビックリするじゃん!」

 どうしよう…光太が赤ちゃんになっちゃった!


「あぶー!だっだっ!」


 正確には精神だけが赤ちゃんになったんだ。若返ったとかじゃなくて、ただの幼児退行だ。


 裁判の後、魔獣を倒して帰って来たら既にこうなっていた。無罪であるはずなの有罪判決を受けたのが余程ショックだったに違いない。


「おぎゃあああ!」

「よしよし…」

「うえ~ん!」

「おぎゃあああ──」

「うるせえ!頭の近くで叫ぶな!」






「すいませんでした」


 とりあえず、僕の耳を破壊しようとした事に関しては顔面へのパンチ1発で勘弁してあげよう。


「はぁ…俺今日の裁判で自信なくなったよ。なんで悪くない俺が罰を受けなきゃならないんだよ」

「仕方ないよ。あれはどう足掻いても勝てない勝負だった」


 本当に可哀想だな。生徒会と風紀委員会、グルだったんじゃないの?じゃないとあそこまで酷い裁判にならないよ。

 てかそもそも、学校裁判ってなんなの…?


「ナイ~ン」

「あーよしよし…」

「俺は悪くないよね?」

「悪くないよ。光太は全然悪くない」

「本当?」


 気持ち悪ぃ…!幼児退行してる光太があまりにも見苦しい。いっそここで殺してやった方が彼の名誉のためなんじゃないだろうか。


「そうだよね、俺悪くないもんね。悪いのはあいつらだ。だからさ、なんか復讐に使える杖、かーしーて?」

「おめえ最初からそれが目的だったな!誰が貸すかよ!このオギャバブ高校生が!」

「いいじゃねえかよ!のび太だってやられっぱなしじゃ終わらねえだろ!リベンジしてスッキリして今日も快眠してえんだよ!」

「リベンジしてスッキリはざまあ系主人公でしょ!のび太君はそんな邪悪じゃない!」

「主人公は俺じゃん!スッキリした気分でざまあって言わせてくれよ!」

「残念だけどこの物語の主人公は僕だよ」


 それから言い争いを続けていると、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。


「もしかしてうるさかったかな?」


 近所迷惑だって誰かが言いに来たのかもしれない。とりあえず謝って静かにしておこう。


「はい、すいません。ちょっと揉めていまして…」


「ようナイン!俺らこれから下に住むから!よろしくな!これ、引っ越しそ──」


 来客があまりにも親しく話してくるものなので、扉を閉めてしまった。どうやら下に人が越して来たみたいだ。それも俺達って事は複数人だ。


 問題なのは…今の、ツカサだったよね。僕の元同級生の。さっき魔獣を倒した後、アノレカディアに帰ったはず…


「なんで閉めるんだよ?」

「友達だからって急に開けないでよ!ビックリするじゃん!」


 間違いない。ツカサだ。つまり残りの人たちは…


「この世界ではこれまでに三度も魔獣が出現した。これを受けてパロルート隊員2号から私達に、君と協力して魔獣と戦い、この世界を守るように指示を受けて馳せ参じた。これからはこの部屋を拠点とし、君達と共に戦うことを誓おう…って、私達の間に堅苦しいやり取りは必要ないよね」


 リーダーであるサヤカは挨拶を済まして、荷解きの作業に戻っていった。


「学校はどうしたのさ!?もしかして退学したの?」

「あんたと一緒にしないでよ!学校にはパロルート隊での仕事体験って扱いにしてもらってるわ。成果を挙げて、成績もガッツリ稼がせてもらうわよ!」


 何にも属す事のない戦闘部隊パロルート。僕の名字と同じなのは、お兄ちゃん達が結成した部隊だからだ。

 隊員2号とは2番目のお兄ちゃん。ちょっと怖いけど真面目で優しいキンジ兄ちゃんの事だ。


「というわけでナイン。荷解き手伝ってくれない?ツバキの荷物が多くてさ~」

「うっさいわね!オシャレは必需品!そうでしょサヤカ?」

「うん、そうだね」


 相変わらず騒がしい。けれどまた皆と一緒にいられるのは、少し嬉しかった。






 少し過去の話になる。僕はこの世界に来る直前まで、戦闘のスキルを身に付ける大きな学校に通っていた。

 名高いパロルート家から初の女子という事もあって、入学前から僕は注目を受けていた。


 だけど僕はお兄ちゃん達とは違って弱い。魔法の杖も予め能力が決まってないとロクに発動も出来ない。いわゆる落ちこぼれだった。

 女だから、サキュバスだから、魔族だから…そんな風に差別を受けた。僕はお兄ちゃん達の面汚しだ。パロルート家の名前に、泥を塗ってしまった。


 何よりつらかったのは罵声を受けたりいじめられた事じゃない。学校にはお兄ちゃん達みたいな優しい人がいなくて、ずっと独りぼっちだった事だ。


 入学してしばらくいじめが続いた時、僕はサヤカ達に出会った。助けられたんじゃなくて、一緒にいじめられた。そんな味気ない出会いだった。

 失礼かもしれないけど、彼らも僕と同じで、自分達の産まれ持った能力しか使えない出来損ないだった。けど彼らは努力していたんだ。今ある能力を高めようと、ただひたすらに。

 僕はそんな彼らに心を打たれ、魔法を研究して新しい杖を作るようになった。今も出来る事を増やそうと、杖の開発を続けている。


 僕をいじめた人達に復讐はしてないけど、今の僕はもうきっと笑われない。そんな自信もある。


 出来損ないの集まりと言われたらそれまでかもしれない。けど僕はサヤカ達と出会ったから、ここまで成長出来たんだ。

 彼らは僕に努力を教えてくれた恩人であり、一緒に強くなっていく大切な仲間なんだ






「ナイン~、明日学校だから俺寝るぞ~」

「おやすみ!」


 もちろん、光太もこの世界で初めて出会った大切な人だ。まだ過ごした時間は短いけど、それはつまり、今よりもっと仲良くなれるかもしれないってことだ。

 光太みたいな人と親友になれたら、きっと幸せだと僕は思う。


「ところでナイン、なんでわざわざ退学してこの世界に移ったんだ?」

「あーそれ私も聞きたかった。どうしてなの?」


「僕は…立派なサキュバスになりたくて、この世界で修行してるんだ」


 そうだ。僕はこの世界で立派になって、パロルート家の人間として使命を果たすんだ。


「へぇー、立派じゃん」

「ナインにしては真面目ね。授業中はいつもペン回ししてたのに」

「え、なに?いつもって僕のこと見てたの?うわ~」

「ツバキ、授業中によそ見してちゃダメじゃん」

「うっ!うるさいわね!」


 僕とジン。たまにツカサも混ざっては、こうやってツバキをからかう。


「…」


 サヤカは優しい目で僕たちを見守りながら、少し距離を置いてなにかやってたりする。そこに僕たちがちょっかい掛けたり、サヤカの方から話に混ざって来るんだ。


 久しぶりなこの感じ。ちょっとだけ学校での生活が恋しくなった。




 夜中、サヤカ達の部屋で会話が盛り上がっていた頃だった。光太が眠れないと文句を言いに来た。


「ごめんナインとそのお友達。ちょっとだけ会話のボリューム下げてもらえると助かる…」

「あぁ、ごめんね!…そうだ、良く眠れる魔法の杖、グッドナイト・ワンドを貸してあげるよ!」

「おぉ…枕に棒を突き刺したようにしか見えないけど、ありがとう」


 グッドナイト・ワンドは使用者を分析して、その人に最も良い眠りをさせてくれる魔法の杖だ。

 子守り歌が必要な人には脳に合ったメロディを流し、癒しを求める人にはアロマを焚いてくれる。


 そしてすぐ、二階で爆発が起こった。光太に必要だったのは、生という拘束からの死という解放。つまりは永眠する事だったみたいだ…南無。

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