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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
不法移民者達の居場所
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第24話 「何もないといいけど」

 ナインの魔法によって飛んだ先は、地球を飛び出して月面都市メトロポリス。そこにある宇宙開拓企業ムーンウルフカンパニーのオフィスだった。

 月へ移住した狼太郎達は会社を立ち上げ、月内部の都市化工事や居住施設となる宇宙ステーションの開発に取り組んでいた。


「来たよ!」

「ナインちゃん!…とりあえずデスクから降りてくれないかな?」


 俺達は宇宙空間での活動拠点となる施設へ移動した。女子達はここから中継衛星を経由して、狼太郎との通信を行っていたようだ。

 ナインはなるべく金星に近い衛星まで通信をリンクするように指示した後、宇宙服の資料を真剣に読んでいた。


「これは宇宙服というよりはエクソスーツだな。太陽系にある全惑星での活動を想定して造られたのか。量産を考えていない凄い贅沢なスーツだ。魔獣との戦闘も想定して武装が付いているけど、これはオミットしてもいいだろう。でもこれではまだ服とは呼べない。最低限の時間で帰って来ると想定して、生命維持装置は小型化してしまおう。それから──」


 ナインはベラベラと早口で喋りながら絵を描いている。邪魔しないように静かにしておこう。


「あれ?あんた左腕どうしたの?」

「ん?誰だお前…あぁ、電話で話してたやつか」

永田(ながた)絃巴(いとは)。まあ、どうせ今後話す機会も無いだろうし覚えなくていいけど。それで左腕は?」

「魔獣と戦って失くなった」

「だっさ。狼太郎ならそんなヘマしないけど」


 こいつ、心配でもしてくれるのかと思ったらこれだよ。だからこいつらの事が嫌いなんだ。


「ナインちゃん用に造った義肢が残ってるからそれ付けな。そうだ、ナインちゃんの義肢はどうする?」

「あいつなら五体満足だ。アノレカディアで治してもらったからな」

「そうなの。凄いね異世界って」


 こいつらから施しを受けるなど癪だが、今回は宇宙での活動だ。油断をしてはいけないと自分に言い聞かせて、左肩から機械の義肢を装着した。


「ナインのもそうだったけど手術要らずですぐに使えるのは便利だな」

「私は製造に携わってないから仕組みは分かんないけど、とりあえずそれで思うがままに動かせるから。宇宙服を着て動くならズレる心配もないと思う」

「ありがたく使わせもらう」

「万が一狼太郎に危機が迫っていた場合、少しでも助かる確率は上げておきたいからね」


 しばらくすると作業を終えたナインが立ち上がった。完成した絵は金星に行った狼太郎が着ているという宇宙服をスケールダウンさせた物だった。


「時間が無いからこのコスチューム・ワンドで宇宙服を用意するよ」

「なんでそのまんまで造らないんだよ?」

「コスチューム・ワンドで出せるのは服だけなんだ。オリジナルはどう見てもロボットにしか見えないし、機能を付けようとすればその分魔力の消耗も激しくなる。僕が用意するのは地球外の環境で死なずに活動が出来る程度の物だから、期待しないでよ」

「そんだけ出来れば充分だ。やってくれ」


 俺達は月本来の重力が残されたスペースへ移動。ナインが杖を振ると、絵に描いていた宇宙服に服装が変化した。


「大丈夫?どこか変なところはない?」

「宇宙服なんて初めてだからどこが変とか分かんねえよ」


 ナインは俺の身体を舐めるように見て、異常がないかチェックした。


「ナインちゃん!星に近いところにある衛星まで通信が出来たよ!」

「ありがとう!金星に着いたらアンテナ・ワンドを起動させるから、なんとかアクセスしてくれ!」




 そして再びウェーブダッシュ・ワンドを振り、俺達は金星付近の衛星へと移動した。

 これが金星か。別に黄金で出来ている星をイメージしていたわけじゃないが、濁った黄色をバイザー越しに見て少しガッカリした。


「光太聴こえる?」

「聴こえてる。それでこれからどうするんだ?」

「バリア・ワンドで金星に突入する。その前に左腕の端末から、気圧維持装置を起動。数値を1013hPaにして。地球の気圧を標準に1気圧として金星はその90倍だ。これがないと身体が潰されてしまうよ」

「これ信用していいのかよ?」

「現に狼太郎は生きてるよ。金星から僅かに感じるフェン・ラルクの魔力がその証拠だよ」


 フェン・ラルクとは狼太郎が体内に宿している魔獣のことだ。その力で3種類の戦闘形態に変身する事が出来る。

 ナインは脇に抱えていた杖の中からファイア・ワンドと抜いた。


「スペアのバッグとかあったら便利だよな」

「それね。今すっごく不便過ぎてイライラする」


 俺は杖を握り、金星とは真逆の方向へ炎を噴射。徐々にスピードを上げて、金星へ接近した。

 ナインは万が一のために、ここから魔力を温存する事になる。向こうに着いてアンテナ・ワンドを起動するまでが俺の役目だ。


「万が一か…何もないといいけど」


 しかし俺の願いは叶わなかった。


「フェン・ラルクと衝突する魔力がある。この感じは魔獣だ!金星で戦いが起きている!スピードを上げてくれ!」

「分かった!加速するぞ!」


 俺は炎の出力を高め、移動スピードを上げた。

 金星での戦い。メトロポリスのような施設はなく、宇宙服がやられたら即死の戦いになるだろう。

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