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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
不法移民者達の居場所

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第23話 「こっちは一大事なんだ!」

 かつてこの世界を守るために戦った人間の中に、萬名(よろずな)狼太郎(ろうたろう)という男がいた。

 俺はそいつの事が今でも嫌いだ。つらい過去を抱えているようだが、同情する気にならない。

 どうしてあいつを嫌うのか自分自身でもよく分からないが、多分ナインとの時間を奪われたからだと思う。


 狼太郎の周りには似たような悲劇を体験した女子が大勢集まった。幾らでも代わりの人間がいるあいつは、俺からかけがえのない人との貴重な時間を奪ったんだ。

 あいつがどれだけ善人だとしても俺は嫌いだ。


「はい、こちらはムーンウルフカンパニーです」


 受話器から聴こえてきたのは女の声だった。おそらく狼太郎の取り巻きだが、カンパニーとは何のことだ。

 とりあえず、名前を出せばあいつを出してくれるだろう。


「狼太郎の知人、黒金光太だ。あいつと話がしたい」

「黒金…光太…あなたに狼太郎君と話す資格はありません。御用件がおありでしたら、ナインちゃんを経由して私達に伝えてください」

「おい!」


 切られた…


 俺は狼太郎が嫌いだが、それ以上にその取り巻きの女子達との関係が最悪と言っていい。正直、こうなると思っていた。


「切られたの?」

「メトロポリスって今何時だ」

「午前10時ですね。電話を掛ける時間帯に問題はないと思いますよ」


 そうして俺はもう一度電話を掛ける。すると今度は別の女子に繋がった。


「こちら、ムーンウル──」

「俺は黒金光太だ!知ってると思うが単端市に大勢の移民者が集まっている!」

「ちょっと!今度はこっちに掛かってきたけど!ちゃんと受信拒否したの!?」

「多分魔法の杖だよ!電話番号が探れないもん!」

「おいてめぇ!誰だか知らねえがな、こっちは一大事なんだ!さっさと狼太郎に──」

「受話器に向かって叫ばないでちょうだい!はぁ、それじゃあ何があったのか話してくれない?」


 俺はこれから単端市で起こる事を伝えた。早い内に話の出来る相手に繋がって良かった。


「そういうわけなんだ頼む!狼太郎と話をさせてくれ!」

「いや無理、社長は金星にいるから。多分しばらくは帰って来ないと思う」


 社長!?それに金星!?こいつら一体何を企んでやがるんだ!


「それで生徒会長…じゃなかった。副社長は火星に行ってるから。今、重役二人ともお留守ってわけ」

「なら帰って来た後に俺から話をする!とりあえず移民者全員、そっちで保護してくれないか!このままだと全員殺される!」

「それって私達の意思だけで決められる話じゃないでしょ!?いきなり大勢の人が来たら大パニックになるわよ!」


 予想外の事態だ。こんなケースを予想しろっていうのが無理な話だ。


「通話させてあげたいけど、中継衛星はロストしちゃってるし…ごめんってなんで黒金なんかに謝ってるの私!?」


 魔法で月まで行った経験はある。しかしあれはナインだけでなく、その時いた仲間の協力があって出来た事だ。

 それより遠く離れた金星にどうやって向かう?月にはメトロポリスがあったけど金星には何もない。下手したら今度こそ死ぬぞ…


「狼太郎が今どうなってるか、私達にも分からないの…ねえ、金星まで様子を見て来ることって出来る?」

「ちょっと切らないでくれるか。ナインと相談する」


 ケジメを付けるなんて言ったのに、結局最後はナイン頼りか。笑えるな。


「ナイン、金星まで行くことって出来るか?」

「金星ってあの惑星の?!行けるには行けるけど急だね?!とりあえず話を聞かせてくれないかな?」


 するとナインは装飾に付いているスイッチを押し、スピーカー通話に切り替えた。


「もしもし、僕ナインです。聴こえてる?」

「ナインちゃん!金星まで行った狼太郎と通信が出来ないの!通信を中継する衛星のトラブルなんだけど、それだけじゃない気がするの!」

「なんだって!?話を聞かせてよ!」 


 通話相手は俺の時とは声色を変えて話をした。

 ナインは通話をしながら、これから使うであろう魔法の杖を次々と取り出した。相手は途中から泣き出し、最後には大声でナインに頼みごとをした。


「お願い!狼太郎を連れて帰って来て!彼がいればそっちの人を受け入れる準備も出来るから!」

「分かった!僕達に任せてくれ!加奈子、僕達ちょっとの間留守にするよ!」

「え!今から金星に行くんですか!?何日掛かると思ってるんですか!無理ですよ!」

「ここにいる人達を助けるには狼太郎の力が必要なんだろ!それならまず彼を助けないと!もう悩んでる時間は無いんだ!行くよ光太!」

「私はどうすればいいんですか!」

「とりあえず杖は必要最低限の物を持って行くから、何かあったら頼むよ!」


 あいつを助けるのは癪だが、ナインがその気なら俺もやろう。


「それで、これからどうするんだ?」

「まずはこのウェーブダッシュ・ワンドで月に行く!」


 ナインが俺の腕を掴んで杖を振る。すると身体がテレフォン・ワンドに吸い込まれて、俺達はコールセンターのオフィスの様な部屋に立っていた。


「うわぁ!?急に現れた!」

「おい黒金!キーボード踏むな!」


 こうして俺達は月面都市メトロポリスに到着したのである。

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