第22話 「こうなったのは俺の責任だ」
「どうかお願いです!私に力を貸してください!」
瞼が重く感じる夜更けに、突然俺達の元に訪れた石動。ゴンゴンと叩かれる玄関の扉を開けた瞬間、彼女は土下座して叫んだのだった。
「え………何?何かあったの?」
「このままだとここにいる移民者達全員が殺されます!助けてください!」
「何だって?!」
ひとまず事情を聞くために、石動を部屋へ上げた。
まだ眠気が残っていた俺達は魔法の杖で完璧に覚醒してから、石動の話を聞いた。
7日後、ここにいる人間全員が虐殺される。それも黒幕は政治家や富豪などの権力者という話を聞いても、すぐに信じるのは難しかった。
「これがおそらく、この計画の決め手になったのかと」
石動はスマホのSNSアプリを開いた。そこには、フェンスの前でやり取りしていた俺達と医者の映像が載っていた。
「誰かがリークしたんです!移民者の味方をした自衛隊員と医者達の存在を!明日には日本各地の自衛隊基地前と、単端市に近い病院でデモを発生させて、再び注目を集めるつもりです!」
理解が出来ない!幾らこっちに非があるとしても、殺すのはやりすぎだろ!
「そもそも何だよ!医者は何も悪くないだろ!人を助けただけだろうが!」
「敵を助けた人間は悪というのが今の世間の考え方なんですよ!」
「助けたやつが悪いって…」
それは俺達にも当てはまる一言だった。ビオード族を救おうと動いた俺は悪だ。余計なことをせず見殺しにしていれば、こんなことにならなかったかもしれない。
しかしナインが悪だと?彼女は自分なりのやり方でここに来たやつらを守ろうと必死に頑張ったんだ。悪なわけがない。
力を持たずに行動が起こせない、そんな無力なお前達とは違うんだ。
「黒金君、大丈夫ですか?」
「あぁ。ナイン、魔法の力でここにいる人達をワープさせることは出来るか?」
「うん、出来るよ。出来るけど…どこに逃がすの?」
それが問題だ。まず魔法を使ってここから人を逃がした場合、不自然に思われるだろう。これについてはもう仕方がないと、石動は割り切ってくれた。
だがその後の生活に魔法を使う事はなるべく避けたいというのが彼女の考えだった。
生活しやすい都会へ送った場合、そこで差別の対象にされるのがオチだろう。かと言って何もない自然に送った場合、異界に放り捨てたも同然の扱いだ。その場合は魔法で助ければ何とか生活出来るかもしれない
しかし、もしも彼らの存在がバレたら強制送還か虐殺。さらに魔法の技術を与えてしまう危険性もある。
「アノレカディアはどうだ?あそこならここにいる人全員が住める場所があるかもしれない」
「いけません。以前の戦いで単端市にいた大勢の人が殺され、戸籍上では失踪扱いとされています。ここにいる人達を異世界に逃がした場合、その存在を知られてしまう可能性もあります」
「そうなると一時的に避難させるっていうのも難しいな」
「あっ」
あまり喋っていないナインは何か閃いたのか声を出していた。
「この世界で住めそうな場所あるよ!」
「本当か!?」
俺と石動では思い浮かばなかった場所を、異世界の住民であるナインは知っていたようだ。
それにしても、この世界にまだそんな場所があったとは驚きだ。
「それでどこなんです!?その場所は!」
「月!」
「そうだ!メトロポリス!すっかり頭から抜けてました!」
「あそこには僕達の仲間もいる!流石のデモ隊も月には行かないだろうし、現状思い付く場所はそこしかない!早速連絡を──」
「待てナイン」
月面都市には様々な国籍の人間が集まる。郷に従った生活が出来るなら、ここにいる移民者達が暮らす事も出来るだろう。
「狼太郎達に借りを作るつもりか?」
問題はナインの言った仲間だ。俺はあいつらが嫌いだ。それに借りを作った場合、後でどんな無茶な要求をしてくるか分かったもんじゃない。
この場合は俺達自身の事を懸念して、月への移動は控えるべきだ。
「でもそこ以外に逃がせる場所がないでしょ!」
「大体、月にここにいる全員を移住させられると思うか?」
「それについては問題はないと思います。以前月に魔獣が出現した後、都市崩壊を恐れた大勢の人が地球へ戻って来ました。活気が失われた今こそ、ここにいる移民者達を送って都市のサイクルを戻すべきです」
こっちでは厄介払いが出来て、月の人口は元に戻る。Win-Winというわけか。
「それじゃあ多数決だ!2対1だよ!」
「待てよ!少数派の意見を尊重しろよな!大体あいつらの元に送ったとして、まともに暮らせるとも限らないだろ!もしかしたら今よりも酷い奴隷みたいな生活を強いられることになるかもしれないし!」
「あのねえ!狼太郎達がそんな事するって何を根拠に言えるの!?大体君はそうやって前にも──」
俺とナインで揉めに揉めた結果、圧倒的に正論な言葉でこっちの意見が叩き折られた。
「いい?とりあえず、狼太郎に連絡するからね」
「待て、それは俺がやる」
俺はナインが持っていたテレフォン・ワンドを取り上げた。これは思った人物に電話を掛ける事の出来る杖だ。
「ちょっと!僕がやるからいいって!」
「こうなったのは俺の責任だ。ケジメくらい付けさせてくれ」
別に今の言葉に嘘はないが、それよりもナインと狼太郎を会話させたくないという思いが強かった。
大嫌いな人物をイメージし、俺は杖の装飾部分に付いている受話器を取った。