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第22話 「フォオオオオオ!」

 以前、俺は生徒会に捕まって酷い目に遭わされた。それからは反省して、学校では問題を起こさないよう静かに過ごしていたのだが…


 今朝学校に来た時だった。俺の教室である1年2組の窓が全て割られていたのだ。

 しかもそこだけでなく、なんと1年の教室全ての窓が破壊されていると、後になって分かった。


 そして今、生徒会と風紀委員会が現場の調査に当たっていた。授業は中止となり、1年は廊下や図書室などで待機させられている状態だ。

 ちなみに、監視カメラの映像から犯人は学生であると判明している。ところで監視カメラなんていつ仕掛けてたんだよ。何も聞いてねえぞ。


 まあ何にせよ、俺がやったわけじゃないからそんなビクビクする必要もない。授業がなくなったと考えると、少し嬉しかった。


「ニヤニヤして!あんたが犯人じゃないでしょうね!」

「俺じゃありませんよ!」


 以前、俺を連行した2年生の風紀委員、浅川(あさがわ)梨々香(りりか)は俺を疑った。どうも彼女、生徒会役員を目指していたらしいが選挙で負け、枠の空いていた風紀委員になったらしい。

 しかし酷い有り様だ。ガラスの散り具合から、教室の中から何か硬い物で殴られたみたいだ。


「狼太郎君はどう思う?」

「酷い有り様ですね」


 うん、見たまんまだな。それよりも行政の生徒会役員と司法の風紀委員が結託してるのヤバイだろ。三権分立知らねえのかこいつら。


「一応聞いとくけど、お前じゃないよな?」

「俺じゃねえよ…窓が割られたのは夜中だったんだろ?その時は寝てたよ」


 狼太郎はメモを取ると、また別の生徒へ聴き込みに行った。それ意味あるのか?


「狼太郎君!昨日私はね~」

「ちょっと、今事情聴取されてるのは私なんだけど!」

「君の話も次聴くから、ちょっと待って!」

「狼太郎、探偵部の部員を集めてくれないか?彼らの知恵を借りたい」

「あ、はい!ごめん、また後で聴かせてもらうから!」


 …あいつ、学年関係なく女子に寄られてんな。花園みたいな生徒会にいるんだし、きっとそういう人間なんだろうな…羨ましいぜ。


「誰がやったんだろう。怖いよね」

「ユッキー…まさか?」

「アリバイありまーす。夜中まで奏芽と電話してましたー」


 灯沢は仲間とこの一件をネタに盛り上がっている。あいつがやったとは考えられないな。


「って誰が犯人かなんて考えるもんじゃないか」

「良い判断だな」


 サイボーグ校長が現場を見にやって来た。授業を見に来る感覚で事件現場に来るなよ…


「1年の窓ガラス全壊事件。これを取り扱っているのは風紀委員を中心とした一部の生徒のみだ。部外者なら部外者らしく静かにしていれば良い。身近で起きた事件をSNSなどで騒ぎ立てるなど、頭の悪い恥知らずのミーハーがする事だ」

「てかここまで来ると普通は警察沙汰じゃありません?」

「生徒が自分達でトラブルを解決しようと努力しているんだ。それを邪魔するのは教育者としてよろしくないからな」

「校長、犯人が分かりました」


 校長の背後に立っていたのはロボットだった。


 …ロボット!?なんで学校にロボットがいるんだよ!?


「おぉ流石だな。紹介しよう。彼は今日配属になったばかりのロボット副校長だ」

「データ確認…君は黒金光太君だね。私はロボット副校長、これからよろしく」


 ロボット副校長…校長のサイボーグ要素と違って隠す気は一切ないんだな。もう完全にロボットだもん。


「…ところで前の副校長は?」

「腐敗した教育方針を変えようと単身教育省へと乗り込んで命を落としたよ。馬鹿だが生徒思いの良い男だった」


 知らないところで学校の関係者が死んでる!窓ガラスを割られたことよりそっちの方が事件だろ!


「それではこれからどうなるのか。犯人を知った上で楽しませてもらうぞ。ハッハッハッ!」


 事件を楽しんでるじゃん…あれ教員失格だろ。


 その後も少しずつ捜査が進み、1年の生徒全員が集まれる体育館へ集められた。


「犯人はこの中にいる!」


 言われなくとも分かってるんだよ浅川。そんな誰にでも分かりきった事を誇らしげに話すなよ。


「さっき監視カメラ映像の解析が完了したわ。今からここで公開するから、犯人は恥を晒したくなかったらここで名乗り出なさい!」


 そう言われても名乗り出る者はいなかった。誰だか知らないが往生際の悪いやつめ。


「…なら流すわよ!」


 浅川はプロジェクターに繋がっているノートパソコンを操作し、映像を流し始めた。

 重要な証拠映像だというのに、警察のドキュメンタリー番組の様に凝った編集がされている。


 しばらくして、大きなハンマーを持った犯人が現れて窓を割り始めた。顔はまだ見えないな。


 バリン!バリン!バリン!…窓ガラスを割ると、犯人は監視カメラを向いて中指を立てた。その時、少年の顔が正確に映っていた。


 そう…それは俺の顔だった。窓ガラスを破壊したのは、まさかの俺だった…


「黒金光太!やっぱりあんただったのね!」

「待て待て待て待て!俺じゃない!これは合成映像だ!誰かが俺を犯人に仕立て上げようとしている!」

「制服にガラスの破片が付着しているはずよ!」


 逃げようとしたが、背後で待ち構えていた風紀委員に取り押さえられた。


「違う!俺じゃなあい!捜査をやり直せ!」


 皆が細い瞳で俺に注目していた。


「お前がやったのか?」


 そんな風に言いたげな、困惑した表情で。


「俺じゃないんだよおおお!おい犯人!今すぐ名乗り出やがれ!」


 しかし誰も名乗り出ない。間違った証拠のせいで、俺が犯人だと確定してしまっているからか。


「はいはい、諦めて生徒会まで一緒に来てもらうわよ」

「くそおおおおお!覚えてろよ!絶対見つけ出して、ぶっ殺してやるからなあああああ!」


 こうして俺は生徒会要塞の留置場に再び投げ入れられた。


「罪で汚れたあんたにはピッタリの場所よね、ここって」

「先輩…あんたには何言っても無駄なんだろうな」


 浅川に怒鳴ったところで体力の無駄になるだけだ。生徒会長に犯人が俺じゃない事を伝えるっきゃない。


 罪人として放課後まで放置された後、俺は要塞の取調室へと移され、生徒会長直々の尋問を受けた。


「君が…やったんだね?」

「いいえ、俺はやってません。犯人の犯行時刻、俺は家で寝ていました」

「黒金君が窓ガラスを割ったという証拠が私達にはある。では君は犯行時刻に眠っていたという証拠を出せるか?」

「………」

「先程君の制服を調べさせてもらったが、ガラスの破片が付着していた。これについてはどう説明するつもりだ?」


 完ッ全に相手のペースだ!ただベラベラ話してるだけじゃダメだ、強気に行かないと!


「だったら聞くけどよぉ!お前らはいつも睡眠の記録をデータにしてるのかよぉ!?映像が加工されていないって証明出来るかぁ!?制服に付いてたっていうガラス、調べる前にお前達の仲間が付けたんじゃないのかぁ!?パラパラってふりかけみたいにヨォ!?」

「お前、我々生徒会を馬鹿にしているのか!?」

「馬鹿にしてるのはオメーらだろ!?犯人でもない生徒にこんな扱いしやがって!」


 怒鳴ったのは会長ではなく副会長の戸崎(とざき)築希(きずき)だ。こいつも浅川と同じで頭が固そうだな。


「落ち着くんだ副会長。内部で不正が行われている可能性もなくはない」

「そうですね…取り乱してすいません、会長」


 取調室に甘い香りが漂う。これが女子かぁ…狼太郎が羨ましい。女子だらけの花園生徒会、俺も目指してみれば良かった。


「こうなったら裁判で決着を付けよう。副会長、手配を頼む」

「分かりました会長!学校裁判ですね!」

「さ…サイパン?」

「それは島の名前だ。学校裁判だよ。学校で起こった事件に対して裁判を起こせる、我が校の新ルールだ」


 なんだよその新しいルール。何も聞かされてねえぞおい。


「裁判は今週の金曜日だ。それまでに君は無実の証拠を集めて、弁護人に無罪を勝ち取ってもらうと良い」

「えっと…それ、圧倒的に俺が不利ですよね?意味不明な捏造映像がそっちにあるのに」

「あれが監視カメラの映像である以上、立派な証拠だ」


 このままでは圧倒的に俺が不利だということで、金曜日までは自由に活動できるように許可を貰った。

 この間に弁護人を決めて無実の証拠を集めるか…それとも退学届けを出して逃げるかだな。


 当然、逃げるつもりはない。まずは弁護人だ。こうなったらあいつに頼んで無実を証明してもらうしかない。




 釈放後、早速頼れるあいつに電話を掛けた。


「もしもしナイン?裁かれそうだから助けて欲しいんだけど」

「なに、まな板の上にでもいるの?」

「捌くじゃなくて裁くな?まな板はお前の胸だろ」

「は?切るよ?」

「ごめんごめん切らないで。あのさ、金曜日に学校で俺の裁判が行われるから、そこで無実を証明して欲しいんだ」

「…裁判?なんで?」

「とりあえず会ったら話すから!駅前のファミレス集合な?」


 今日は俺の奢りだ。ナインが来てから店に入り、俺達は作戦会議を始めた。


「フムフム…勝算ないね」

「いや~そこを頼むよ!魔法とか使ってさ、無実を証明してくれよ!」

「犯人が君をハメるために起こした事件なら、ほとんどの証拠が君を犯人だと決め付けられるように形跡も残さずすり替えられてるはずだよ」


 俺をハメる…一体なんのために?


「とりあえずその犯人を確かめてみようか?」

「もしかして、そんな事が出来る杖があるのか?」


 それから人のいなくなった夜中の学校。俺達は校内の防犯システムに触れないように、教室へ慎重に移動した。


「リプロダクション・ワンド!」


 ナインが特徴的な装飾の杖を振る。すると学校の敷地を魔力で作られたドームが覆い、割れていた窓が元通りになった。


「これで光を操り事件当時の現場を再現する。まずは犯人の顔を知ってから、その周りを隅々まで調べていこう」

「凄いなそれ。警察も喉から手が出るくらい便利な杖だぜ」


 ナインが杖の先端に付いてるダイヤルを回して時間を調整。すると窓が割れて、犯行直後の犯人が教室に立っていた。

 念のために確かめてみたが、犯人は俺の顔をしていた。


「ルパンが使ってるような人の顔を模したマスクでも使ってるんだろうね。時間を巻き戻してみよう」


 ダイヤルが反時計に回り、時間が巻き戻り始める。光の粒子で再現されたガラスは元に戻り、犯人が後ろ向きに歩いていく。

 生徒が使ってはいけない勝手口から校舎を出ていったが、中々マスクを外そうとしなかった。


「もしかして寝惚けた俺がやったとかじゃないよな…」

「そんなことないよ!だって夜中起きた時、光太が隣にいるの見たもん!酷い寝相だった!」


 ナイン…俺の味方はこいつだけだ。俺は本当に良い仲間を持ったと、心の底から思う。


「だから真犯人見つけて、ちゃんと罪を償わせよう」

「…あぁ!」


 そしてドームから出そうになる直前、犯人は後ろ歩きしながらマスクを外した。


「知り合い?」

「いや…知らないな」


 中性的な顔立ちの少年だった。学校でこいつを見つけて、軽く問い詰めてみるか。


「もしかしたら犯行後に決定的なミスをやらかしてるかもしれない。その後も見てみよう」

「うおおおお!カッコいいぜ!」

「ふふん。科学捜査官ならぬ魔法捜査官だよ僕は!」


 さらに確実な証拠を得るために、それからも少年の行動を再現し続けた。

 そして次の日、俺は犯人と同じクラスだった事を知った。


「あいつか…」


 真犯人の名前は太刀川(たちかわ)時雨(しぐれ)。狼太郎と楽しそう話しながら教室に入った来た時にはビックリした。あんな穏やかそうなやつが、ガラスを割るなんて…


「…なあ、太刀川」

「はい…えっ」


 ドキッとした様子のリアクション。そりゃ驚くだろうな、ハメた相手から声を掛けられたんだから。


「黒金君、だったっけ?どうしたの?」

「いや…話す相手がいなくて退屈してたんだ。少し付き合ってくれよ」


 狼太郎は女子に囲まれてこっちに目が向いてない。今ならどう問い詰めても、こいつを庇うやつはいない!


「窓を割った犯人さあ、生徒会の皆が俺だって信じてさ~困ってるんだよね…真犯人は別にいるはずなのに」

「そうなんだ…確か学校裁判になったらしいね。大変、だね」


「ところでその右手、怪我でもしたのかい?」


 手は包帯でグルグル巻きになっている。ガラスで切った怪我を隠しているんだ。


「これは昨日、切っちゃって」

「そうか、それは大変だったな。一体なにやって怪我したんだ?」

「それは…」

「まあ待て当ててやるよ。優しそうな人だからな。人の手伝いでもやってうっかり怪我したんだろ?」

「そうそう!」

「例えば…窓ガラスを割る…とかさ」


 そう呟くと、露骨に表情が凍り付いた。


「そのバッジ、お前も生徒会だったんだな。誰かにやれって言われたのか?」

「…」

「怖がるなよ。理由がなきゃ人をハメるなんて事、君には出来ないはずだ。正直に話せば俺も君の味方をしてやれるぜ?」

「…」

「窓ガラスを割ったの、お前なんだろ?」


 俺も責めたいわけじゃない。だけど犯人を見つけないと、無実を証明出来ないから仕方がないんだ。


「おい黒金、いい加減にしろよ。時雨がそんなことするわけないだろ」


 気が付くと狼太郎が近くにいた。


「人に罪を擦り付けようとしてんじゃねえよ。見苦しいぞ」

「…まあいい。俺の無実は金曜日、最高の弁護人が証明してくれる」


 狼太郎の敵は皆の敵らしい。女子生徒の突き刺すような視線に殺されてしまいそうだ。こいつが陽キャってイメージはなかったが、こんな人望あるやつが敵だとは厄介だ。

 しかし不安はない。何故ならどんな時も、真に誠の正義が必ず勝つのだから。


「ありがとう、狼太郎」

「時雨~あんまナヨナヨしてると、また副委員長にシャキッとしろって言われるぞ」




 周りからの冷めた視線に耐え続け、学校裁判の行われる金曜日がやって来た。俺の無実が証明される日である。


 法廷は生徒会要塞の内部に急造され、傍聴席には新聞部や学級委員などが座っていた。


「証拠の準備オーケー!絶対に負けないよ!」

「頼むぜ。あのクソ野郎にくっせえ豚箱の空気を吸わせるためにも絶対勝ってくれよ」

「あはは、そのセリフじゃあどっちが悪人なのか分かんないね~」


 そして裁判が始まった。俺は無罪を主張し、ナインは集めた無実の証拠を片っ端から提示して見せた。

 対して敵である風紀委員は監視カメラの映像と制服に付着したガラスの破片以外に、証拠と言える物が何もなかった。

 魔法が使えるか使えないか。その差がこれである。


「これが真犯人の使った、光太の顔にそっくりなマスクです!」


 そしてナインがマスクを被り、俺とそっくりの顔になると傍聴席がどよめいた。


「では弁護人。尋ねますけど、あなたの言う真犯人とは一体誰なんですか?まさかそれも分からず、黒金被告の無罪を訴えたわけじゃないでしょうね?」


 苛立った様子の浅川が質問する。それを待ってたと言わんばかりにナインは悪そうな笑顔を作り、力強い声で主張した。


「犯人は既に判明しています!それも裁判長である滝嶺飛鳥生徒会長!あなたの配下に!」


 裁判長を勤めている生徒会長の表情は変わることなく、黙ってナインの主張を聞いていた。


「犯人は生徒会役員、それも光太と同じ1年生で、しかも同じクラスなんです!」


 くくく…笑いが堪えられない。踏ん張らないと今にでも、歯茎剥き出しで大笑いしてしまいそうだ。

 背後の傍聴席に太刀川はいる。一体今、どんな顔をしているのか、想像するだけで楽しくなってしまう!


「その犯人の名前は…太刀川時雨!君だ!」


 ナインはビシッと!傍聴席に指を向けた。滅茶苦茶カッコいいぜ今のあいつ!


「それは…本当かい?」


 とうとう生徒会長が口を開いた。いや~ショックだろうな。身内から違反者が出たとなると…くくくっ!


「はい…本当です。僕がやりました」

「フォオオオオオ!」

「被告人、静かに」


 ついつい声が出てしまった!いやー悔しいだろうな~!俺に罪を擦り付けようとして裁判まで行ったと思ったら、まさかまさかの大逆転!バレてしまいましたとさ!

 しかし相手が悪かったな!こっちの弁護人は魔法が使えるんだ!


「どうしてこんなことをしたんだい?」

「それは…」

「俺がやれって頼んだからだ」


 誰かが扉を蹴破って、法廷へと飛び込んで来た。


「狼太郎、まさか君が…」

「そうです会長。えっと…そう手柄!黒金を犯人に仕立て上げて、この事件を俺が解決しようと企んでました!」

「手柄のために俺を使ったのか!?なんていうやつだ!裁判長!今から裁判をやり直すべきです!あいつはとんでもない大悪党です!」

「うるさいぞ被告人!狼太郎が話している!」


 なんで俺が怒られるの…?


「違うよ…僕が自分の意思でやったんだ!」


 さらに事態は一転し、今度は太刀川が自ら事件を起こしたと主張した。


「狼太郎には生徒会でもっと良い地位を得て欲しかった。雑用なんて似合わないよ…」

「時雨…俺は誰かの力になれたらそれで良いんだ。それに生徒会の皆は、俺の事は雑用じゃなくて1人の役員として扱ってくれてるよ」


「うおおおお!見事だ!」


 傍聴席にいた副会長が涙を流し、拍手していた。それに続いて他の生徒会関係者も拍手した。


「仲間の為に手を汚せる者と奉仕出来ればそれで良いという者!その行動力と貢献意識!素晴らしい!」


 そして傍聴席にいた人間もそれに感化されて拍手する。サイボーグ校長も拍手していた。


「私に太刀川を裁く事は出来ない………黒金光太!君は裁判中に微笑んだり叫んだり、情緒が不安定な部分が見えた。これは犯罪者予備軍によく見られる傾向だ。さらに事件が発覚した当日、他の生徒たちが掃除や自習、コミュニケーションを取っている中で君は何もしていなかった!よって被告は!何もしてない罪に当たり、全成績評価1の刑に処する!これにて閉廷!」


 こうして裁判は終わった。


「おい待てなんだそれよ納得いかねえよ!裁判やり直せ!」

「学校裁判は民事や刑事と違い、いかなる事件においても一度だけと決まっている。学生が本分である勉強を疎かにしてはいけないからな」


 ここまで本格的に裁判やって、いきなり学生らしい言葉が飛び出してきた!


「ふざけんな!ナイン!助けてくれ!」

「光太大変だ!魔獣が出現したみたいだ!とりあえず僕とサヤカ達でなんとかするから、後は適当に罪を償っといて!」

「魔獣だって!?それは大変だ!俺も力貸すぞ!だから頼む、助けてくれ!」


「…ハァ」


 溜め息!?あの弁護人最後に溜め息吐いて出て行きやがったぞ!


「ハッハッハ!」

「校長!助けてください!こんなのあんまりですよ!」


 傍聴席に残っていた校長は笑っていた。そんなに俺の結末が滑稽だったのだろうか。


「黒金光太。顔の良かった男が減刑されたという話を知っているか?」

「まあ…都市伝説って感じには…」

「あれは都市伝説ではないのだよ。何より君も今、贔屓混じりの理不尽な裁きを受けたじゃないか!覚えておくといい。どんな物事においても、最後に全てを決めるのは贔屓だ。より良い印象を持たれている者が最後に勝つ!それを忘れるな!」

「校長…」

「君はここで負けた。しかしこの負けは決して無駄にならない…泣くな、絶望するな。芯の強い君には不条理な社会を生き抜く力が宿っている」


 いやもう…冤罪で裁判とか二度とあって欲しくないんですけど…


 こうして俺の成績は前期だというのにも関わらず、全て1になってしまった。

 圧力を受けたのか新聞部の記事には犯人が俺であったと書かれており、涙を流さずにはいられなかった。


 そして魔獣はナイン達にちゃんと倒されていたので、そこは安心出来た。

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