第15話 「まずは僕の超人モードについて」
全くどういうわけなんだ!
魔獣を倒して街を直そうとしたら、ナッコーには銃を向けられるし、光太は自分から人質になって気付いた事を何一つ教えてくれなかった。
「白状しろおおおおお!」
「うああああああああ!トーホールドはやめろ!」
魔法の杖はナッコーに管理されてしまったので、僕は隠し事を聞き出そうと光太に拷問技を掛けている真っ最中だった。
「どう?言う気になった?」
「…何かに目覚──」
「うん。それじゃあ立って」
今度はパロスペシャルを試してみよう。それにしても関節技っていうのは面白い。小柄な僕でもちゃんと決めれば大ダメージを与えられるんだからな。
「あっ左腕ないからホールド決まらないじゃん…それにしても君ってホント丈夫な身体だよね」
最近になってようやく気付いたことだけど光太は頑丈だ。どれだけ傷を負っても死なないし、片腕失って違和感があるはずなのに、目覚めて2日でもう当たり前のように生活している。
「義肢付けなくていいの?」
「う~ん、付けたかったけどさぁ…お揃いだねって言いたかったのに、どっかの誰かさんが五体満足になっちまったからなぁ…」
「いや悪かったって…」
ん?どうして治療してもらった事を謝らないといけないんだ?むしろ喜ぶべきところだろ!
「欠損部分でハイタッチしたかった!」
「気持ちワリィ!」
そんなアホな会話を繰り広げていると玄関のドアが開く。ノックをせずにナッコーが入って来たのだ。
「あれ?どうしたの?」
「あなた方に不審な動きがないかをチェックに来ました」
こんな風に僕が利敵行為を企んでないか、ナッコーは抜き打ちでチェックに来るようになった。盗聴器などは設置していないそうなので、最低限のプライバシーは守ってくれているが…
勝手に部屋に上がって来るのに守ってるって言えるのか?
「ところでナイン、お前…超人モードっていっぱいあるよな」
「4種類しか変身した記憶ないけど」
「あれ?そうだったか?…うぅん」
言葉を詰まらせた光太が振り向いてナッコーと目を合わせた。なるほど、彼女に頼まれたってわけだ。
「僕の能力が知りたければ直接聞けばいいじゃん」
「教えていただけるんですか?」
「別に隠す事の程でもないし…そうだ、シュラゼアでの戦いで新しい事も分かったんだ」
ナッコーを向かいに置いて僕達はリビングのテーブルに着いた。いい機会だから、ここで能力を再確認しておこう。
「まずは僕の超人モードについて」
超人モードとは僕が変身出来る強化形態の事だ。敵の能力をコピーした超人モードと、一緒に戦った仲間の力を使える超人モード2の2種類が存在している。
コピーしたのは火と氷の2種類。それぞれ、烈火と堅氷と名付けた。
そして超人モード2については、現状どう頑張っても変身出来ないと考えている。かつて戦った悪の魔女アン・ドロシエルとの戦いで発動したトラスターソードマンは友達のサヤカ、ジン、ツバキ、ツカサの4人の力が合わさった物だった。つまり、その4人が集まらないと再び変身する事は出来ないのだ。
「どう、凄いでしょ」
「使いこなせなきゃ宝の持ち腐れだけどな…いってぇ!蹴るなよ!」
ナッコーは手を高速で動かして説明した内容を的確に記入。いつの間にかボイスレコーダーまで起動していた。
「それで?あなたにはその超人モードだけでなく飛行能力があるように見受けられたのですが」
「僕はキメラなんだ」
「キメラというのは…この世界では複数の生物の遺伝子情報を持った動物の事を指しますが、その認識で大丈夫ですか?」
幼い頃、強さを求めていた僕は数えきれない程の魔物の血肉を取り込んだ時期があった。その事をお兄ちゃん達に叱られてからはもうやってない。
血肉を取り込んだ結果、僕は何かの魔物の羽根が生やせるようになって飛行能力を得た。それとナベブタムダブタという家畜として飼われている魔物の尻尾が生えている。理論上、僕は美味しく召し上がれるらしい。
後は毒に耐性のある魔物を摂取したからなのか、僕にも耐性が付いた。だけどこの事は年のために伏せておこう。
それ以外に発現した能力は無かった。額の右から生えるのは自前の物だ。
「なるほど、それ以外には何かありますか?」
「う、う~ん…何かあったっけ?」
「俺に聞くなよ…」
これ以上は無い…はず。また振り返る機会があるだろうし、忘れてたとしたらその時に取り上げればいいか。
「そういえば光太、僕はシュラゼアでハザードドラゴンっていう天災の能力を持つ敵と戦ったんだ」
「そいつヤバくね?どうやって倒したんだよ」
「超人モードに変身したん──」
「俺無しで超人モードだと!?」
うるせえ!驚くだろうとは思ってたけどそんなに声を出す事でもないでしょ!
烈火、堅氷のような敵の能力をコピーした超人モードに変身するためには、ミラクル・ワンドを使用しなければならない。
そのミラクル・ワンドについても色々ややこしい部分があるのだけど今回は省略する。
「それで?!一体誰だ!誰がお前を変身させたんだ!ハクバだな!?ハクバってやつだろおおおお!」
「怒鳴らないでよ!」
「二人の世界に浸ってないで説明続けてください!」
絶体絶命のピンチに陥った時、お守りとして持って来ていたミラクル・ワンドが飛来した。そのワンドから飛び出した謎の光が、一緒に戦っていたハクバ・アイビスカスの宝刀白滝に宿った。
そしてミラクル・ワンドを握っている光太と心が繋がった時と同じように、ハクバと心が繋がって超人モード烈火へと変身。力を合わせてハザードドラゴンを撃破したのだ。光はその後、元の場所に戻るようにミラクル・ワンドに戻っていった。
「そんな戦いがあったんですね…」
「はぁ…まあ俺がいたら苦戦はしなかっただろうね。早い内から超人モードでそのドラゴンを丸焼きにしてた」
僕の能力に関して話せるのはこれくらいだ。ナッコーはシャーペンを置いてレコーダーを止めると、ズレていた眼鏡をクイっと直した。初めて出会った時と同じ物だ。
「…あっ」
魔獣の魔力を感知した。どうやら僅かな動揺で、ナッコーにもそのことを見抜かれたようだ。
「魔獣ですか?」
「行かせてよ」
「…マスコミが向かわないように圧を掛けておきます。それでも派手な戦いは控えてください」
そう指示したナッコーは魔法の杖が入ったウエストバッグをテーブルに置いた。
「よっしょ、行くよ光太!」
「あぁ!」
こうして急に始まった質問タイムは急にお開きとなり、僕達は魔獣を退治しに空へと跳び上がった。