第9話 「えっ…え?」
昨晩、SPに囲まれた老人から雨野さんが銃を受け取る場面をビデオカメラに収めた。
ナッコーは雨野さんが受け取った銃とその映像を持って部屋に籠りっきりだ。
ウエストバッグを預けてしまっている今、部屋で何をしているか探る術がない。
さっきなんて銃をバラして製造元を探るとか言ってたし、彼女はやっぱり普通じゃない。
一体どんな秘密を抱えているんだろう…
「僕も情報を集めないと」
この廃都市が外からどんな風に見られているのか。それを確かめようとしてテレビ点けると、廃都市に建てた壁が映っていた。
「男性は自衛隊員の制止を振り切り、フェンスを越えて単端市に入ったそうです。警察が市内の捜索に入ろうにも、先日突如出現した壁により突入が難航しており…」
関係者以外の出入りが禁止されている市内に昨晩、一人の男性が入り込んだ。彼は未だ戻っておらず、単端市にいる不法移民者によるトラブルに巻き込まれたのではないか。
それと市内から何かが爆発したような大きな音がしたが、移民者の抵抗を受けた自衛隊達は市内に入ることが出来なかった。
その2つの話題を取り上げているニュース番組が流れていた。
「なんだこのニュース!デマばっかりじゃないか!」
雨野さんは移民者への憎しみを利用されて、お腹に爆弾を仕込んでまでこの壁の中で活動していた。それが爆発した後、外にいる自衛隊員は何もしなかった。
他のチャンネルでも同じような報道がされているばかりだ。ひたすらこの廃都市に住んでいる人達を批判している。フェンス前にやって来た老人については何も報道されていなかった。
「不法移民者の問題については散々取り上げられていた。それを今まで放置した結果が単端市の惨状というわけです。これについては外交をやりやすくしようと人を受け入れるだけで全く手を打たなかった現首相達に責任があるとおもう。即刻総辞職することを私はお勧めしますよ。聞いてますか総理」
城ヶ崎幸也という年老いた大学教授が批判を行っていた。
まさかこの人が昨日の老人だったりしないよな…そんなわけないか。ただの大学教授だもんな。
それ以上なにかを知る気にはなれずにテレビを消した。SNSとかは覗かない方がいいだろう。きっとここに対しての批判で溢れているに違いない。
「ナッコー、参ってるだろうな…」
少しして怒り心頭のナッコーが部屋に来た。そりゃあこれだけ頑張ってるのに悪事扱いされたらなぁ。
「ナッコー、大変なことになっちゃったけどこれからどうする?」
「やることは変わりません。私達はここにいる人達の保護を続けましょう。それこそ日本人は容赦のない口撃を得意としていますが、行動を起こす事は滅多にありません。せいぜいフェンスの内側にゴミが投げ入れられるくらいでしょう」
「も、もしも人が乗り込んできたら…」
ナッコーは黙り込んだ。しかしその瞳を見る辺り、対策を練っているというわけではない。既にどうするか決めているようだ。
「屑相手にわざわざ魔法の杖を使うつもりはありません。そういう社会をナメてルールを破るようなやつらにはこちらもそれに合わせて手を打とうと思います。ここにいる人達もそろそろオモチャを欲しがる頃でしょうし」
「えっ…え?」
この先の事について考えるとここで止めた方が良いのかもしれない。しかし言い方に臆してしまった僕はただ困惑するだけだった。