第21話 「早く撃とうぜ!」
今日は良い天気だ。雲に遮られることなく太陽が街を照らしている。絶好の洗濯日和だ。
貸し切り状態であるアパートの敷地内に、俺とナインの洗濯物を次々と干していく。最近は忙しくて満足に洗濯が出来なかったし、今日は頑張るぞ!
「光太!大変だ!リビング来て!」
そんな平穏な時にナインが窓から大声で呼ぶものなので、俺は慌ててリビングへ。
「発射されたミサイルは30分後、神奈川県単端市に着弾すると予測されています。近隣の住人は速やかに避難行動を──」
「ミサイルだ!ミサイルが飛んで来るよ!」
「な、なんだって!?」
ミサイルが日本の方向へ飛んで来るのは珍しい事じゃない。だかこれまで海に落ちていた物が、今回遂に領土内にやって来るのである。それも俺たちの住んでるこの単端市にだ。
「逃げないと!こんなボロアパート、簡単に吹き飛ぶぞ!」
「デパートだよ光太!建てられたばかりのあそこの地下なら安心だ!」
去年建ったばかりのあそこか…確かに走れば10分で着く。まずこんな場所より安全だ。
時間もないので最低限の用意をして俺達はアパートから出発した。道中、俺達と同じようにデパートに避難している人が大勢いた。
「まずいな…いくら大きなデパートでも、これだけの人数は絶対に入り切らないぞ」
「光太、生き延びる為にはまず自分の事を考えないとダメだよ」
俺の予想通りだった。既にデパートには多くの人が逃げ込んでおり、入れる隙間も残っていない。
「大変だ光太!これ見てよ!」
「今度はなんだ!?」
「発射されたのはミサイルではなく核ミサイルでした。失礼しました」
か、核ミサイル!?なんでそんな物が飛んで来てるんだよ!
「こうなったら…自信はないけど、僕の魔法の杖で何とかするしかない」
「魔法の杖で何とかなるのか!?」
「自信がないって言ったでしょ!…ミサイルの迎撃はそう容易い事じゃないんだ」
「でもやらないと!俺達全員死ぬぞ!」
魔法の力で近くの建物の屋上へと跳び移ると、ナインは同じ形をした杖を沢山設置した。
「これはディフェンスミサイル・ワンド。対空弾を発射する杖だよ」
「すげえ!こんなに沢山あればなんとかなるって!早く撃とうぜ!」
「ダメだよ。今は自衛隊たちが対応してるはず。それでも破壊できなかったら僕達の番だ…自衛隊でどうにか出来なかった物を僕達だけで止められるとは思えないけど」
そうだ、慌てる必要はなかった。日本には防衛力に特化した自衛隊がいるんだった。
「そーだそーだ!だったら俺たちの出番はないかもな!」
それからすぐだった。自衛隊が核ミサイルの破壊に失敗したという情報が入ったのは。
「嘘だあああああ!」
「僕と君の魔力を全ての杖に集中させる!ギリギリまでチャージしてなるべく高威力の弾を放つ!」
「私も加勢するわ!」
そしてどうやって登って来たのか、水城がフェンスを越えて現れた。
「ホッシー!力を貸してくれるの!?」
「光太君の住むこの街を破壊させてなるものですか!」
「助かるぜ…うおおおお!」
遠くの空にミサイルがうっすらとだが視認出来た。その瞬間、魔力によって威力の上がった対空弾が次々と発射された。
弾は核ミサイルへと向かっていく。しかしどういうわけか、ミサイルに着弾する前に爆発していた。
「そんな…!」
原因はバリアである。核ミサイルは自らバリアを展開し、そのボディを守っているのだ。これでは自衛隊の迎撃が通用しないのも無理はない。
「僕たちの…敗けだ」
このまま核の炎に焼かれて死ぬのか…
「ごめんナイン。お前はアノレカディアに逃げれば良かったのにな…」
「そう言われたらそうだったね…」
「光太君、力になれなくてごめんなさい…来世は幼馴染に転生していちゃラブライフを過ごしましょう」
そうだな水城。転生したら幸せな人生送れるといいな…
「ゆとり世代というのは随分情けないんだな」
俺達が絶望して全てを諦めたその時、あの男はやって来た。
「サイボーグ校長!」
「ハッハッハ!任せろ、生徒を守るのが先生の役目だからな。サイボーグカノンスタンバイ!」
そう叫ぶと、以前俺達に向けられた胸の大砲がシャツを破って現れた。
「…戦争とは言ってしまえば政治家達の喧嘩だ。喧嘩を戦争という言葉に変えて、国民に神聖なる戦いだと錯覚させているのだよ!」
「校長!核ミサイルが来てます!御託はいいから早く破壊してください!」
「いいか?戦争を強いるクソ政治もクソみたいな戦争も必要ないのだ!人を傷付けるしか使い道のないあのミサイルの様にな!サイボーグカノン・フルパワー!」
そして校長の胸から放たれた光線は、核ミサイルを展開していたバリアごと飲み込み、消滅させてしまった。
「ふう…最大威力で撃つと快感だ。全く、無関係な子ども達を巻き込むとは流石、政治家は戦争が大好きなんだな」
そうして校長は背中から翼とロケットを展開して飛んで行ってしまった。もうサイボーグ通り越してスーパーロボットじゃねえか。
「サイボーグ校長…味方になるとあれほど頼もしい人はいないわ」
「お兄ちゃん程ではないけど強いよあの人」
こうして一人の男の力によって、この単端市は守られたのだった。