第6話 「視界良好」
夜が訪れた。廃都市の住民は僕が直した民家へ入っていき、都市の灯りが次々と消えていく。
「視界良好…ボイスレコーダーオン…」
ナイトビジョン・ワンドの魔法で、僕は暗闇の中をよく見渡す事が出来ている。今のところ、怪しい人影は見当たらない。
そばに置いてあるボイスレコーダーはナッコーからの借り物だ。
どうしてこんな物持っているのか尋ねたが、答えてくれなかった。
警戒開始から1時間経過。現在、外には酒盛りを楽しんでいるシャトランガ族が7人いるだけ。
フェンス側を見ると、ライフルを持った自衛隊員が等間隔で配備されている。あの監視を潜り抜けて都市に出入りする事は不可能だろう。銃を持ち込もうとフェンスを抜けても、僕が建てた壁が待ち構えている。
そうして可能性を潰していくと、ますますどうやってピストルを送り込んで来たのか分からなくなった。
「…自動車接近」
ちょっと離れた検問の方に車が停車した。僕は音を立てないように壁の上を移動した。
車に向かって自衛隊員達が並んで敬礼。中から降りて来たのはスーツを着た人達。あれはセキュリティポリスだ。
つまりあの車には偉い人が乗っているということになる。
どんどん事が大きくなってきた。とりあえずこのまま監視を続けよう。
違法な取引などをしようとした瞬間、ナッコーから借りたこのビデオカメラに収める!
「よっこいせ…」
白髪の老人が降りて来た。おそらくあれが黒幕だ。
老人と自衛隊が紙をライトに照らして筆談をしている。どんな会話をしているかは読み取れなかったが、どうやら徹底して痕跡を残すつもりはないらしい。
ビデオカメラを回しているが、暗すぎて何も映らない。こういう時にはナイトビジョン・ワンドで性能をアップだ。
「…ん?」
作業をしていると不思議な音が鳴り始めた。コツン、コツンと何か叩いているような音だ。
同じような音は壁の内側からも聴こえた。位置的にシャトランガから3つ隣のボナレド区からだ。
まさか今回の事件にはボナレド族が関与しているのか!?
だけどシャトランガとボナレドは全くと言っていいほど縁がない。それにこの壁の中で双方の間にトラブルがあったなんて聞いてない。
ボナレド区に近付くと、僕は驚くべき光景を目撃することになった。
老人が手袋を付けた自衛隊員に銃を渡した。
自衛隊員は壁の向こう側にいた人物に銃を投げ渡したのだ。
映像はちゃんと撮れた。老人の顔はボケてしまっているけど、放物線を描いていくL字の物体とそれを受け取る人影を捉えたぞ!
用事を済ませた老人はすぐにその場を去って行ってしまった。追跡して追い詰めてやりたい気持ちがあるけど、まずは壁の中で銃を受け取った人だ。
銃を持ってどこへいくつもりか、色々と調べる必要がある。
その行方を知るために、僕は壁の上を静かに進んでその人を追った。