第5話 「そんな、一体どうして…」
不法者の廃都市はナッコーの采配によって順調に整備されていた。ある日、僕はどうしてそこまでやるのかと興味本位で尋ねてみると、日本という国を守りたいからと答えられた。
この国全体の問題を彼女は一人でどうにかしようとしている。凄い愛国心だ。
この廃都市を存続させるのがここに住む人達の命を守る事に繋がるなら、僕も喜んで力を貸そうと決めた。
「外出て~!」
だけど移民者達の自立を促そうとナッコーが考案したシナリオで、救世主として扱われた僕は病に倒れた事になっている。なので外に出て何か作業をしたりは出来ない。
そもそも僕が手出しせずとも、ここにいる人達は生活していけるだろう。
光太のお見舞いに行こうとも思ったけど、都市の周りには検問とフェンスが張られていた。非常時に備えてアノレカディアに渡る事は出来ない。アパートに籠ってゲームするのも飽きた。
「修行するか…」
目を閉じてこれまで戦った強敵をイメージ。そいつらと戦おうとした。
「あっ!?これまで戦った強敵に僕一人で勝てたことね~よ!」
それでもただ自分の非力を自覚させられるだけだった。
「ナインさん、今お時間いいですか?」
「ナッコー?入って良いよ」
身体を動かそうと着替えのジャージに手を伸ばしたしたタイミングで来客だ。ドアストッパーで開放してある玄関から、カバンを持ったナッコーが上がってきた。
「あの、私達以外近寄れないようにしてありますけど、一応防犯意識は持っておいた方がいいですよ?」
「大丈夫だって!何か盗まれた時には魔法の杖で犯人捜せばいいんだからさ」
「そうですか…それよりも、ちょっとこれ見てもらえますか」
カバンから中身が見えない袋が取り出される。その中には黒くL字状の物体が入っていた。
「ピストルだ…まだ隠し持ってた人がいたの?」
「3日前の見回りで全ての銃器を漏れなく回収しマーカーも付けました。発見当時の状況から推測するに、これは回収後に外部から持ち込まれた物です」
この廃都市内で争いをしてはいけないというルールが設けられた。そして争いを起こさない為に武器の所持を禁止し、回収が行われた。
しかしこれは外部から持ち込まれた。一体誰がどうやって、何が目的で銃を仕入れたのか。
「そんな、一体どうして…」
「内乱を起こさせるためでしょうね。隣接している区で銃が発見されたとなったら緊張が高まりますから。この都市に社会システムを設けてから、移民者達が少しずつ協力しようと団結しています。それが気に入らないのでしょう。廃都市が住みやすくなればそれほど、ここから人が離れなくなりますから。もしかしたら海外からここへ来てしまう人が現れるかもしれませんし」
団結しようとしても少なからずわだかまりは残っている。それらの情動を狙って、誰かがこの都市へ送り込んだ物だと説明された。
「だからって…こんなの酷いよ」
「ナインさん、お願いがあります。この銃を用意した犯人を特定してください」
「分かった!任せてくれ!」
前みたいな争いは起こさせない。誰だか知らないけど、そいつは必ず捕まえると誓った。
場所は変わり、シャトランガ族の住むシャトランガ区。ここは検問に近い区域の1つで、外部からのピストルもここで見つかったそうだ。
僕は魔法の杖の力で瞳と髪の色をシャトランガ族に合わせて、区内の探索を始めた。ちなみに瞳が日本人と同じように黒く、髪が茶色なのがシャトランガ族だ。
「お前、初めて見る顔だな」
「はじめまして。昨晩、この都市の話を聞いてここに来ました。ナイン・パロルートという者です」
「そうか新入りか。大変だったろう、これから一緒に頑張っていこうな。困ったら、救世主様の弟子になんでも相談するといい」
外見を寄せたので怪しまれてはいないようだ。弟子というのはナッコーの事だろう。
ひとまず見渡してみたが、特に怪しく感じる部分はない。検問のフェンス前に行ける道はなく、壁上に登った痕跡もない。
次に区内に住む人達に銃の出所を尋ねた。ナッコーには真実を無理矢理吐かせる杖の存在を伝えたが、それでは信用を失ってしまうと使うのを止められた。
だから僕は普通に尋ねた。だが全員が口を紡いだ。新入りである僕には何も言わないつもりだ。
ピストルは昨晩、検問側の壁付近で発見された。シャトランガ族の人達が集まっていて、見回りをしていたナッコーがそれに気付いて回収出来たそうだ。
ケースなどは見当たらず、6発の弾丸が込められたピストルがそのままの状態で発見された事に関して、1度でも発砲すれば騒ぎが起こせるので、それを狙ったのではとナッコーは推測した。
しかし銃の発見が騒ぎになっていない今、犯人は再び何らかの方法で銃をこちらへ入れてくるかもしれない。
こうなったら今晩は寝ずに見張って、犯人を取っ捕まえてやる!