第4話 「揉められても困るし」
些細な事を理由にした争いが持ち込まれた結果、血が流れるのを妨げる壁だらけになった単端市。
僕は朝、昼、晩の3度に渡って市内を飛び回り、移民者達に魔法の杖で出した食糧を配給していた。
当然、魔力を消費するので作業を終える頃にはいつもクタクタだ。
「全く…働きもしてないのによく食べますよね」
夜空を飛行する箒のような杖、ブルームフリューゲル・ワンドの前側に座って操縦するナッコーが毒を吐く。
それは僕も少し思ったけど…
「魔法の杖で欲しい物を出してあげれば大人しくなるし…皆で協力しましょー!って言ってまたどこかで揉められても困るし」
「でもここにいる人達全員、あなたに依存することを覚えちゃってますよ。食っては寝て食っては寝て。実質的に社会が奪われた壁の中では話題もなく会話がない。こんな生活人間未満です。利益を出さないと考えると家畜にも満たない存在ですよ」
言ってくれるなぁ。僕だってこれからどうすればいいか悩んでるってのに。
ナッコーの言葉に少しイラっと来たので、意地悪するつもりで尋ねた。
「それじゃあナッコーは何かいい案はあるの?」
「魔法の杖で仕事を作りましょう。依存からの脱却を促すんです」
最初聞いた時にはどういう意味か分からなかった。そして次の日、彼女は驚くべき行動に出るのだった。
「単端市にお住いの皆さん!私の言葉が届いていますか!」
ナッコーに言われてテレパシー・ワンドをはじめとした意思を伝えられる杖を用意した。
すると彼女は演説を始めたのだ。
「私は石動加奈子!あなた方が魔女と呼び慕う救世主の側近です!救世主様は先程、未知の病に侵されて倒れました!今は安静に眠っておられますが、いつ目を覚まされるかは分かりません」
耳を澄ますと壁の向こう側からどよめく声が聴こえた。救世主とはつまり僕のことだけど、そこまで自分に影響力があるとは思っていなかった。
「救世主様はこうなる未来が視えておられたのでしょう。緊急時に備えて様々な神器を用意しておいてくれました」
言っておくけど僕にそんな力はないし、魔法の杖は神器なんて呼べる程の万能道具ではない。
全く、ここまで話を広げてどうオチをつけるつもりだ。
「私達は依存していたのかもしれません!全てを与えて下さる救世主様の力に!今こそ、彼女の保護から脱却し、一人前の人間として生き直す時なのです!」
そしてナッコーは色々頑張った。壁に門を造らせる為の道具を用意し、植物を育てられる畑を用意。
今後色々足りないと言われることがあったとしても、ナッコーが救世主の弟子として上手く補っていくそうだ。
門が造られた後、壁で隔てられた区域ごとに住所となる名前が与えられ、そこを担当するリーダーを決めさせた。
これから毎日リーダー同士で話し合いを行い、まずは部族間での争いを避ける方法を模索していくとのことだ。
そして僕は地底の民となった。地下から水を湧き上げて池を用意し、単端市の外から獲って来た魚を放流した。
自然に対しての冒涜行為だと言われても仕方ないけど、大勢の人達が生きていく為に見逃して欲しい。
こうしてナッコーは単端市に新たなる社会を造り出したのである。
君、本当に光太と同い年の元学生さんなんだよね?
「これで少しはマシになるでしょう。この不法者の廃都市も」
「そんな名前付けたんだね…」
「ナインさん、この街については私に一任させてもらってもよろしいでしょうか?」
「よろしくね。僕、政治的な事は苦手なんだ。お兄ちゃん達にもなるべく関わらない方がいいって言われてるし」
こうしてこれから単端市はナッコーを中心に回っていくことになる。
病で倒れたことになっている僕は魔獣に備えて修行しつつ、いざという時には移民者を支援するポジションに就いた。