第2話 「私が戦います!」
「魔法は使えないけどやるっきゃないか…」
まずいことになった。さっきまで移民者達のリクエストに応えていたナインさんには今、魔獣と戦える程の魔力が残ってないはず。
こうなることは想定していたけど、いざその時が来ると恐怖に負けてしまいそうだ。
「ナインさん──」
「ナッコー、いざって時には魔法でここにいる人達を避難させてあげて」
しかし私は何も言えずに、そのまま彼女を見送ってしまった。
避難させてあげてって…ここにいる人達は街から出られないのに…
どう見ても無人偵察機にしか見えないドローン・ワンド。それとドローンに付いたカメラの映像を見ながら操作出来るというこれまた画面付きのリモコンにしか見えないモニタリングコントローラー・ワンドを用意。
私はそれを飛ばしてナインさんの戦いを見守ることにした。
今回現れたのは鳥のような魔獣だった。しかしこの世界の生物では例えられないほど翼が大きい。その見た目はまるで凧に掴まっている忍者のようだ。
地上にいるナインさんは手当たり次第に拾った物を投げ飛ばしているが、翼が起こす風でどれも跳ね返されてしまっていた。
ドローンに武装はない。戦っている彼女を持ち上げるパワーもない。本当にただ見ているだけだ。
「ナインさん!」
魔獣が大量の羽根を飛ばして攻撃した。逃げ場のない絨毯爆撃だ。これでは避けれない。
ナインさんは近くに停まっていた車のガラスを割って身を隠した。しかし車はガソリンタンクがやられたのか、液が漏れ出している。
そして引火した車は爆発を起こし、浮き上がった彼女の身体が建物の壁でバウンドする。頭を強く打ったのか、かなりの血が流れていた。
「やっぱり魔法の杖なしじゃ…」
いや、魔法の杖があったところで今の彼女には魔力がない。
私がやるしかない。人との戦いとは全く別物だろうけど、魔法の杖があれば…
「超人モードにさえなれたら…ってナッコー!どうして来たんだ!危ないから逃げろ!」
「選手交代です!ここからは私が戦います!」
現場に駆けつけると、ドローンからの映像で見た時よりもさらに傷が増えていた。ここに来るまでずっと戦っていたんだ。
これ以上無茶はさせない!
「一人で魔獣と戦うなんて無理だ!逃げろ!」
「対策の準備をして来ました!ただ遅れて来たわけじゃありませんよ!」
魔獣を倒すのに必要な4本を自作の杖携行用ベルトに付けて来た。
まずは1本目。空に飛んでいるあいつを撃ち落とすためのバレット・ワンド。
これで周囲の物体を弾にして飛ばす!
私が念じると杖が周囲の物体に干渉。建物の瓦礫やグレーチングが次々と浮かび上がる。そして発射準備が完了した物から頭上へ打ち上げた。
魔獣は翼を動かして地上へ風を落とす。私が飛ばした弾は風の力でこちらへ戻って来ようとしていた。
「タービン・ワンド!チャージモード!」
狙いはこの風の力だ。今稼働させたこのタービン・ワンドは装飾部分であるタービンが回転する事でエネルギーを発生させることが出来る。
溜めたエネルギーで攻撃したり、接触式ケーブルで人や物にエネルギーを移す事が出来るが、現状はチャージだ。
攻撃に必要なエネルギーを溜めなければならない。
「ナインさんはこれで守る!」
3本目はバリア・ワンド。動けない彼女を抱えて逃げるよりもこうした方が被弾率は低い。
私に降ってくる弾は自力で避ければいい。
「ナッコー!危ない!」
こうなることは想定済みだ。だからあえて視認性の高い大きな物を弾として打ち上げたのだ。
そうして私は最低限の動きだけで弾を避けた。魔獣は跳ね返す弾がなくなると風を止めてしまった。
それから着弾した弾をバレット・ワンドで再び発射準備に入らせた。
「もう一度ッ!」
風が収まると同時に再び発射。弾を防ぐために魔獣は再び翼を動かさなければならず、おかげでタービン・ワンドにはエネルギーがどんどん溜まっていく。
「ナッコー!」
「分かってます!」
こいつ!瓦礫に混ぜるように羽根を撃ってきた!しかも速い!
「うっ!?」
問題ない。腕を掠めただけだ!直撃しそうな羽根はバレット・ワンドの弾で迎撃出来ている!
「バリアを君に付けろ!僕なら大丈夫だから!」
握っているタービン・ワンドからどれだけのエネルギーが溜まっているのか伝わってくる。
これじゃあ足りない。4本目を使うにはまだ…
「羽根が行ったぞ!」
軌道を計算して身体を動かすにも限度がある。何より実戦は初めてだ。
「避けられ…ない!」
回避しようと前へ走るが羽根は腕に刺さった。けれどそのまま止まってコンクリートブロックに頭を潰されるよりはマシだ。
「…来た!」
タービン・ワンドに必要最低限のエネルギーがチャージされた。
腰から4本目の杖を抜杖。その杖にタービン・ワンドから延ばした接触式ケーブルを付けてエネルギーを送った。
「それはっ!………なんだったっけ?!」
「製造者なのに覚えてないんですか!?…あらゆるエネルギーを粒子状の破壊エネルギーに変換して放つフォトンブラスター・ワンドです。ただ試作品のようで一度撃ったら壊れてしまうとマニュアルに書かれてました!」
「そんな杖いつ造ったかな…?」
私の中にある魔力だけではアイツを倒すには足りない。そのためにタービン・ワンドでエネルギーを溜める必要があった。
「ぐぐぅ!」
それにしても重い!魔力を送った途端に急に重量が増した!この外見も杖っていうかSF映画に出てくるライフルみたいだ!
「よいっしょお!」
ブリッジするように身体を倒して杖を垂直に立てる。
魔獣の羽根に全身傷だらけにされているけど、これを当てれば全て終わる!
「ンッ!」
ドオオオオオン!
トリガーを引いた瞬間、目の前が真っ白に染まり身体が地面に叩きつけられた。
「ナッコー…しっかり!おい!石動加奈子!…良かった、無事だね?」
「ナイン…さん………魔獣は!?」
「君のおかげで撃破出来たよ。」
良かった…私が倒したんだ。あの恐ろしい魔獣を…
「どこか痛む場所はない?光線を撃った反動で身体打ったよね?」
「特に…なんとか、立てそうです。ナインさんこそ頭の傷は平気なんですか?」
「まだフラフラするけど大丈夫」
お互いもう戦えそうにはない。移民者達への対応も程々にしておかないと、いざって時に戦えなくたってしまうな。
「魔獣との戦いって初めてだよね。それなのに上手な立ち回りだったけど、君何者?」
身体を支え合いながらアパートへ戻っていると、ナインさんがそう尋ねてくる。一応、こういう時に備えて返答は考えていたけど、信じてくれるだろうか。
「私アクション映画が好きなんです。出てくる相手に対して自分ならどう動くかって考えたりするのが…もしかしたらそれのおかげかもしれません。ナインさんの戦いを見て分析して、今回の作戦も思い付きました。まぁ、望んだ杖が都合よく出てきてくれたのは、本当ラッキーでしたね!」
「そっか…光太には悪いけど、ナッコーは彼よりも戦いの素質あるのかもしれないね」
上手く誤魔化せたみたいだ。今はまだ、私の秘密は知られちゃいけない。
騙す風になってしまってごめんなさい、ナインさん。
「これからは私も戦います。黒金君がいない今、あなたをサポートするのは私の役目です」
「巻き込むような形になって悪いけど…頼りにしてるよ」