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第20話 「魔獣が出るぞ」

 孤独な昼休み。今日は屋上で昼飯を食べた。休み時間が終わるまで、まだまだ時間が残っていた。

 のんびりと景色を眺めていると、フワフワと浮かんでいる物体がこちらに近付いて来るのが見えた。風船だろうか?


「お~い!」

「あれ…ナインか!?」


 空を浮かんでいたナインは俺のいる屋上に着地した。手にはまた見たことのない魔法の杖を持っているが…


「こらっ!迂闊に学校に来るな!」

「今回は許してよ!」


 ナインはいつにもなく真面目な顔だった。何かあったみたいだ。


「また魔獣がこの世界に現れた!」

「魔獣だって!?」


 魔獣というの以前、俺を襲った人の形をした影のようなやつだ。あんな恐ろしいやつがまた現れたって言うのか!?


「魔獣は?どんなやつだ?」

「場所も姿もまだ分からない。でも確かにこの世界に現れるのを感じたんだ…!」

「そんな…お前の同級生達は?」

「さっき連絡したから、夕方にはこの世界に来れると思う…」


 また剣になるあの変な元同級生の力を借りることになるな。

 けど今回は俺とナイン、両方とも万全だ。力を合わせればなんとかなる!


「こうなると早退だな…帰って準備するぞ!」

「うん!僕、先帰ってるね!」


 ナインが無事に飛び立つのを見届けて、俺も校内へ戻ろうと振り返った時だった。

 塔屋の前に数人ほどの女子生徒が待ち構えて、俺の事を睨み付けていた。


「ここ、A棟の屋上は立ち入り禁止よ。最近、ここに向かう生徒の姿をよく見るって聞いてたから待ち伏せしてたのよ」

「す、すいません!そうだとは知らなくて…」


 ブレザーの襟に付いてるあのバッジ、あれは風紀委員の物だ。この学校だとそこまで厳しくないって聞いてるけど…


「違反者をこのまま見過ごすわけにはいかないわ。大人しく私たちについて来なさい」


 そんな命令は無視して逃走!する程の勇気は俺にはない。こうなったら適当に説教を受けてさっさと帰ろう。


 そうして俺が連れて来られた場所は、1階よりもさらに下。今日まで存在すら知らなかった地下フロアだった。


「なんだここ…」

「知らないのも当然よね。最近開発が始まったばかりだもの」


 開発が始まったばかりって…工事してたのか?全然気付かなかった。


「それで…俺はここで何を?」

「校則違反をしたあなたから授業に参加する資格を剥奪。とりあえずはここの留置場にいてもらうわ」

「留置場!?なんだよそれ!これから用事があってすぐ帰らないといけないんだよ!」

「まさかあなた、午後の授業サボるつもりだったわけ?…救いようのない重罪人ね」


 それから牢屋に叩き込まれた。細い見た目のくせしてなんて力の持ち主なんだ…


「この雄豚!罪を犯した過去の自分を憎むことね」

「待ってくれ!ここは何なんだ!それだけ教えてくれ!」

「ここは…生徒会室を超えた生徒会要塞。やがて転点高校の最重要施設となる場所よ」


 生徒会要塞…なんだそれってリアクションしたいけど、今はそれどころじゃない。

 大丈夫だ、焦るな。俺がいなくたってナインとあの仲間たちなら魔獣は倒せる。そこら辺の心配はいらない。


 連絡を入れようにも荷物は全て没収されている。これは参ったな…


 牢屋には時計がなく、どれだけ経ったのか分からない。それでもしばらく待っていると、俺をここまで連れて来た女子がやって来て牢屋の扉を開けた。


「生徒会長との面会よ。覚悟しなさい」


 こいつとは話にならない。こうなったらその生徒会長に悪意がなかった事をしっかり伝えなければ。


 要塞の中を移動した。まだ完成していないというのにとても広く、一人だと迷ってしまいそうだ。


「生徒会室…」


 そう書かれた札の下には装飾のされた扉が。ボス部屋って感じだ。


 部屋の中はとても良い香りだった。そして何より…


 全員美少女だった。バッジを見るからに全員が生徒会役員だ…百合の園かここは?


「生徒会長、お連れしました」

「ありがとう。下がってくれて結構」


 生徒会長は黒髪ロングの巨乳。まさにエリートって感じの女子だ。


「黒金光太。君は違反をしてここに来たんだね。一体何をしてしまったんだい?」

「え…は、はい。その、悪い事だとは知らなかったんですど、A棟の屋上に出てしまって…ごめんなさい」


 とにかくまずは謝罪だ。一応、俺に非がないわけじゃないからな。


「悪気はなかったか。確かにA棟の屋上に出ては行けないという貼り紙がなかったからな。そこについては風紀委員の不手際と言えるだろう………しかし君、そこで誰かと会っていたようだね」


 生徒会長が提示したのはいくつかの写真だった。そこには俺、そしてナインの姿が写っていた…やっちまった。


「彼女はこの学校の生徒ではないが…何か知っているかな?」

「さあ?何も知りません」

「とぼけるな!」


 生徒会長ではなく、彼女のそばにいた女子に怒鳴られた。あの立ち位置からして副会長だな、こいつは。

 とにかくナインの事は話せない。ここはどうにかしてやり過ごさないと…


「それより生徒会ってどうなってるんです?この生徒会要塞とは一体?」

「全委員会は私、滝嶺(たきみね)飛鳥(あすか)が生徒会役員会会長に就任した直後に、生徒会の傘下になってもらったよ。全ての権力はここに集まっていると考えてくれ…生徒会要塞についての返答は控えさせてもらうよ」


 滅茶苦茶な選挙だったけど、確かに権力をそんな風に集中させられるのなら、なりたがる人間が過激になるのも無理ないかもしれない。


「話を戻そうか。この少女は、一体何者だ?」

「………言えません」

「そうか…手荒なやり方は嫌いだが、あれを持って来てくれ」


 生徒会長が頼んでしばらくすると、変わったデザインの椅子が運ばれてきた。

 ビリビリと音の聞こえるこれは…


「電気椅子だ。どうだ、凄いだろう?」

「待てえええい!どうしてたかが生徒会にこんな拷問器具が用意してあるんだよ!?」

「貴様!たかが生徒会と侮辱したな!その言葉、取り消して今すぐ椅子に座れ!」


 副会長に怒鳴られた俺は無理矢理椅子に座らされ、手足を革ベルトで固定された。そして椅子が本格稼働したことにより、全身で痛みを感じた。


「これから1分毎にパワーを上げていく。貴様がこの少女について何か1つでも話せば電気を止めてやろう」


 痛い…


「1分経過したぞ」


 …いや、あんまり痛くないな。ナインと一緒に入ったアイアンメイデンの方が痛かった。


「5分経過だ。我慢強さだけは優等生クラスの様だな」


 これじゃあ漏らす前に電気で焼き殺される…けどこの恐怖こそが彼女たちの狙いなんだ。


「1つ教えてやるよ…あいつは俺の友達だ!」

「フン…そんな情報では止められないな」


「校則を破る様な男の友達なんて…ロクな女じゃないでしょ」


 誰だ今喋ったやつ…ぶん殴りてぇ…


「うわあああああ!」

「悲鳴をあげたな。そろそろか」


 絶対言わない…!絶対に!




「副会長!そこまでにしてはどうでしょうか!」


 死ぬかと思ったその時、誰かが声をあげた。


「狼太郎…どうしてそう思った?」

「多分これ以上続けてもこいつは何も話しません。それに友達を守ろうとする彼が、悪い人には思えないからです!」

「…どうします、会長?」

「狼太郎が言うなら、信じても良いんじゃないか?…止めてやってくれ」


 痛みが止まった…電気椅子が止まったのか?


「狼太郎と会長に感謝するんだな」


 ベルトを外してくれているこいつは…男子か?なんだよ、生徒会は百合の園じゃなくてハーレムだったのか。


「立てるか黒金?」

「痛いのは慣れてる…」


 俺の名字を知ってるのか…もしかしてクラスメイトか?


「お前、名前は?」

萬名(よろずな)狼太郎(ろうたろう)。同じクラスだろ?…生徒会長、彼の違反、初めてなんだし見逃してあげませんか?きっと友達のその女の子も悪い人じゃないはずです」

「確かに、初犯の人間をここまで痛め付けるのはやり過ぎだったかもしれないな。黒金光太、今回だけは許すとしよう」


 友達…ナイン…そうだ。魔獣がこの世界に来てるんだった。こうしちゃいられない…


「許してくれるんだったらもう行くぞ…友達が待ってるからな」

「そんな身体で…少し休んでいったら?」


 そう言いながらも、狼太郎はカゴに置かれていた俺の荷物を持って来てくれた。


「あんがと…お礼に1つ教えてやるよ。今日は寄り道しないで真っ直ぐ帰った方が身のためだ…魔獣が出るぞ。ガオッて」

「魔獣が…」

「そうだ。怖いぞ~」

「…そんな不良は放っておけ。それよりも資料をまとめるのを手伝ってくれないか?」

「分かりました、副会長。それじゃあ気を付けて帰りなよ」

「じゃあな。荷物ありがとう」


 俺は痛みを耐えながらアパートへ戻った。しかしこの調子じゃ、俺はきっと足手纏いになるだろうな。


「悪い、遅くなった…」

「遅いよ光太!ってえええ!?大丈夫?」


 部屋には既に元同級生の姿があった。準備も万全みたいだし、これなら大丈夫だな…


「ちょっとこいつ、電気系の攻撃受けたみたいになってるわよ!」

「心臓の動きが変だ。こんな状態でよくここまで一人で帰って来れたな…」


 身長の高いジンに和室の布団まで連れて行かれ、そのまま苦い薬を飲まされた。


「状態異常に効くポーションだよ。魔獣は俺たちに任せて、今日はゆっくり休みな」

「うん…ごめん」


 魔獣の出現に備えて待機するナイン達は、俺に気を遣って静かに過ごしてくれた。

 静寂を得た和室の中で、俺はすぐ眠りについた。






 床、壁、天井の全てが真っ赤な通路に立っていた。

 ここはどこだ?俺はどうしてこんな場所にいる?


 不気味な空間から出たいが一心で俺は進み始めた。しばらくすると曲がり角だ。右へ曲がりさらに左へ曲がり、今度は分かれ道だった。


 クネクネしていたり分かれ道だったり、俺は迷路の中にいるのだろうか。でも一体どうしてだろう。


「うぇぇぇん…」


 泣き声がした。手前の道からだ。


 進んだ先には赤ちゃんが泣いていた。

 親はどこだ?とりあえず、ここに放置は出来ないよな。


「よしよし…」


 赤ちゃんを抱き上げると、俺は再び歩き始めた。


 しかし、どれだけ歩いてもこの赤い通路から出ることが出来ない。出口は一体どこにあるのだろうか。


「…ヒッ!」


 ちょうど角を曲がった時だった。そいつはそこで食事の真っ最中だった。


「ムシャムシャ…」


 食事と言っても駅前の定食屋でAセットを食べているんじゃない…床に倒れているスーツ姿の男に手を伸ばして…


 人の肉を食べていた。人の形をしているが、あのペンキで塗ったような赤い体…魔獣に違いない!どういう能力か分からないけど、俺はやつの狩り場に連れて来られたんだ!


 気付かれない内にここから離れよう…


「ヒック…ヒック…」


 おいおい…このタイミングでか?


「ウェェェェェン!」

「…俺も泣きてえよ」


 赤ちゃんが泣いて魔獣がこちらを向いた。その時、俺は目を合わせることなく走り出していた。


 地面を叩きつけるような足音が徐々に背後から近付いて来ている。捕まったら終わりだ。ナインは助けに来てくれないのか!?


「エェェェン!」


 この赤ちゃんさえいなければ、もっと速く走れるのに…!

 そんな事を俺が思ったからなのか、突然、身体が光になって赤ちゃんが消えてしまった!

 理由は分からないけど、これで走りやすくなった!


 俺の全速力に魔獣はついて来る事が出来なかった。走り続けてもうやつが追って来ていないのを確認してから、俺はようやく息を整える事が出来た。


「はぁ…はぁ…」


 きっと捕まったら俺も、あの男の人みたいに食べられていた。

 しかし赤ちゃんはどうなったんだ?突然消えてしまったけど…


「全く理解不能だ」


 はぁ…最悪だ…これが夢だったらなぁ…


 夢…


 そうだ。俺、ここに来る前に布団で眠ってたんだ。


「っていうことはここは夢の中か…?」


 魔獣に追われる夢を見てるのか…?けど違う。この疲労感は本物だ。眠った後、俺の意識だけがこの場所に連れて来られたんだ!


 そして脱出方法はある!さっき消えた赤ちゃんはきっと目を覚ましたんだ。俺も目を覚ませば…


 いやダメだ。魔獣は眠った人間を無差別に襲う。きっとさっき喰われてた人はもう…これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかない!

 能力が分かったなら、今度は誰か戦えるやつが来るまで時間を稼がないと!


「きゃああああ!」


 悲鳴が聞こえた。視線の先では魔獣がこの世界に迷い混んだばかりの人を襲おうとしていた。


「おいこのバカヤロウ!こっちだ!」


 叫び声をあげて挑発すると、気に障ったのかターゲットを俺に変えた。

 お前の足じゃ俺には追い付けない。こちらのペースで走りながら、どうにかしてナイン達に伝えなければ…


「おいナイン!ナイン!魔獣は夢の中にいる!眠れ!」


 とりあえず叫んでみた。これが寝言になれば、現実の皆に伝わる可能性はある!


「眠れ!ナイン!」

「寝たよ光太!」

「ナイン!?はえーなオイ!」


 本当にナインが来てくれた!こいつどんだけ寝付くの早いんだよ!


「まさか夢の中に魔獣がいるなんてね…僕がやっつけてやる!あっ…」

「まさか…」

「ごめん。バッグない…杖もない」


 使えねー!魔獣の餌を増やしてどうするんだよ!


「うーん…ここまでの流れ自体全て夢では?」

「んなわけあるかよ!クッソー!このまま何も出来ずに俺達喰われちまうのか!?」


 振り返った瞬間、赤い壁を突き破って誰かがやって来た。逃げていた俺達は突然の出来事に驚き、走るのをやめてしまった。


「な、なんだ…?」


 あれも…魔獣なのか?人の形をしているけど…全身がボサボサしてる。言い表すなら獣人ってやつだ。


「凄い…あいつから物凄い魔力を感じる」

「あいつも魔獣か?」

「分からない…けど強いよあいつ。一瞬、お兄ちゃんが来たのかって思っちゃった」


 そうなのか…俺には何がなんだかさっぱり分からないが。


「ガルゥ!」


 目の前に立つ獣人は唸ると、魔獣に立ち向かって行った。

 同じ人の形をしているのに、バトルスタイルは全く違う。

 魔獣が繰り出すパンチやキックがなんだか機械的なのに対して、獣人は野性的なスタイルで両手も地面に付けて四足歩行の生き物みたいに戦っていた。

 魔獣の攻撃を避けると、カウンターのキックからさらに魔力を帯びた手を使った引っ掻きが炸裂する。魔獣の胸には大きな傷が出来ていた。


「スゲーな…」


「ガオオオオ!ガツゥッ!」


 獣人が赤い魔獣の頭に噛み付いた。そして頭を力強く上に持ち上げ、魔獣の頭を引っこ抜いた。


「うひゃあー!」


 もう見てらんない!そう思いながらもチラチラ目を開けて、倒された魔獣の身体が消滅していくのを見届けた。


 そうして魔獣が倒されたのが原因なのか、この空間の崩壊が始まった。


「きっと空間が完全に崩壊したら全員の目が覚めるよ。これで一件落着だ」

「本当か?…ふぅ、誰だか知らないけど助かったよ」

「ガルル…」


 あれ、言葉通じてる?めっちゃ威嚇されてるんだけど…


「ナイン…ナイン!?」


 あいつもういねえ!?先に起きやがったな!


「ガウッ!」

「うわああああああ!」


 獣人に襲われる直前に俺は目を覚ました。相当怖かったのか、身体が起き上がっていた。


「はぁ…はぁ…」

「現実からの干渉を受けると目を覚ますみたいだね。ふあぁ~…魔獣倒したし、俺たちも帰ろうか」


 もう日が昇っている。ナインの元同級生達は眠そうにしながら、アノレカディアへと帰って行った。何しに来たんだあいつら。


 しかし…魔獣を倒したあいつは一体…?魔獣を倒したら今度は俺に襲い掛かって来たし、敵なのか?


「光太ごめん。起きるの遅かったから朝ご飯用意出来ない」

「大丈夫。それよりも魔獣を倒したあいつ、何者なんだ?」


 味方か敵か…結局何も分からないまま、俺は身体を起こして立ち上がった。

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