第2話 「このナイン・パロルートが引き受けましょう!」
トッテンカン鉱国の港は海賊船が来たと大騒ぎになったが、ここに着くまでに船長を勤めた新郎のエウィンさんが事情を話すとすぐに受け入れられた。
「この少女が助けてくれたんです。そういえば、パロルートって名乗ってましたよね?」
「パロルート…あの戦闘部隊の?」
「こんな女の子がいるなんて知らなかった」
「隊員9号のナイン・パロルートです!お見知りおきを!」
この国では僕に関して落ちこぼれという情報どころか、もはやその存在すら知られてなかったらしい。
マイナス評価で対応されるより全然いいけど。
「パロルートの方が来たという事はもう私達は怯えなくていいんですね!」
「え?」
「あの海域に近付いた船は海賊達のカモにされてて!強い冒険者を雇っても海底には行けないし、水中専門の魔族の方でも船長であるラカンには敵わなくて、どうしようもなかったんですよ!」
「あっ…」
「武器や装備、人員などはこちらで用意しましょう!」
こ、断れない!パロルートの名前に泥を塗れないのもそうだけど、何より凄い期待されて「帰ります」って言い出せる雰囲気じゃない!
「分かりました!ラカン・ダインシャ海賊団の壊滅、このナイン・パロルートが引き受けましょう!」
こうして僕は圧倒的な力の差がある海賊団壊滅クエストを受けてしまった。
かなり危険なクエストだけど、僕はパロルートの隊員なので、当然ながら報酬はない!
疲労していた僕はその後の時間を体力の回復に使った。この間に海賊団をやっつける作戦を考えないと…
そして次の日、協力者に作戦を伝えてから僕は船を1隻もらった。
「壊してしまうことになるかもしれませんが、そしたらごめんなさい」
「いいえ!あのにっくき海賊達を倒してくれるならもうぶち壊しちゃってください!」
作戦としてはまず、僕が何とかして海底のアジトへ潜ってそこを破壊する。そうすることで海坊主以外は海上戦を余儀なくされるはずだ。
そこを後からやって来るトッテンカンの海兵達が包囲。一気に叩き、団員達を捕まえる。
そして海坊主の相手は僕がする。力と体格では劣っているけど、あいつに効きそうな秘密兵器を用意した。これで勝てるはずだ。
「よいしょっと…ここら辺かな」
ちょうど真下にアジトがある海域で船を停止させる。箱眼鏡で水中を覗くと、僅かに海底から光を確認出来た。
それにしてもかなり深い位置にあるな…
アジトに辿り着くまでに迎撃を受けるだろう。それに僕の身体がどこまでの水圧に耐えられるか分からない。しかしやらなければ。
スーツに着替えてゴーグルを装着。道具の入った重いリュックを背負って、僕は静かに身体を海に沈めていった。
分かってはいたけど…怖い。足場はなく視界が悪い。沈むという感覚をこんなジックリと意識させられたことはこれまでに一度もなかった。
空の光が届かなくなり、どんどん視界が暗くなっていく。もしかしたらどこからか大きな魔物が僕を狙ってるんじゃないのか…
ヤバい…海面に上がろう!1日足らずで考えた作戦だから穴があり過ぎた!こんなの無謀だ!
「ウボォオ!?」
海上で吸ってきた空気を思わず吐き出してしまった!
頭が痛いし、ただでさえ悪い視界が歪んでいる…このままだと僕は…
「…ゴボッ?」
その時、身体の沈下速度が増した。背後から何かに押されているような感覚がある。
これは…背中とリュックの間に挟んだミラクル・ワンドだ!
不思議な力で今度は僕を目的地に連れて行こうとしている!
「ボボボボボボ!」
そのまま海底のアジトの外壁に激突!大穴を開けて、空気のある場所に押し込まれた!
「爆発だ!壁が崩れたぞ!水が入ってくる!」
「隔壁封鎖!念のためダイバースーツの着用を各員に伝えろ!」
隔壁封鎖だって!?せっかくここまで来たんだ!中に入らないとまた海に逆戻りだ!
「なんだあいつ!?」
「昨日のガキじゃねえか!」
壁が降りる前に安全地帯に侵入。その場に海賊達は顔面にパンチ1発ずつ入れてダウンさせた。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
死ぬかと思った。またミラクル・ワンドに助けられた。
もうここまでやれるならお前一人で海賊やっつけてくれよ…
息を整えて、アジト破壊用に持って来た爆弾を設置。ついでに海賊達が言っていたダイバースーツを着用した。
「ちょっと大きいな…ん?」
壁にダストシュートにしては大きな扉が付いている。どうやらここを滑って降りると、海面へ浮上する避難挺に行けるようだ。
「そ~れっ!」
倒した海賊達を避難挺へ送る。それから扉の横に付いているリモコンで挺を遠隔操縦し、海面へ発進させた。
海賊のアジトにしてはやけに充実した設備だな…これならなるべく多くの海賊を捕まえられるかもしれない。
「侵入者だ!昨日俺達の邪魔をしたガキだぞ!」
「アジト崩壊の恐れなし!ガキはブッ殺せー!」
「色んな人がお前らに迷惑してんだ!賊なんてくだらない事やめてさっさと出て行きやがれ!」
その時の僕が何を考えていたのか覚えていない。いや、何も考えていなかったのかもしれない。
異常を知らされて駆けつけた団員達を見て、何故か僕は突撃してしまった。先手を打った直後は優勢で、倒した海賊を次々と避難挺に乗せて追い出していったのだけれど、やはり数には敵わず敗北。
ボコボコに殴られた後で身体を鎖で縛られ、暗い部屋に投げ入れられた。