最終話 「今度は僕が」
ハザードドラゴンを倒した後、満身創痍だった僕達は残ったアイビスカスを使って身体を再生させた。
「王子、特殊弾がほとんどなくなってしまいました」
「今度取り寄せるからそれまでに欲しい弾リストに記入しといてよ」
僕の白滝は激しい戦いを乗り越えたというのに刃こぼれしていない。
ナインが使った白い石とは一体なんなんだ?
「ん?どうしたの?」
それだけじゃない。彼女を超人モードに変身させた時だ。ミラクル・ワンドと名付けられたつるはしから飛び出した光。あれが僕の白滝に入って来た途端、ナインと心が繋がって変身を可能にさせた。
光は戦いが終わって間もなくワンドに戻っていった。おそらく注目すべきはあの光。つるはしがバリアを発動したり飛んできたのも、あの光の力に違いない。
「ミラクル・ワンドから光が出てきたけどあれって何なの?」
「分からない。あんなの初めてだよ」
謎の多い能力だな。こういう場合は研究しておくべきなのに、黒金光太っていう人は何をやってるんだ。
傷が治っても疲労感は残ったまま。転移する分の魔力は残ってないし歩く気力がない。
「…よいっしょ」
僕よりも疲れているはずのナインが立ち上がり、つるはしを取りに岩塊を登った。
「そろそろ帰らないと…」
そうだった。ナインはこの国に住んでるんじゃない。助けを求めてくれたから来てくれただけなんだ。
「…ってそうだった!転送屋使えないんだっけ?また泳ぐのか~…」
「この国を襲撃した軍の人が入って来るかもしれないし、しばらくは国の出入りに制限を掛けるよう提案するよ」
そもそも、あの軍の襲撃さえなければ兄上はハザードドラゴンの復活を考えなかった。
あいつらは一体なんなんだ?何故この国を…
「…もう少しここに残って協力しようか?」
「兄上を止めてもらったし、ハザードドラゴンを倒してくれた。これ以上厄介かけるわけにはいかないよ」
本音を言うなら残って欲しい。友達がいてくれるのは心強いから。
「分かった。でも何かあったらまた呼んでね…そうだ、僕に届いたあの手紙!あれって誰に送ってもらったの?ゲートの場所は関係者以外知らないはずだよ」
「ネフィスティアの校長だよ。頼んだら快諾して、無事に届けてくれたみたいだね。サービスでシュラゼアに案内してくれる魔法も掛けてくれたみたいだし」
「あ~!あの人、生徒と卒業生には甘いからな~」
甘い…そうだ。後はあれをやっておかないと!
「ナイン、ちょっとしゃがんで頭をこっちに」
「えっ!?あっうん…」
「王子…」
近付いた顔が妙に赤い。熱でもあるのだろうか。
ナインの頭に手を乗せる。そして残ったアイビスカスの力を使って、解放した能力を再び封印した。
「えええええ!?なんで!なんでせっかくパワーアップしたのに弱くしてくれちゃってるのさ!」
「ギメを逃がしてハザードドラゴンの封印は解けた。そのドラゴンと戦う時にも自信過剰なまま挑んで負けそうになった。結果的に勝てたから良かったけど、パワーアップしたから勝てるなんて甘さがある君をそのままにはしておけない。よって潜在能力、封印!」
「よって!じゃないよ!僕これからどうすればいいのさ!」
「魔法の杖と超人モードがあるでしょ!」
「それはそうだけど…えぇ~!」
これでよし。いざって時には解放しよう。それまでに油断しない性格になってると良いけど。
駄々をこねていた彼女だったが、この話題が終わると背中を向けた。
このまま真っ直ぐ進めばミカミ山脈。その先の海岸から海に出れば、ラミルダ国に辿り着けるはずだ。
「ナイン!」
「ん?どうしたの?」
「今回は色々ありがとう!本当に世話になった!今度はジン達も連れて来てよ!」
「あぁ!勇敢な王子の親友がいること、皆にも思い出してもらわないとね!」
「今度は僕が君を助ける!何かあったら呼んでくれ!すぐに駆けつけるから!」
「その時が来たら頼りにさせてもらう!頑張ってね王子様!」
「君との約束はこの宝刀に誓おう!証であるこの白滝に!」
ナインの姿がどんどん小さくなっていき、やがて地平線に消えていった。
「…僕達も帰ろう。クー、肩を貸してくれないか?」
「えぇ。民があなたの帰りを待っています」
そして僕達もシュラゼアシティへ帰還。封印されていた厄災竜は、パロルートの少女との協力で撃破した事を伝えた。
表へ出して暗殺されるのを防ぐため、アヤトは地下牢に拘束された。執事だったギメ・アリの戦死を知らせてから無気力状態で、特に不穏な動きを見せる様子はない。
父上と母上は僕の提案を聞き入れ、未知の軍隊への警戒を高めた。シュラゼアの軍を強化し、出入りに制限が掛かった事で国民達から不満が相次いでいるが、やがて収まるだろう。
僕は次期王として勉強を続けながらアイビスカスの研究を始めた。品種改良をしていつかは、脳への副作用がない完璧な薬草にしたい。
「ナイン…お互い頑張ろうね」
次に会う時、お互いどれだけ成長しているかが楽しみだ。