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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
白刃の王子と忘却の絆
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第24話 完全燃焼

 ハクバが用意したアイビスカスのすり身も残り僅か。

 ナインは覚悟を決めると、再びドラゴンに立ち向かっていった。


「ハァアアア!」


 攻撃パターンは変わらず、休むことない連続攻撃(ラッシュ)。しかし先程と比べるとスピードは上がり、相手に防御を強要していた。


「どうして触れているのに災害が起こらない!」


 ドラゴンは対象に触れさえすればそこから災害を再現したダメージを発生させることが出来る。しかし何度攻撃を受け止めても、ナインの拳は平然としていた。


「そうか、お前!」


 小細工を見破られた!ナインは両手を同時に突き出し、そこから発生した風圧で距離を取った。


「拳でなくパンチの際に発生した風をぶつけていたのか…」


 もうこの手は通じない。ドラゴンの身体を軸に竜巻が発生。さらに竜巻は放電を起こす黒雲を旋回させている。

 風が通じないからと直接殴ろうとすれば、雷が起こり感電するという絶対防御となった。


「どうだ!これなら殴れないだろぉ!」

「…クーさん!弾を2つちょうだい!」

「通常弾でいいか?」


 ナインは何の能力もない弾を右手で包むように握った。


「そんな鉛弾で何するつもり?」

「能力に甘えてないで構えた方がいいぞ」


 そしてナインは右腕を力強く振り、2つの弾を進行方向に真っ直ぐ並べて発射。両方とも、クーのローズモカ22から発射された弾以上の速度だ。


「ぐふっ!?」


 能力で防御したつもりでいたドラゴンに1発命中。

 前方の弾がソニックブームを起こして竜巻に突入。邪魔になる物を全て吹き飛ばした直後、スリップストリームで加速した後方の弾が身体を貫通したのである。


「そこだ!」


 災害が吹き飛ばされた一点に狙いを定め、高速接近したハクバが白滝で貫いた。


「白滝の糸!」


 ノコギリで切るように刀を引くと、接触していた部位に模様のような傷跡が出来上がった。

 一見すると浅い傷にしか見えないが、ハクバの繰り出した白滝の糸は恐ろしい技だった。


「これくらいじゃ僕は…ッ!がああああああ!」

「白滝の糸は身体の内側に傷という糸を残す技。この糸はお前の攻撃するという意思に反応すると痛覚を発生させるぞ!」

「ああっあああ!…これしきの痛み…200年の封印に比べたらあああああ!」


 想像を絶する苦痛にも負けず、ドラゴンは両腕から雪を撒き散らして突進する。

 ナインは冷静を保ったまま、ハクバとクーを抱えてドラゴンと一定の距離を保つように移動した。


「あの糸ってダメージにはなるの?」

「痛覚を発生させているだけだから、あくまで精神面にしか…けれど硬い皮膚を持つあいつに弱点が出来上がった。あそこに爆発的な攻撃を加えて内部から崩壊させれば…」


 そうして作戦を立てているとドラゴンが足を止める。すると全身が黒ずみ、赤いラインが現れた。まるで溶岩が流れる火山のようだ。

 ドラゴンは両手を地面に付けて口を大きく開き、火山弾を発射する体勢に入った。


「攻撃が飛んで来るぞ」

「この距離なら多分大丈夫」


 そして火山弾を吐き出した瞬間、両手両足で身体を支えていたドラゴンの身体が大きく下がった。

 発射されたのは火山弾というよりも火山砲弾。ドラゴンの口どころかナインよりも大きな、質量を無視した火山弾が発射されたのだ。


(そんなのありかよ!?)


 ありえない攻撃を認識し、心で嘆く。防御しようにも二人を抱えてしまって腕は塞がっている。ハクバの剣やクーの特殊弾も間に合わない程のスピードだ。


(やられちまう!)


 しかし巨大な火山弾はナイン達に到達しなかった。


 ドォン!


「なんだ!?」


 突如、上空から飛来した物体が火山弾に直撃。岩塊が地面に埋まったことでナイン達は助かった。

 岩塊は地面に埋まる程の衝撃を受けたというのに、裂け目が現れるだけで砕け散ることはなかった。もしも砕けていたら、その飛び散った破片でナイン達はダメージを受けていただろう。


「な、なんだ…」

「見てよナイン。あの天辺(てっぺん)に突き刺さってるアレ。君のじゃないか?」



 ハクバが注目したのは突き刺さった飛来物。それはナインが武器として使っていたミラクル・ワンドだった。

 僅かに彼女の記憶を覗いたハクバは、これがあればナインが超人モードになれると知っている。


(超人モードになれたら…)

(あの力さえあれば…)


 二人とも考える事は同じだった。勝利のために力を欲した。


「なんだ…」


 ミラクル・ワンドから抜け出るように、1つの光が現れた。その光を脅威を感じたドラゴンが早速排除しようと攻撃する。しかし光は攻撃を避けながら、ハクバの元へ向かっていった。


「ナイン、これなに!?」

「分からない!こんなこと僕も初めてだ!」


 光はハクバを選んだ。彼の周囲とグルグルと回り、白滝に溶け込んでいった。


「ハクバの気持ちが伝わってくるよ!」

「これは…過去に君が光太って人と繋がっていた時と同じ感覚だ!」


 ミラクル・ワンドから白滝へ。未知の光が譲渡されたその時、ハクバの心と繋がったナインは奇跡を信じた。


「ハクバ!超人モードだ!」

「えっ?」

「記憶見たなら分かるでしょ!あれやるよ!」


 成功するかは分からない。しかしハクバには、絶対上手くいくというナインの自信が伝わってきた。潜在能力を解放した時のような過剰な物でなく、必ず勝てるという希望の自信だ。


「…分かった。やってみよう!」


 掲げた剣が光を放つ。これまでの白滝には見られなかった発光現象だ。


「燃え上がれ!ナイン!」

「おっしゃあ!超人モォオオオドッ!」


 ナインの全身が燃焼する。そして炎の力を操る超人モード烈火に変身した。

 全身の炎が激しく揺れる。今の超人モードには潜在能力も合わさり、これまで以上の力が溢れていた。


「ありえない!お前は黒金光太がいないと変身出来ないはずだ!」


 記憶以上のパワーを彼女から感じてドラゴンは怯える。それでも口を開くと、炎に有効打となる濁流に台風の勢いを乗せて放水した。

 この勢いの濁流を喰らえば炎が消えるのは当然の事、ナイン達の身体はグチャグチャに折れてしまう。


「ナイン、ポメラ達から薬を守った時の事、覚えてる?」


 ハクバが心を通じて語り掛ける。ナインはそれに対して、良い経験だったけどつらかったという感情を乗せて言葉を返した。


「ただ薬を貰いに行っただけなのに大変だったよね」




 ハクバがネフィスティアに入学して間もない頃、彼らの住む寮で病が流行った。

 それが人工的に作られたウィルスだと知る由はないのだが、感染しなかったナインとハクバはこの事を学園領にいた校長に相談。万能薬を貰って寮へ帰っていた。


 校長が作った万能薬。それだけで充分な価値がある薬を狙って、二人を見ていた生徒達が立ちはだかった。

 相手全員が魔法を得意としており、落ちこぼれのナインは勿論、近接戦闘タイプのハクバも多勢を相手に一方的にやられることになった。


 制服がボロボロになった頃、魔力を使い果たしたナインはバッグから新しい杖を出してハクバに渡した。

 炎を操るファイア・ワンドは確かに強力だ。しかし相手はレベルの高い魔法使い。ただ炎を出したところで、水や岩などの相性が良い魔法で止められてしまう。


「こっちは常時パワーアップしてるんだよ。お前の杖の魔法とはレベルが違うんだ!」


 相手にはポメラというバフなどの強化魔法を得意とする生徒がいた。彼によって他の生徒達は強化され、ますます炎は効かなくなってしまう。


「ハクバ、その薬を持って寮に帰るんだ!」


 彼らも治安の悪い黒領までは追って来ない。魔力切れのナインは折れた杖を振り回して、時間を稼ぐつもりだ。

 しかしハクバは逃げなかった。それどころか、ナインより前に出てレッスンを始めてしまった。


「いいかいナイン。アノレカディアにはこの学園で習わないことが沢山ある。テキストに載せきれなかった属性は勿論、今の僕達じゃ扱えない仙術とか」


 ナインを庇いながら戦っていたのでボロボロだ。しかしフラフラとしながらも、強くファイア・ワンドを握って意識を保っていた。


「本当の戦いじゃ多彩な相手にいちいち対策してる余裕はない。今だってそうだ。炎から氷の杖に変えたところですぐ有利な魔法を撃ってくる」

「じゃあどうするのさ!」

「今ある力で全てに打ち勝つ!心の力で勝つんだ!」

「なに言ってんのこいつ」

「気持ちだけで勝てたら苦労しねーよ」

「数でも能力でも劣ってるお前らが勝てるわけないだろ」


 唐突に謎理論を聴かされて敵は笑ったが、ハクバも笑っていた。降参するのではなく勝つつもりだ。


「見てなよナイン…ハァアアアアアアア!」


 そしてハクバの魔力を変換して生まれた炎が、不利な属性魔法と激突した。




 懐かしい記憶だ。その時のハクバの勇姿を思い出し、ナインは前方に火炎を放射。濁流と激突して大量の蒸気が発生した。


必勝の一撃(ソードマジック)!烈火!火炎王蛇(かえんおうじゃ)!」

「相性は最悪!そんな炎で僕の濁流を止められるはずがない!」


 しかし濁流はナイン達に届いていない。それどころか熱に負けて水分が蒸発していき、反対にドラゴンの方へ火炎が迫って来た。


「どういうことだ!?」


 ナインは右手からの放射に火炎を集中。濁流に押し勝った今、後はあのドラゴンを燃やしきるだけだ。


「僕達が負けたらシュラゼアはどうなる!薬を待ってた皆みたいに、日常に戻りたがってる人達がいるんだ!」

「だから相手がなんだろうと負けられないんだあああああああ!」

「今ある全ての力を!全力で撃ち出せえええええええ!」


 ハクバとクーに支えられ、ナインは出せる力を全て火炎に換えて放射。

 すると火炎が蛇のような形に変わり、必死に抗うドラゴンを飲み込んだのである。


「僕は厄災竜だったんだぞ!?災害の力を持ってるんだ!それなのに、それなのにこんな火炎放射ごときにィイイイイイ!?」


 ただ無情に引き起こされる災害とは違い、ナイン達の火炎には心の力が合わさっている!

 災害を起こす事を人格を持ったばかりのドラゴンでは敵うわけがないのだ!


「「「ダアアアアアアアアアアアアアアア!」」」


 そして蛇に飲み込まれたドラゴンの身体が遂に崩壊を始めた!災害を起こせたとしても所詮はドラゴン!魔族という生物である以上、炎には敵わない!


「ヌオオオオオオォォォォォ……………」


 ナイン達の攻撃を受け、ハザードドラゴンは塵一つ残らず消滅した。平原には広い範囲に焼け跡が残っている。

 そしてナインは炎を撃ち終えた時点で元の姿に戻り、焦げ臭い地面に倒れた。


「勝った…やったよ!みんな!」

「200年前の厄災竜に勝てるなんて…へへ」

「ウオオオオオオオオ!」


 薬を守り抜き、仲間達へ届けたあの日と同じだった。全力を出しきって勝利したハクバが倒れたように、今のナイン達も倒れて動けなくなっていた。

 しかし笑っていた。全力を出し切り、やるべきことを成し遂げたのだから。


 完全燃焼!ナイン達の完全勝利である!

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