第20話 「僕を倒せなかったわけだ」
ハクバに僕の潜在能力を解放してもらったけど…
これは凄いパワーだ。こんな力を持っていたなんて!
これならギメ婆さん相手にも闘える!
「小娘ェ…ナメてかかった事を後悔させてやる」
「誤魔化しても無駄だよ。特殊弾には気付いてる」
後頭部目掛けてカーブを描いて飛んできた特殊弾を掴み取る。どうやら効果は一度きりのようで、キャッチした時にはパチンコ弾に戻ってしまっていた。
「これならどうだ!」
ギメ婆さんがまた弾を投げる。それに狙いを定め、僕は手元のパチンコ弾を弾いて迎撃。途端に爆発が起こった。
今までの僕ではこんな芸当は出来なかったし、最初の不意打ちにも気付けなかった。
僕は最強になってしまった。そう錯覚する程パワーアップしたんだ!
「また爆発弾か。芸がないな…僕の杖の方がバリエーション豊富だぞ」
「そうか、ではその魔法の杖とやら、見せてはくれないかのぉ?」
「ない」
「オッホッホ!得物も無しでババアに挑もうとするとは!後悔させてやろう!ここで逃げなかったことを!」
「違う。必要ないって言ったんだよ。言葉の意味も読み取れないのか」
「なぬ…?」
先程まで傷だらけだったクーさんを見ると、僕と同じようにアイビスカスの力で再生されて、気を失った状態で倒れていた。
「やらせるか」
拳を勢いよく突き出し、そこから発生した突風で弾道を変えた。どんな能力を持っていたのか知らないけど、命中しなければ何の意味もない。
「後はこの装置で皆の記憶を…」
ドォン!
「しまった!」
「装置が!」
「ひゃはぁ!壊れてしまった物はまた造ればよい!」
僕やハクバ達ではなく、装置を狙った弾丸があった!それもバリアを貫通して鉄の塊を貫通する程の威力だなんて!
「投擲スキルで命中させたのじゃ。このババア、なにも弾の能力だけが全てじゃない。残念じゃったの」
「くっ…!ナイン、僕達は一度ここを離れる!ギメは任せたぞ!」
「装置が壊されたのにどうするのさ!」
「心配はいらない!まだ策はある!」
流石はハクバだ。装置が壊れるのも想定済み。一体ここからどうやって記憶を元に戻すのか楽しみだ。
「なら僕は婆さんを倒す!」
「任せたぞ!」
そしてクーさんを連れてハクバは転移。これで心置きなく闘える環境が出来上がった。
「勝てる相手だからって油断してしまった。保険を掛けてくれていたハクバには感謝しきれないな」
「勝てる相手だと…」
「分からないか。僕と婆さんは確かにパワーでは同等だ。しかし寄る年波には勝てない。お前はここまでの戦いで随分と体力を消耗した。だから僕には勝てない」
「楽に強くなっただけで偉っそうに…」
「大人しく捕まるなら手荒な真似はしない。それとも体力が回復するまでここで待っていてあげようか?」
「小娘ェ!」
婆さんが走り出した。さらに特殊弾を使って加速、凄いスピードで複数体の残像を作り出して接近して来る。
「本物はこいつだ」
その中から本体を見つけ出し、渾身の回し蹴りを命中させる。どうやらただ強くなっただけではなく、戦闘のセンスも向上したみたいだ。
「変わり身、間に合ってないよ」
「くぅぅっ!」
婆さんは力任せにパンチを繰り出す。僕は姿勢を低くして回避しながら、今度は彼女の胴に肘を打ち込んだ。
「ぐぉ!?」
「さらに!」
丁度いいところまで下がってきた顔面にパンチを打つ。そして婆さんの身体は大きくアーチを描いて吹き飛んだ。
「ぐぉおお!」
「気を付けなよ。もう壁も残ってないんだからさ」
「ぬう…キエエエエエッ!」
ギメ婆さんは奇声をあげた直後、パチンコ弾を取り出した。それで遠距離攻撃をしてくるのかと様子を見ていたら、婆さんは弾を全て飲み込んだのである。
「ゴクンッ!…今飲み込んだのは全部特殊弾だ。それも強化能力を持ったな」
婆さんは身体が3メートル近く大きくなっていく。腕や脚は丸太のように太くなり、明らかに攻撃力を上昇させたような姿へ変貌。
さらにその巨体のまま、浮遊したのである。
「小娘!飛び道具を持たないお前にババアを撃ち落とせるかのぉ!?筋力が増え、これから撃つ弾はこれまでとは比べ物にならないレベルの弾速!これを避けられるかぁ!」
「安心した。てっきり負けを認めて自害したのかと思ったよ」
「減らず口を!」
そして投げ飛ばされた16発の弾丸全てを片手でキャッチ。パワーアップしてから、弾丸はスローに見えるし身体は速く動くしでとても面白い。
力を試させてくれたお礼だ。こちらも面白い物を見せてやろう。
「見てろよ…フンッ!」
「な、小娘!浮遊出来るのか!?」
僕の身体はゆっくりと宙へ浮く。そして婆さんと目線が同じになる程の高さに到達した。
それにしても随分と離れていたんだな。そこまで警戒…いや、僕に怯えていたのか。
「浮遊魔法…いや!その羽根、キメラなのか!」
ハクバによって僕の身体は完全な状態に再生された。なので過去に別世界の月面で魔獣と戦った際に溶かされた羽根も元通り。しかもパワーアップした今、常人には見えないスピードで動く羽根で浮遊、さらには高速戦闘だって出来る気がする。
「キメラは神への冒涜じゃ!」
そうして叫んでいる間に攻撃を仕掛ける。一瞬にして婆さんの背後を取り、項を狙って手刀を打った。
「ウスノロ…」
姿勢が崩れたところに蹴りを入れて打ち上げ、さらに追撃を狙おうと上昇した。
「ぐぬおおおおお!?」
するとギメの姿が3つに増えた。また残像か。芸がないな。
「…ぐぁっ!」
違う!この殴られた感覚は本物だ!残像じゃなくて分身を作り出したのか!これも特殊弾なのか!?
「フンッ!」
しかし分身は脆く、それぞれ一撃ずつ与えると崩れていった。しかしこの間に婆さんの姿は消えていた。
まさか逃げたのか…
「クェッ!」
背後からの殺気に対して防御を構える。肥大化した拳を受け止めると、婆さんは驚いた顔を見せた。
「ギメ婆さん。どうやらここまでみたいだな」
「ハァッハァッ…なにを言うか!」
「今の一撃を止めて分かった。僕は婆さんに追い付いたんじゃない。追い抜いたんだって。それほどまでに力の差が出来てしまったわけだ。事実、セコいパチンコ弾を何度使っても僕を倒せなかったわけだ」
大した事ない相手だ。こんな人に僕達は一方的にやられていたのか。少し前の自分を恥ずかしく思うよ。
「クーさん!!!技を借りるよぉっ!!!!」
拳を押し返し、怯んだ瞬間に踵落としを打ち込む。そして勢いよく地上へ向かっていく婆さんに身体を向けて、その場に停滞した状態で何度も拳を前へ突き出した。
「うぐぅ!?うおあああああ!!!」
右拳を突き出したことにより発生した突風が命中。さらに左拳からの突風と、それを繰り返して風圧のマシンガンを浴びせた。
そして婆さんが地上に到達したのを確認し、蹴りの姿勢を作ってそのまま降下した。
「サイレントコンボ!最後の一撃!百ノ弾!」
ダンジョンのボスと戦っていたクーさんが6発の特殊弾で敵を倒した必殺技サイレントコンボ。
僕のはそれを優に越えた風の弾99発と僕自身を弾として合計100発!
「必殺!百撃弾!」
ドオオオオオオオオン!
地面が割れ、装置が置いてあった塔が崩れる。少しやり過ぎてしまったようだ。
もう少し手加減してやるべきだったな。
「さて、城の瓦礫を墓石代わりに婆さんを埋葬してやるか………ハッ!?」
おかしいぞ!踏み潰しているはずの足元にギメ婆さんの姿がない!あるのはハクバの攻撃を受けた時に変わり身として使われた岩だ!
いつから入れ替わっていた!?いや、それよりもギメ婆さんはどこへ行った!魔力を全く感じられないし、この場に気配を感じない!
「まさか…しまった!」
あの人は逃げたんじゃない!アヤトの執事として役目を果たしに行ったんだ!急いでハクバ達の元へ行かないと大変なことになる!