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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
白刃の王子と忘却の絆
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第18話 老婆の実力

 ナイン達は星術室へ続く通路を走る。そして大きな扉を蹴破ると、巨大な機械が置かれた広い部屋に飛び込んだ。

 機械の前にはアヤトの執事である老婆ギメ・アリがクーと同じ戦闘服を着て立っていた。


「凄い殺気だ…!」

「あの格好、クーさんと同じだ!」

「ギメさん!その機械から離れろ!そうすれば僕達は手荒な真似をしなくて済む!」


 ギメは返事をすることなく腰からマグナム銃を抜いた。彼女に会話をする意思はない。王子であるハクバすら殺すつもりだ。


「手加減できる相手じゃない。アイビスカスを使う。ナイン、クー。一瞬だけでいいから隙を作ってくれ」

「だってさ。頑張ろうか、クーさん」

「あぁ!」


 そして二人が駆け出した瞬間、ギメはクーに向けて2発放った。


(この弾は追尾弾か)


 2発の追尾弾を左腕で受けながらも、速度を落とさず突進。そこから格闘戦に移行した。

 しかし年老いているにも関わらずギメは速い。クーの攻撃を軽く避けると反撃。逆に彼女がダメージを受ける。さらに背後から振り下ろされたナインのワンドを軽々と掴んでは、そのまま二人を衝突させた。


「ごめんっ!」

「構うな!攻撃を続けろ!」


 ナインはミラクル・ワンドを手放して立ち上がり、右腕と両足でギメにひたすら攻撃した。


(全然当たんねえ!こりゃあ左腕があったところで大して変わらないぞ!?)

「オリャア!」


 雄叫びと共にチョップが振り下ろされる。ギメは身体を反らすという僅かな動きで回避すると、右の肘と膝を使って挟撃。右腕の義肢を破壊してしまった。


「ペッ!」


 ギメの顔に向かってナインが唾を吐いた。避けなくても良いがやっぱり触れたくはない。一瞬気を取られた彼女はクーを見逃していた。


(殺す!)


 義肢が砕けた直後、特に鋭利な破片を掴んだクーはそのまま首筋目掛けて逆手突きを繰り出した!


「ヌォッ!」


 破片は首に突き刺さる。そう、ほんの僅かな先端部分だけが。


「首の筋肉で破片を止めた!?」


 反撃を予知したクーはナインを掴んで乱暴に放り投げた。

 その直後、ギメの繰り出した拳がクーの腹の一部を抉り落としたのだった。


「武術じゃよ」

「クーさん!」


 怯んだナインにギメの銃口が向けられる。そしてこの瞬間、最大の好機が訪れた。


(しら)…」


 離れた場所で隙を伺っていたハクバが地面を一蹴り。僅か0.5秒にしてギメのそばまで接近した。


(たき)…」


 そしてマグナムを持った右手を切り落とし、そのまま胴体へ刀を振る。


(じま)!王花乱舞!」


 白滝縞。それは一度の斬撃に見える超絶連続攻撃である。喰らったギメは気付いているが、ハクバは最初の一撃で切り裂いた部分に高速で何度も刀を振るったのである。

 当然、そんな無茶な動きをすれば身体が保たない。そんな彼の肩から手先に掛けて、アイビスカスのエネルギーが付着して腕を治していた。

 白滝縞はアイビスカスとの併用を前提に編み出された連続攻撃なのだ。


 花弁の形をしたエネルギーはクーにも触れており、抉れた腹は既に回復を始めていた。


「…ギメ、あなたには呼吸を除く身体の機能の働かせ方を忘れてもらった。大人しくしていてもらおうか」

「王子!それはギメではありません!変わり身です!」

「なにっ!?」


 ハクバが斬ったのは老婆ではなく、普通の剣なら刃が折れるような硬い岩である。当然ながら切り落としたはずの右手も別の物へと置き換わっていた。


「少しヒヤヒヤしたわい」


 ギメの本体はどこか。探しに行こうにも三人は迂闊に動けず、一ヵ所に集まって辺りを警戒するしかなかった。

 両腕を失ったナインはそれでも立ち上がった。脚だけでも戦うつもりだ。


「…そこだっ!」


 ナインは角でギメの魔力を探知。そして足元に落ちていた義腕の破片を、天井の星座に蹴り上げた。

 破片は周囲の景色と一体化していた布を貫通。布はヒラヒラと落ちていき、天井にギメの姿が現れた。


「やりおるの。ではこちらも…」


 ギメは人差し指と中指の間に小さな球を挟んでいた。


「このババアはそこの小娘のように銃は使わん。加工済みのパチンコ弾。これがあればいい!」


 1球、物凄い速さで投擲されてナイン達の足元に着弾。すると爆発を起こした。


「うわっ!?」

「ナイン!」


 星座の描かれた天井は吹っ飛び、壁は崩れて落ちていく。記憶を書き換える装置はバリアで守られていた。


 ハクバは床に白滝を突き刺して、クーを抱いて爆風に耐えた。しかし両腕を失ったナインはそのまま外へ放り出されてしまった。




「滑空ぐらいは出来るよな!?」


 着ていた服の背中側が破けて、虫のような羽根が現れる。ナインはその羽根で滑空し、窓から城に飛び込んだ。


「早く戻らないと!」


 すぐに窓から飛び出して正面の壁へ。そこからさらに別の壁へと脚力だけで移り渡り、塔の渡り廊下へ戻った。

 そしてエレベーターで上がった星術室で目にしたのは、ギメの拳がハクバの身体を貫く瞬間だった。


「王子!?」

「ババアの実力、思い知ったかあああ!」


 ハクバは投げ捨てられ、それを見たクーは逆上してギメに猛攻を仕掛けた。


「ハクバ…ハクバァ!」


 彼は気を失っていて自分で回復が出来ない。さらに両腕のないナインではポーチからアイビスカスの入った瓶すら取り出せない。


「クーさん!」


 クーを呼び戻そうにもこの時点で既に劣勢。ギメの攻撃を防ぐので手一杯だ。


「…クッソオオオオ!」


 自分の力不足に対しての怒りを叫ぶと、ナインはクーの元へ加勢に行った。

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