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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
白刃の王子と忘却の絆
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第17話 「兄上では僕に勝てない」

 ナインとクーを連れ、僕は記憶を改変する装置が移された星術室へ急ぐ。

 星術室とは星に関係する能力を強化させる部屋である。ドーム型の部屋の天井には神秘の力を持つ星座が描かれており、先程倒したサーヴァンのような者をパワーアップさせる事が出来るのだ。


「星か…」

「クーさん、どうかしたの?」

「以前王子から話を聞かされたことがある。別の世界には宇宙という空間が存在し、地上から見れる星は全て、恒星という自ら光る星だと」

「その通り。僕はね、一回だけ宇宙に行った事あるんだ!…その時は全然楽しむ余裕なかったけど」


 ナインとクーはこんな状況でも雑談をしている。僕もこれくれいの余裕で進まなければ。


「ハァッハァッ」


 そんな二人に比べて僕は喋る余裕がなく息が切れそうだ。兄上が乱心するまでは王子としての職務ばかりで、椅子に貼り付いている毎日だったから仕方ないと言えるが。


「このアノレカディアは無限に広がっている。そして地面から空。その空には星が見えるが…では空と星の間には一体なにがあるのだろうな」

「この世界に宇宙はないもんね…確かに何があるのか気になる」


 最上部に星術室がある塔。そこへ繋がる渡り廊下の前まで辿り着いた。


「やっぱりここまで来たか」

「兄上…」


 しかしただで通れるわけがない。そこには剣を抜いた第一王子アヤトが待ち構えていたのだ。


「愚策ですね。兵士達をここに来るまでの道に等間隔で配備して体力を削り、消耗した相手をここで討つべきだと思います…それに兄上一人では僕達を止められない」

「笑わせるなよ。俺に一度も勝てたことないくせに」


 瓶の入ったポーチの位置を直し、そして宝刀白滝を両手で握る。片手持ちである兄上と同じ王子ではあるが、僕の構えはネフィスティアで学んだ異国の物だ。


「ナイン、クー。下がっていてくれ」


 道は狭く、足を滑らせたら地上まで真っ逆さまだ。この場合は一人の方が戦いので、消耗させないためにもナイン達は城内で待機させた。

 僅かな静寂の直後、こちらから攻撃を仕掛ける。

 急接近し正面へから切ると騙し、飛び上がって頭部を狙った。しかし頭部に命中した刀は、まるで硬い物とぶつかったかのように弾かれた。


「魔法で防御力を上げているのか…」

「イミデモデルカ…」


 兄上の魔法剣技が来る!ここまで接近してしまった上に身体は空中、防御するしかない!


「サシャメミヤ!」


 突きを防御して刺傷は避けた。それでも衝撃が殺しきれず、骨が何本か折れてしまった。

 僕の身体が一本道から離れていく。しかし刃先を側面に突き刺して落下を回避。すぐに復帰したが、兄上の姿がどこにもなかった。


「イミデモデルカ・モデルターン!」


 空中から高速回転した兄上が突撃。横へ跳ねることで回避したが、兄上の攻撃で渡り廊下が破壊されてしまった。

 そのまま落ちていくかと思ったが、回転の勢いを弱めることなく、そのまま上昇して戻って来た。


「白滝川!」

「イミデモデルカ・テアワン!」


 互いに高速の一撃を繰り出し、そしてぶつかり合う。

 パワーは同等…いや、魔法で強化されている兄上の方が強い!


「どうした!アイビスカスは使わないのか!」

「しかしパワーだけ…兄上では僕に勝てない」

「チッ!イミデモデルカ・サヴァンブ!」


 空中に浮遊するように、魔力で構築された2本の腕が生成される。しかも大剣のおまけ付きだ。

 一度刃を離して距離を取ろうとするが、先程の攻撃で引き下がる道がない。


 こうなったら次の技で勝負を決める!


「兄上…峰打ちでは済みませんよ!」

「速と剛の二刀流奥義を受けてみろ!イミデモデルカ・ダストワルツ!」


 大剣を持った腕が兄上を中心に回転斬りを放つ。そして本体は突きを構えている。本気で僕を殺すつもりだ。

 やはり兄上の剣技は魔法に頼り過ぎている。

 剣を振る必要がないのでは、それは剣術などではなくただの魔法だ!


白滝(しらたき)()!」


 刀を鞘の位置まで引く。そして兄上の攻撃を待つ。白滝つ瀬は二度の攻撃で相手を倒す必殺の奥義である。


「喰らええええええ!」

「今だ!」


 一撃目。振り上げた白滝が横から迫る大剣を砕いた。


「俺のサヴァンブが破れた!?」

「切り裂く!」


 そして二撃目。正面から迫って来た兄上の突きを回避。がら空きの胴に剣を振り上げた。


「無駄だ!俺の魔法のバリアで──」

「白滝はそのバリアすら断つ!」


 刃が正しく向いていれば、頑強なバリアですら断つ事が出来る。それが僕の宝刀白滝なのだ。


「そ、そんな…」


 刃には大量の血が付着。背後で兄上が倒れる音を聴いて、刀を鞘に戻した。


「やりましたね王子!」

「スッゲー!」

「…うん」


 あまりいい気分はしなかった。斬ったのが兄でなくとも、この感覚に変わりはないだろう。

 やはり戦いとは気分が悪くなる行いだ。


「うぅ…俺は…国を思って…」

「アイビスカスは使いません。しかし手当てはさせてもらいます」


 魔法の糸で傷口を縫ってから包帯を巻いた。

 そして城の地下牢へ転送した。あそこではあらゆる能力が封じられるので、脱獄する事も出来ないだろう。

 記憶を書き換える装置までは後少しだ。


「星術室の高さからアイビスカスのエネルギーをばら撒けば、ちょうど国全体の記憶に干渉できる計算だ。だから到着したらまずは、星座の天井を降ろして部屋を開放した状態にしなければならない」

「それって時間掛かりそう?」

「2分ほどってところかな」


 兵士達は全員ノックアウト。そしてアヤトも撃破した。


「ギメ・アリ…あの人は装置を守ってるはずだ」

「避けては通れない強敵ってわけね…クーさん、武器無しで戦える?」

「王子が戦っている時にシバルツを探索へ出した。運が良ければ戦っている途中に私の装備を持って来てくれるだろう」


 クーは武器がなく、ナインはアイビスカスによる再生を拒んで左腕がない。アイビスカスで骨折は治したけど、僕も兄上との戦いで体力を消耗して万全の状態とは言えない。

 だがここまで来たならやるしかない!僕達には今、追い風が吹いている!


 僕達が乗ったエレベーターは星術室へ上がり始めた。

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