第16話 立ちはだかる城壁
城の前まで近付いて来たナイン一向。しかしそんな彼女達は驚くべき光景を目の当たりにした。
「な、なんだ!?」
大地震かと疑うような揺れの後、突如地面が隆起。隆起した部分は形を変え、まるで城壁のように高くそびえ立ち、ナイン達の行く手を阻んだのである。
「兄上め、厄介なやつらを出してきたな」
「おいグラル!ウォール建てるなら事前に言えって!」
「悪い悪い。久しぶりの襲撃だから張り切っちゃって」
「二人とも、サポートの準備は出来ています。安心して戦ってください」
頑強そうな中年とナインよりも若い少年。それとスプレーガンを握った少女の三人が立ちはだかった。
「こいつらは一体!?」
「防壁建築家のグラルとメテオラセイバーのサーヴァン。それとポーションヒーラーのソフィア。城にいる兵士達の中でも腕が立つ人達で、その鉄壁っぷりから城壁の三銃士なんて呼ばれてたりする。手強いぞ」
その名前を聞くからに、ただで通れるとは思えないナイン。クーが構えハクバが白滝を抜く。ナインもミラクル・ワンドを構え、戦う意思を見せた。
「なんだあの片腕なし!グラルの壁を掘るつもりか?バッカみてぇ!」
「ヨイショオオオ!」
ナインはワンドを振りかざして壁へ突撃。すると至るところから突出している砲台が彼女の方を向いて弾を発射した。
「当たらないよ!」
「ヴリケット!」
サーヴァンが呪文を唱えると、彼の周囲に4つの衛星が現れた。指で指示すると衛星はナインを包囲。小さな砲門が彼女に向けられた。
「なんだ!?」
「ファイア!」
衛星から光線が放たれる。攻撃に対して反応が遅れたナインをクーが救い出した。
「あの衛星はサーヴァンのファーストスペルによるものだ!普通の魔法とは考えない方がいい!」
「ファーストスペルだって!?」
ファーストスペルは使用者の潜在能力だ。それも衛星という珍しい能力である。
抱えられながら、ナインはすぐに作戦を立てクーに耳打ちした。
「…これでどう?」
「分かった。行ってこい!」
衛星を振り切ろうとしていたクーは足を止めてナインを投げ飛ばす。狙った先は三銃士の立つ防壁の頂上だ。
「こっちに来る!集まれ!そしてバリア!」
壁の大砲は地上のクーを狙い攻撃し、ナインにはノーマークだ。
サーヴァンはクーを襲わせていた4つの衛星を呼び戻した。衛星は彼の正面へ並び、指示された通りにバリアを展開した。
「白滝口!」
しかし、既に壁を登り切っていたハクバが背後から刀を振り下ろした!
「いつの間に!?」
ハクバは戦闘開始時、突撃するナインに注目が集まっている間に瓶を開けた。そしてアイビスカスのエネルギーで仲間を含めた全員から、この場に自分がいるという記憶を消し去ったのである。
背後から斬られたサーヴァンは血を噴いて落ちていく。しかしソフィアが放ったポーションの霧を浴びると傷が治り、空中で姿勢を直して見事に着地した。
「てめぇ!調子に乗ってんじゃねえぞ!」
周囲に残っていた衛星がハクバを襲う。動きにパターンなどがなく、常に不規則な位置からの光線を避けなければならない。
それに構わずグラルに近付こうとするが、二人の間に壁が現れて道を塞いだ。
「ほらほら!俺を倒さないとお仲間が焼き切れるぜ!」
クーは衛星を止めようと、必死になってサーヴァン本体に格闘戦を挑む。しかしこの魔法使い、中々の勘を持っているようで素早く繰り出される拳を見事に避けていた。
「それにしてもその格好!なんで王家直轄の忍者が賊の味方してるんだ!?」
バコォン!と背後から頭部目掛けて、ミラクル・ワンドが振り下ろされる。衝撃で気を失ったサーヴァンが倒れる前に、ナインは身体を持ち上げて壁に向かって走った。
「酷い!サーヴァンさんを盾にするなんて!」
ソフィアが銃座につくと、彼女の意思に従って壁中の兵器がクーに集中放火を浴びせる。
そして衛星による妨害が止んだハクバはグラルとの一騎討ちに臨んでいた。
「子どものくせにやるじゃないの。おじさんビックリだ」
(せっかくこの距離まで近付けたのに、瓶を取り出す隙をくれない!)
記憶さえ戻せればグラルを仲間に出来る。しかし相手は本気だ。そんな事をさせてくれるわけもなく、ハクバは倒すことを決意した。
「厄介な防御力だ!」
次々と出現する壁を一振で切り崩し、少しずつ敵へ近付く。そして攻撃の射程距離へ入った時、背後からの異様な気配に気が付いた。
「なにっ!?」
「ほいっお疲れ様」
グラルは一瞬にして造り上げた塹壕へ飛び込む。そしてハクバの背後に並んでいた大量の火器が一斉に火を噴いた!
「ハクバァ!」
「王子!」
爆発に飲み込まれたハクバはどうなったのか。クーは無理をして壁を駆け上がり、忌まわしきグラルと対峙した。
「真実を知らないうつけ者が!」
「気の強そうな子だねぇ。今夜暇?」
足元から生えたアームがクーを拘束。塹壕から顔を見せているグラルは残ったナインを覗き穴から探していた。
「こっちにいない…こっちにもいないとなると…」
「ほら、しっかりして」
「助か…た」
人知れずソフィアを倒したナインは、傷を癒すポーションとスプレーガンを奪っていた。そしてグラルがクーに気を取られている間に、ハクバの治療を終わらせていたのだ。
回復したハクバはすぐに立ち上がり、ナインを探すグラルに急接近して技を打つ。
「白滝川!」
そして決着は刹那、高速で接近したハクバによる峰打ちが炸裂。グラルは白目を向いて倒れた。
「よし、先を急ごう」
三銃士を打ち倒し、ハクバ達は城へ突入。しかし城内では既に無数の兵士達が彼らを討とうと待ち構えていた。
「王子から攻撃の許可は降りている!全員──」
「シバルツ!三蛟だ!」
だがそこへ蛟の姿となったシバルツが襲来。兵士達を一網打尽にし、彼女達が通る道を作った。
「ハクバ!装置はどこにあるんだ!」
「地下の隠し部屋だ!」
「いいえ!装置は星術室に移されていました!おそらく、周りの国にも洗脳を及ぼすつもりです!」
「兄上め、国を守るためにそこまでするつもりか!」
彼らは階段を駆け昇り、記憶を書き換える装置がある部屋を目指した。