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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
白刃の王子と忘却の絆
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第15話 「さっきの花びらなに!?」

 ログハウスに戻ったハクバは摘んだ花を磨り潰し、並べてある空の瓶に移すという作業をしていた。

 一方、僕は工具を借りて義肢の修理の真っ最中だった。


「ナインさん、この機会に腕や足を再生されてはどうですか?副作用で記憶が消えても、ハクバならすぐに戻すことができますよ」

「お気遣い感謝します。けど、作戦で必要になるアイビスカスの薬は最終手段として残しておきたいんです」


 一時的とはいえ記憶が消えるのは寂しい。

 それにこの手足を治して帰ったら、治そうと付き合ってくれた光太にどんな反応されるか…

 台所の包丁でぶっ断たれて元通りにされるかもしれない。


 左腕の義肢は完全に壊れてしまった。なので両足と右手、そしてミラクル・ワンドを武器に戦うことになる。


「あなたはつるはしで戦うのですか?」

「これはつるはしなんかじゃありません!今まで幾度となく窮地を救って逆転勝利に導いてくれた、その名もミラクル・ワンドです!」


 本来の使い手がいないわけだし、今回ばっかりは何も起こさないだろうけど。


 陽動を担当する国王と王妃は先にシュラゼアシティへ準備に行った。これから30分後、二人が暴れている間に僕とハクバは城へ突入。アヤトを倒して記憶を元通りにする。


「ナイン、ギメ・アリには会った?」

「うん。アヤトの執事みたいな人だよね」

「気付いていると思うけどあの人は強い。城の兵士が束になっても敵わない相手だ。戦うのは僕と君、そしてクーが揃ってから。もし遭遇してしまったら逃げてね」

「あの人も洗脳されてるの?」

「洗脳される前からアヤト一筋の人だったよ。だから記憶を直したところで敵として立ちふさがることに変わりはない」


 ギメは気配を悟らせずに僕の背後を取った。きっと暗殺者が選びそうなスキルを備えているはずだ。戦闘も強いとなると、こっちから奇襲を仕掛けて倒すべきだな。


 ハクバは花を磨り潰した物が詰まった瓶をアイテムポーチに収納。準備が完了したかと思えば、突然抜刀して天井に掲げた。


「この刀の名は白滝(しらたき)。いつからか僕と共に王への試練()を歩んできた」


 ずいぶんと美味しそうな名前の刀だな…


「この宝刀に誓おう!僕はシュラゼアを愛す王子として、乱心された兄上を捕らえ国を元に戻す!」

「なら僕はナイン・パロルートの名前に懸けて誓う!友達とその国を助けるため、この戦いに絶対勝利するぞ!」


 僕も右腕を掲げて勝利を誓った。




 王妃達が出発して30分後、ハクバの転移魔法でシュラゼアシティの中でも特に人のいないエリアへ出た。


「なんだここ…」

「初代王ワナビィが王様になる前、アイビスカスの研究をするのに使ってた地下室だよ。もう何も残ってないけどね。それでこの上は…」


 階段を上がって紐を引くと、道を塞いでいた物体が動いて光が差す。そしてなんと、僕達が出たのはシュラゼアシティの墓地だったんだ。

 ワナビィとだけ書かれた墓石はしばらくすると、元の位置に戻って地下室への階段を隠した。動いた痕跡が残らないのが実に不思議だ。


 石畳の道を辿って墓地を出る。そして僕達は目指地である城へ走った。




「城の近くとかじゃ駄目だったの?」

「向こうはきっと僕とナインが接触したと考えて警備を強化しているはず。それこそ城の中に転移して、兵士に囲まれたら一溜りもないよ」


 しばらくして僕達は違和感を覚えた。ここまでの道で全く人を見かけることがなかった。それに先に出た王妃達が暴れているにしては街全体が静か過ぎる。

 そして城の近くまで来たところで、それらの理由がようやく判明した。


「クーさんだ!」


 街の広場に大勢の人が集まって何かを見ていた。彼らの正面には真っ直ぐな磔台が立っており、そこには僕を逃がしてアヤトと戦ったクーさんが(はりつけ)にされていた。

 しかもあの磔台、嫌な仕掛けが施されているぞ。逃げようとすれば拘束具が縮んでダメージを与えるんだ!


「どうしよう!?」

「ナイン、磔台からクーは救出できる?」

「魔法でダメージを増加させてる分、あの拘束具は外部からの衝撃に弱いはず…出来るよ」

「そうしたらそのまま直進。あの黄色い屋根の建物を曲がった路地で合流しよう」

「でも兵士とか連れてきちゃうと思うけど…」


 ハクバは会話を切り上げると、人混みの中に紛れて先へ進んだ。

 きっと何か策があるのだろう。彼を信じて、早速クーさんを救出するとしよう。




「きゃあ!」

「なんだなんだ?」

「押すなよ!」

「ビャアアアアアアア!」

「「「変人だああああああ!」」」


 僕は奇声をあげて磔台に走る。兵士達は驚いていたがすぐに武器を構えた。


「お前!それ以上近付くな!」


 槍や剣、あらゆる武器を避けて台にジャンプ!


 そしてミラクル・ワンドで拘束具を叩き壊し、彼女を抱えて合流地点の路地に走った。


「すまない、武器を奪われた。シバルツは城に潜伏させている」

「心配ないよ!」


 そうして路地に隠れるが、兵士達がぞろぞろと流れ込んで来た。


「ハクバ!クーさん連れて来たよ!」

「お、王子!?」

白滝壺(しらたきつぼ)王花乱舞(おうからんぶ)!」


 パラパラパラと花びらが…いや、アイビスカスの花びらの形をしたエネルギーが、頭上から落ちてくる。

 それが鎧に触れた途端、兵士達は次々に武器を落として辺りをキョロキョロと見渡した。


「あれ?なんで俺達こんなところに…」

「えっと…何やってたんだっけ?」


 今まで僕達を捕まえようとしていた兵士達が、いきなりそんなことを言い出した。


「この花弁は…」

「触れない方がいい。このまま奥に進んでくれ」


 クーさんに案内されて先に進んだところでハクバと合流。彼は空になった瓶をポーチに入れたところだった。


「申し訳ありません王子。独断でアヤトの暗殺に乗り込んだ上に失敗。磔にされてしまい、挙げ句の果てには助けられてしまうなんて…」

「暗殺の件については後々叱らせてもらうけど無事で良かった」


 クーさんの救出は出来たけど…


「ハクバ、さっきの花びらなに!?」

「誘い込んだ相手を一網打尽にする剣技白滝壺。それとエネルギーに変換されたアイビスカスを操る王花乱舞。その二つを合わせた白滝壺・王花乱舞だよ。花びらの形をしたエネルギーに触れた相手は離れていても記憶を弄る事が出来るんだ。それで兵士達からはクー達を追跡した記憶を消したってわけ。多分磔台の周りは今頃大騒ぎなんじゃないかな」


 凄い…記憶ってそんな簡単に書き換えられるものなんだ。


 息を整えていたところで、磔台のあった広場の方がだんだん騒がしくなってきた。磔台から女がいなくなっただけでなく、外交に出ていたはずの王妃と国王が乱心したかの如く暴れているんだ。しばらくはそっちに集中する事になるだろう。


「それじゃあクーも救出できたし、城に急ごう。アヤトを止めないと!」

「あぁ!」

「御意!」


 第二王子を偽るアヤト達を倒して、早く記憶を元通りにしないと!

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