第13話 「あのハクバ王子は偽物!」
狩りを終えた僕達は王子の転位魔法でシュラゼアシティに戻って来た。
護衛の役割があって偽ハクバから離れられないのがつらい…彼は何者なんだ?影武者?映画でありがちな王子と入れ替わった庶民の誰か?
これまでの振る舞いを見ていた僕は、前よりも警戒感が強まっていた。
「はぁ…」
味方がいないのがつらい。この状況じゃ誰か呼ぶことも出来ないしなぁ…
「どうしたナイン。王子のそばで溜め息とは、兵士や従者だったら処罰の対象だぞ」
「護衛してやってるんだから別にいいでしょ」
主人より弱い護衛がこの世界のどこにいる。今の僕じゃこいつの足元にも及ばないくせに。
魔法の杖さえあれば…超人モードにさえなれたら…そんな風に頭の中でタラレバが繰り返された。
僕以外の護衛を追い払って、偽王子は書庫でハザードドラゴンに関する情報を集めている。復活の可能性はなくなったが、万が一のために調べているようだ。
かなり熱心に本を読んでいて、最初の頃は窓から差す光で明るかったが、今ではずいぶんと暗くなってしまった。
「灯り点けるね」
「あぁ、頼む」
壁に付いたボタンを押して電灯が点く。
退屈になってきたし、僕も何か読もうかな…
「何か探してるのか?」
「いや、暇だし本を…」
「暇って…一応俺の護衛中だぞ。ほら、これでも読んでろ」
そうして本棚から抜かれたのは薄っぺらい絵本だった。
くっ…ガキ扱いしやがって!
「栗太郎…」
栗から生まれた産まれた栗太郎は誕生直後、罪を犯した。それは自分が入っていた栗のイガで、自分を守ってくれていた柿婆さんを殺してしまったのだ。
産まれたことが罪ならば生きることが罰。栗太郎が罪を犯すという事の重さを背負って一生懸命生きていく任侠モノだ。
懐かしいなぁ…何度も読み聞かせてもらったからよく覚えてるぞ。
そうやって過去の思い出に浸ろうとした瞬間、プツッと灯りが消えた。
「貴様ァ!」
「今度こそ!」
そしてハクバと昨晩の暗殺者の怒号と共に、ガギィン!という衝撃音が響き渡る。ドミノのように倒れていく本棚を避けると、二人が戦い始めていた。
「ナイン、お前も戦え!ギメのやつはまだか…!」
「う、うん!」
戦えって言われても武器がない。あたふたしている間にも二人の戦いは続く。ノーブハイランドを振るハクバに対し、暗殺者は長身のバトルサプレッサーで刃を弾き、隙を狙って発砲。それをハクバは魔法で防御した。
ドガァン!
何かが壁を壊して書庫の中に。二人は思わず距離を取って、宙に浮遊する物体を見つめていた。
「あれは…」
「ツルハシ…?」
光太からお守りとして渡されたミラクル・ワンドだ!もしかして僕の危機を察知して飛んできてくれたのか!?
「来い!」
手を掲げると杖は僕の元へ。
腕を伸ばして掴もうとすると、暗殺者が僕に発砲。しかし向かってる弾丸はミラクル・ワンドの力によって発生するバリアで全て無力化され、ポトポトと地面へ落ちていった。
武器が来てくれたのは良かった。だけど手で持った感覚で分かる。
僕一人では超人モードにはなれない!バリアを発動するのも後一度だけだ!
「ボサッとするな!」
「しまった!」
急接近した暗殺者に顎を蹴り上げられ、身体が宙に浮かぶ。そして背中を掴まれたような感覚と共に急上昇し、天井を突き破った。
また特殊な弾を使ったんだ!それを推力に場所を移すつもりだ!
最後の天井を突き破り、僕達は最上部にある三角屋根の上へ出る。僕を投げ捨てると、暗殺者は弾倉を交換した。
「待って!クーさん!あのハクバ王子は偽物!そうでしょ!?」
「…何を根拠にそう思った」
「ハクバから届いた手紙に書いてあったんだ!必ず来てくれると信じている。だから僕はこの名に相応しい宝刀と共に君を待とう。って!ハクバっていう名前に相応しい宝刀なら刃が白くあるべきだ!そうでしょ!」
銃口は倒れた僕に向いたままだ。これでもまだ、僕が命惜しさに口合わせしてると疑ってるのか。
「王家の花畑!唯一アイビスカスが咲いているそこに本物のハクバはいるんだろ!?」
すると遂に銃口が僕から外れて、クーさんは顔を隠していた仮面を外した。
「味方だと認識して良いんだな」
「僕は昔ハクバの友達…だったらしいよ。その頃の記憶はないけど」
早速、本物のハクバがいる場所へ案内して欲しい。そう頼んだが、王家の花畑に辿り着くにはアイビスカスの血を引く者の協力が必要だと言われた。
「次に太陽が昇る時、このメモに記された場所で王女に会える。王子が救援を要請したナイン・パロルートであることを伝えれば案内してもらえるだろ」
「あれ?でも王妃は外交でいないんじゃ…危ない!」
咄嗟に叫んでその場から動くと、剣と魔法を合わせた一撃が放たれる。
ボロボロになった三角屋根には僕とクーさん、そして偽ハクバが立っていた。
「ナイン、お前はその場所へ向かえ!」
「行かせねえよ!」
偽ハクバが再び攻撃を繰り出す。クーさんはバトルサプレッサーで攻撃を弾き、銃口を突き付けて発砲。しかし魔法の力を前に銃弾は無力だった。
「第一王子アヤト・アイビスカス!全てはこいつが仕組んだことだ!」
「第一王子って死んでたんじゃないのかよ!?」
もう何がなんだか訳が分からない!とにかくクーさんに加勢しないと!
「ってそんな!?」
左腕の義肢がぶっ壊れてる!今の攻撃を避けきれていなかったのか!
「行け!ナイン!」
「うん!」
このメモに記された場所に行ってどうなるのか分からない。
けどここで何も出来ないまま殺されるなら、王妃に会ってやる!
そして第二王子と偽っていた第一王子をクーさんに任せて、メモに記された場所へ全力疾走した。