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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
白刃の王子と忘却の絆
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第11話 「アンチエイジング?」

 僕を背負っているクーさんが、ダンジョンのボスを撃破したことで現れた宝箱を開いた。

 ちなみに僕は彼女と背中合わせの状態で背負われているので、何が入ってるの見えない…っていうか壁に貼り付いたままのシバルツがずっと僕を見ている。


「クーさん、シバルツ戻さなくていいの?…宝箱の中身なんだった?」

「官能小説だこれ…」

「中身なに~?」

「あ!いや何でもない。巻物が入っていただけだ」


 巻物…あの仙人が使ってた技のやり方でも書いてあるのかな?仙術か…興味あるな。


「それちょうだい!」

「ここまで連れて来てやったのを忘れたか。礼として貰っておく」


 巻物をポーチに入れた後に、シバルツもクーさんの皮膚に戻っていった。


「ダンジョンを出るぞ」


 少し声色が低くなった気がした。クーさんが光っている魔法陣に足を乗せると身体がフワリと浮き上がる。

 そうして僕達はオモデミネの空洞の外まで戻って来た。


「空洞がなくなってるよ。クリアしたら消滅するタイプのダンジョンだったんだね」

「双流、義肢を返す」


 クーさんは僕を仰向けに降ろした。それから僕の義肢が入った収納弾を4発、それぞれ繋がっていた場所に撃って元に戻してくれた。


「凄い!着弾させただけでちゃんと動かせるようになってる!ありがとう!」

「あぁ。それじゃあ私は人探しを再開させてもらうとしよう。気を付けて帰れよ」


 そうしてお礼をする時間もくれず、クーさんは消えるように去って行ってしまった。

 日が暮れてしまった。僕も城に戻るとしよう。




 湿原の橋を疾走し、野生の魔物達が凶暴化する前に急いでシュラゼアシティへ帰還した。

 すると何やら街が騒がしかった。


「何かあったんですか?」

「いや昼間ね、ハクバ王子が命を狙われたのよ。食事中に銃弾が飛んできたってね」

「ハクバが!?無事なの!?」

「お側にいたギメ様がそれをキャッチしてね、無事だったのは良かったんだけど…それに怒り狂った王子が犯人捜しを始めたのよ」


 街の至るところに兵士達の姿があり、聴き込み調査をしている。


「おやナイン様。戻られたのですね」

「事情は聴きました。命を狙われるってあの王子様、何やったんですか?」


 まあ生意気なやつだし、憎んでる人の一人や二人いるだろうな~…


「ようナイン、いいタイミングで戻って来た」


 話題になっていたハクバが現れた。凄く機嫌が悪そうだ。


「お前には犯人が見つかるまでの間、俺の護衛をしていてもらう」

「ハァ?」


 思わず全然可愛らしくない凄い声が出ちゃった。


「いや、ハザードドラゴンに備えて強くならないといけないんだけど」

「それに関してはもういい。昼間、資料を漁ってたらな…」


 僕がクーさんに背負われてダンジョンを進んでいた頃、ハクバはハザードドラゴンについて調べていた。古い資料を読み漁り対策を練ろうとしていたところ、ハザードドラゴンの封印を解くには、とある条件を満たした者が必要らしく…


「その条件はハザードドラゴンの姿を記録媒体などではなく直接その瞳で見た記憶を持っていること。この大陸の住民全員を調べたが、200年前から暮らしているやつはいなかった」


 だとしたら…もうハザードドラゴンに警戒する必要はないってこと?だったら良いんだけど…


「それでお前には護衛を頼みたい」

「えぇ、僕帰りたいんだけど」

「…そうかそうか、お前はパロルートなのに救う人間を選ぶんだな。残念だ」

「それは…」

「知ってるぞ。戦闘部隊パロルートは力の限り少しでも多くの人を助けるって。だけどお前は違うんだな。まあ、ネフィスティアで落ちこぼれだっただけあるな」


 こ、こいつ…痛い所突いてくるなぁ。


「分かったよ!それじゃあ君の護衛と、ハザードドラゴンの封印を解こうとしてたやつと君を暗殺しようとしたやつの確保!これだけやったら帰るからね!」

「それは助かるな。ありがとう、心から感謝するよ」


 チクショ~!ごめんね光太、まだシュラゼアから帰れそうにないよ…


 その晩から僕の目的は変わり、周りの兵士達を真似て街の人達に聴き込みを行った。

 しかし怪しい人物の目撃情報などは得られず、何の収穫もないまま城に戻って来た。


「おかえりなさいませナイン様。夜分遅くまでお疲れ様です」

「夕飯は済ませて来ました。お風呂ってまだ温かいですか?」




 浴場の天井には天使達が舞う青空が。それと壁には美しい森林が描かれている。

 浴槽は泉のような形をしていて、その周りには土の感触を再現した特殊な床が造られていた。


「ふぅ~…」


 溜まっているお湯は魔法で温度が維持されていて温かく気持ちがいい。


「時間も遅いから誰もいない…僕で最後かな?」


 お風呂も久しぶりだ。海を渡り始めてから数日間、僕はとても不衛生だった。

 何か病気になってないか心配だな…


「…あら?」


 ボーッと壁画を並べていると、緑色の木々が並んでいる中に1輪だけ白い花が咲いていた。気になった僕は浴槽を出て、その絵に近付いて観察した。


「うわ~本物みたいだ…凄い上手な絵」

「それはアイビスカスじゃな」

「うぎゃあああああああ!?」


 あああああああ!? 

 ビ、ビックリした~!後ろから声を掛けられたんだけど、それまで全く気配を感じなかったぞ…


「えっと…ギメさん、でしたっけ?ハクバの付き人の」

「あい。ギメです」

「ナインです…」


 自己紹介を終えた途端、すぐに沈黙が戻ってきた。

 ババアと話すような話題が()えー!ハクバの執事って感じでこの人にもあんま良い印象ないしな~…もう上がるか。


「その花はアイビスカス。この大陸のどこかに咲いている薬草じゃ」

「アイビスカス…ってハクバの苗字だよね?何か関係があるの?」

「博識であるこのババアでも深くは知らんが…アイビスカスの花を発見、栽培に成功したのが、ここがシュラゼアと呼ばれる前、初代王になる以前のワナビィ・アイビスカス様であり、その苗字が付けられたそうじゃ」

「へぇ~…」


 お婆さん顔シワッシワだな~…耕した畑みたいな感じ。僕もこーなるのかな~…嫌だなぁ。


「お主、全く関係ない事考えてるじゃろ」

「いえいえ全然!そんなことよりそのアイビスカスって薬草の効果は?アンチエイジング?」

「そうじゃの~こんなダートみたいなババアの顔がフローリングみたいにって違うわボケ!そのピンポン玉みたいなメンタマでゲートゴルフしちゃるぞ!?再生じゃ!」

「再生…欠損部分を再生出来るの!?」

「あぁ。お主の四肢のようなのは勿論、失った臓器すらも瞬時に治せるという強力な力を持っておったそうじゃ。初代王はこの花でシュラゼアを医療国にしようとしたそうじゃが…」


 ギメ婆さんはその先を言い淀んだ。アイビスカスで身体を治せるかもと思ったけど、その望みは薄そうだな。


「後に発見された副作用があまりにも酷いものでな?結局アイビスカスに関するプロジェクトは凍結。情報は揉み消され、今現在ではこの国のどこかにある王家の花畑にしか咲いていないのじゃ」

「副作用って…?」

「アイビスカスが持っている再生の力は脳まで届いてしまう。脳を再生させると言うと聞こえは良いが、その再生力が強すぎるあまり記憶を消してしまうそうなんじゃ」


 記憶消去だって!?それは危ないなぁ…


「治せなくて残念じゃのぉ~」

「思い出を失くしてまで手足を取り戻そうとは思いませんよ」


 王家の花畑…ハクバなら知ってるかな。  


「僕上がりますね。ごゆっくり」

「それにしても誰がこんな所に花を描いたんじゃろうなぁ?」


 僕は風呂を上がって、ハクバの部屋の前まで来た。これから約3時間、交代の人が来るまでここで護衛の勤めを果たすぞ。


「いや~ん!」

「うっふ~ん!」


 最悪だ…中からエッチな声が聴こえる…ハクバめ、刺客が来ても守ってやらんぞ…


「逞しいわ~王子様!」


 光太ほどじゃないでしょ…


「チャーミングなお腹ね王子様!」


 それ褒めてるのか…?


「お命頂戴!偽王子!」

「まてえええええええええええええい!?」


 「お命頂戴!」という言葉が聞こえた瞬間、僕は壁に掛かっていたサーベルを取って扉を蹴破った。


「お前か!ハザードドラゴン復活を企んだのは!…えっ」


 仮面を付けた暗殺者がハクバに銃を向けている。黒くて素肌を隠しているようだが、僕はその銃に見覚えがあった。


 ローズモカ22…クーさんが使っていたのと同じ銃だ!

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