第7話 「黙るもんか!」
「毎度あり~!」
義肢を新しく買うか修理してもらうかという問題について。
まず、新しく買うにはお金が足りなかった。今の有り金だと指3本しか用意してもらえないのだ。
では修理はと言うと、僕にしか出来ないと分かった。この国には魔力で動く義肢の専門家が誰一人としていなかったんだ。
そういうわけで、素材屋で修理に必要な物を購入した僕は作業が出来る場所を探して街を歩いている。
慎重な作業もあるので、落ち着ける場所がいいけど…
「ここでいいかな…いっか」
そうして妥協し、中心に建つ城から随分離れた公園に決めた。幸いにも今は僕以外誰もいない。
ブルーシートを引いて必要な道具を並べる。まずは両足の義足から。どんな風に欠損しているかと言うと、神回舞い降りる○のフリ○ダムに斬られたデ○エルとほぼ同じ状態。
魔獣が溢した体液で溶かされそうになって、あれはつらかった…咄嗟に足を捨てる判断が出来たのはマジ良プレーだと思う。
「なんだこのベチャッてしてるの…」
特に足首の部分に異物が溜まってるな…これは少し時間が掛かるぞ。
細い針を使い、狭い場所に挟まった塵を取り除いていく。その後に力強く息を吹き掛けて、残った異物を払った。
拡大鏡メガネを付けて見えたのは。小さく彫られた魔術式。使用者から流れてきた魔力に含まれた意思を受け取って、この間接部は可動する仕組みだ。
けれど針を使った作業で傷が付いてしまって、これではちゃんと機能しない。
そこで素材屋で購入したイシヤマトビの血の出番だ。硬い石を主食とするイシヤマトビの血は空気に触れてしばらくすると硬化する。
これで式を一度埋めてから、また新しく魔術式を刻むんだ。
ペタペタ…
付属のスプーンを使って式を塗り潰す。少し待つと血が固まるので、そこに新しく魔術式を彫ることで修理は完了となる。
そんな風に神経を磨り減らすような細かい作業を続けた。特に腕を直す時には片手しか使えないので、途中で心が折れそうになったりもした。
それでも僕は義肢の修理をやり遂げた。
「出来たー!」
「ただいまの時刻は午後5時。良い子の皆さん、寄り道しないで真っ直ぐお家に帰りましょう」
って時報じゃん!手足直してたら日が暮れちゃったよ!夜だとシティの外に生息する魔物達は凶暴化するだろうなぁ…杖のない僕で敵うかどうか…
「おかえりなさいませ、ナイン・パロルート様」
鍛練は明日からにして今日はもう休もう。三日も泳ぎ続けて今日ようやく着いたんだ。これ以上無理したら本当に死んじゃうよ。
「どこか休める部屋はありますか?」
「ハクバ様の御指示を受けて部屋を用意してあります。このままお休みになられますか?」
「もう疲れちゃったのでそうしますね」
メイドさんに案内してもらった部屋には大きなベッドがあったので、思わずリュックを降ろして飛び込んだ。
「柔らか~い!」
毎日敷布団の生活だったからな~!たまにはこういうのも悪くないな!
「あのさ光太~………いないんだった」
どうしよう。この義肢は外して寝ないと起きた時に痛いんだよな…でも起きた後に一人で付けるのも手間なんだよな…
「ゴーゲゴッゴー!」
そうして悩んでいる内に眠っていたようで、鳥の鳴き声で目覚めた時には酷い痛みに襲われた。
昨日洗濯した服に着替えて部屋を出る。すると従者達が慌ただしく廊下を走り回っていた。
「おはようございます。何かあったんですか?」
「もうまもなくハクバ様がお目覚めになられるので、お世話の準備をしているところです。では、失礼します」
声を掛けたメイドさんの表情から余裕を感じられなかった。いくら主に仕えて働くからといって、そこまで緊張するものだろうか。
少し怪しく感じたので、そのお世話の様子とやらを盗み見ることにした。
「ふわぁ~…よく寝た」
数分前、誰もいない隙を見てハクバの部屋に潜入。ベッドには彼以外にセクシーな格好をした女性達が眠っていた。
「おい邪魔だ、起きろ。早く着替えて風呂の用意をするんだ」
昨晩お世話になったであろう人達をベッドから蹴落として、ハクバは着替え始めた。さらけ出された上半身は若干ポッチャリとしていて、あまり褒められる物じゃない。
「…フンッ…ホッ…ヤッ!」
ハクバは鏡の前に立って、お腹を引っ込めるとポーズを取った。
そうして満足した様子の彼はバスローブを羽織って部屋を出ていった。僕も音を立てないよう、物陰から出てその後を追う。
次に向かったのは大きな浴場だ。着たばかりの服を雑に脱ぎ捨て、従者達が待つ浴場へ入って行った。
待っていた女性は全員若い人ばかりで、何故か裸だった。
それ以上先の光景を見る必要は感じられず、僕は逃げるように脱衣場を出た。
偶然通り掛かった従者が押しているワゴンには朝食が並んでいた。僕はその後ろを歩いてさりげなく食堂に入った。
しばらくすると、朝の入浴を終えたハクバが食堂に現れた。
「おぉ、早いな。遅くまで勉強してたら寝坊してしまってな」
嘘つけ…朝風呂だけでも一時間近く掛かってる。並んだ食事はもう冷めてるぞ。
「…おい、この食事冷めてるぞ!コックのバカを呼べ!」
そしてやって来たコックは、背後に立つ老婆にピストルを突き付けられていた。僕が思わず立ち上がると、兵士から武器を向けられた。
「どういうことだ…誰が冷めた飯を食べたいって言った!」
「す、すいません!王子の入浴がここまで長引くとは──」
「あぁ!?自分のミスを人のせいにするのか?しかも雇用主になぁ?」
「そのくらいでやめとけよ!大体飯が冷めたのは君が遅かったから──」
「うるせえ!黙って──」
「黙るもんか!」
このままだとあいつ、あの老婆に撃てって命令するに決まってる!
「ご飯が冷めたから怒鳴るなんて王子のやることじゃない!最低だ!」
「…チッ。ギメ、そいつは地下牢に放り込んでおけ」
「あい分かりました…その無礼な魔族の小娘はいかがいたしましょう?」
「マナーが悪くとも俺の客だ。見逃してくれ」
ひとまず、あのコックさんの身の安全は確保出来たな。
「おいナイン。忠告しておくぞ。俺は王子だ。その王子のやり方に文句を付けるようなら…消すぞ」
そうして最低なイベントを終えて、ようやく一日が始まった気がした。